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「バズる」見出しで拡散が2.4倍に…ニュース4,410本の分析から判明した方法とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「バズる」見出しで拡散が2.4倍に…ニュース4,410本の分析から判明した方法とは?

独デュースブルク・エッセン大学などのチームが6月29日、米科学誌「プロスワン」にそんな研究結果を発表している。

「バズる」見出しなどのクリック目当て(クリックベイト)の表現は、ソーシャルメディアでコンテンツの拡散を後押しし、フェイクニュース氾濫の原動力として批判の対象となってきた。

一方では、ニュースメディアがアクセス獲得のために「バズり見出し」などの手法を取り入れるケースも増加。ニュースメディアの信頼度の低下に拍車をかける、との指摘も出ている。

だが、「バズり見出し」は実際にどんな効果があるのか?

米英の代表的10メディアのフェイスブック投稿を分析したところ、意外な結果が見えてきたという。

●「!!!」「!?」の効果

最も強い効果が見られたのは、[バズり]特有の強調が使われた見出しで、強調がない場合と比べて55.0%多いリアクションがあった。しかし、特有の強調が使われた投稿テキストは、統計的に有意なマイナス効果(21.5%減少)を示した。また[バズりの]常套句でも、見出し(25.9%減少)と投稿テキスト(統計的に有意な効果なし)で効果に差が出た。

独デュースブルク・エッセン大学博士課程のアナ・カタリナ・ユング氏らのチームは、6月29日に「プロスワン」に発表した研究でそう指摘した。

誇張や煽りなどを含む「バズり」を狙った表現は、「クリックベイト(クリック稼ぎ)」と呼ばれ、物議を醸してきた。

「バズり特有の強調」とは「!!!」「!?」といった感嘆符や「EXCLUSIVE(スクープ)」などすべて大文字を使った強調表現を指す。また「バズりの常套句」とは、「衝撃の(this will blow your mind)」など、インパクトを強める目的で多用されてきた表現だ。

ユング氏らが調査したのは、「タブロイド」と分類したデイリー・メール、デイリー・ミラー、ハフポスト、ニューヨーク・ポスト、タイムと、「高級紙」と分類したガーディアン、テレグラフ、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストの米英10メディア。

ハフポストを除く9メディアは、いずれも創業100年を超す老舗活字メディアだ。後述のように、「バズり」見出しなどの表現は、デジタル移行を加速する老舗メディアにも深く浸透している。

これらのメディアが2017年11月27日から12月3日までの1週間に、フェイスブックで行った投稿4,410件を対象に、その投稿のテキストとコンテンツの見出しに使われた「バズり」表現と、投稿から1週間で獲得した「いいね」などのリアクション数、共有数、コメント数の関連を調べた。

すると、従来考えられてきた傾向とは違う、いくつかの特徴が見えてきたという。

●見出しの長さの効果

その一つが「!!!」「!?」といった「バズり」特有の強調表現をコンテンツの見出しに使ったケースだった。これらの強調表現を使うと、リアクション数は1.7倍、共有数は2.4倍、コメント数も2.3倍となった。

だが同じような強調表現を投稿のテキストに使うと、逆に「いいね」などのリアクション数、共有数が減少した。

「信じられない(you won’t believe)」「衝撃の」などの「バズりの常套句」は、従来の研究では「効果あり」とされてきた。

だが、今回の研究ではこれらを見出しに使うと、4分の1程度の減少(リアクション数で-25.9%、共有数で-30.4%、コメント数で-24.2%)となり、逆効果だった。一方で、投稿テキストに使ったケースでは、共有数では41.3%の増加となったが、リアクション数とコメント数では有意な影響は確認できなかった。

「動画(video)」「秘密(secret)」「理由(reason)」「暴露(reveal)」といった、「バズり」に多用される特徴的なキーワードについても分析した。

これらのキーワードは見出しでは共有数、コメント数にマイナスの影響が出る一方、投稿テキストの場合には、プラスの効果があった。

見出しの長さについても、従来の研究では長い(言葉の数が多い)方がユーザーの目を引く、とされてきた。代表的なのが英国のタブロイド、デイリー・メールの見出しだ。

だが今回の分析では、見出しの長さを2倍にした場合、リアクション数、共有数では有意な影響はなく、コメント数はむしろ23.7%の減少になった。

そして投稿テキストでは、長い(言葉の数が2倍)方がリアクション数、共有数、コメント数いずれもプラスの影響があった。

見出しや投稿テキストに質問を含んだ場合、ユーザーのリアクションなどの効果が期待できる、とされてきた。

クイズなどのスタイルを得意とする米バズフィードの事例がよく知られる。

※参照:「ドレスの色」がネットのトラフィックを沸騰させ、バズフィード(とブランド)が笑う(02/28/2015 新聞紙学的

だが今回の分析では、むしろマイナスの効果が見られた。

見出しは長すぎず、強調記号(!!!)は効果的だが、常套句や質問スタイルはNG――そんな結果が見えてくる。

この研究ではフェイスブックのAPIからのデータ取得を行っているが、メディアの投稿に対するユーザーのクリック数のデータは入手できなかった、としている。

●「バズり」の攻防

「バズり」見出しをめぐっては、2010年代のネットメディアバブルを通じて、一つの焦点となってきた。

※参照:バイラルメディアの見出しを分析する:その9つの法則(07/13/2014 新聞紙学的

特に「バズり」見出しで拡散を狙うバイラルメディアと、その抑え込み図るフェイスブックとの攻防繰り返されてきた。

※参照:フェイスブックが“正しい見出し”を決める(08/21/2016 新聞紙学的

また、「バズり」見出しは当初、バイラルメディアの独壇場だった。だが、既存のニュースメディアがウェブ展開を本格化させ、競争圧力にさらされる中でこの手法を取り入れ、「バイラルメディア化」との懸念も指摘される。

ミシシッピ大学とオクラホマ大学のチームが2017年に公表した研究では、153のメディアによる167万件のフェイスブック投稿のうち、既存メディアの33.54%に「バズり」見出しがあったのに対し、信頼性の低いメディアではその割合は39.26%。既存メディアにも深く浸透していることが明らかにされていた。

今回の分析は、このような「バズり」の手法を、行動経済学の「ナッジ(促し)」のように、ユーザーを政治や国際ニュースなど、接触率の高くないハードニュースへ誘導する工夫として活用することを提言する。

ただ今回の研究データが5年前、2017年末のものである点に注意も必要だ。

前述のように、特にフェイスブックは「バズり」見出し排除のためにアルゴリズム変更を繰り返している。

2018年初めには、ニュースそのものの表示優先度を下げるアルゴリズム変更まで実施した。

※参照:フェイスブックがニュースを排除する:2018年、メディアのサバイバルプラン(01/13/2018 新聞紙学的

さらに、同年3月に発覚した8,700万件のユーザーデータ不正利用をめぐる「ケンブリッジ・アナリティカ問題」を経て、研究目的を含むデータアクセスが厳しく制限される状況なった

だが、それらの状況を踏まえても、「バズり」の手法に一定の効果が認められることも、確かなようだ。

そしてフェイクニュースの氾濫の中で、特に信頼のおけるハードニュースへのユーザーの接触率を引き上げる取り組みが、切実に必要とされていることも間違いない。

(※2022年7月1日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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