玉谷製麵所なら叶えてくれる―そんな会社を目指して/有限会社玉谷製麵所 玉谷貴子さん
「雪の結晶」「さくら」「将棋の駒」「ブルーインパルス」…。ユニークな形のショートパスタを生み出し、話題となっている山形県西川町に暖簾を構える玉谷製麵所。専務の玉谷貴子さんは、「お客さまからの要望に応えたい。ただ応えるだけでは面白くない」と、常にチャレンジングな日々を送っています―。
理系女子が、製麺所の跡継ぎに
新潟県出身で、岩手大学農学部出身。大学では、医学部・理学部系の研究室で細胞の免疫学を研究をしていたという才女です。
「簡単にいうと、ウイルスが侵入してきたときに、そのウイルスを攻撃せよという指令を出す酵素たんぱく質の研究です。主人は、同じ研究室の先輩だったんです。一番怖くて、一番嫌いな先輩でした(笑)。でも、すごく研究者として優秀で、何にでも一生懸命な人でした」。
結婚を機に西川町に移住。
「まさか自分が製麺所に嫁ぐとは思っていませんでした。でも、私の父も食品工場を営んでいて、お盆休みもなにもないのを経験していましたので、商売の家というのは特に抵抗はなかったです。入社して初めての仕事は、通信販売の注文をお客さまから受けつけることでした」。
日本の麺だけではダメだ
先代が下した英断
時代の流れを受け、ゆでずにサッと食べられる「流水麺」などが台頭すると、玉谷製麵所の戦力商品であるひやむぎなどの売り上げが大きく落ち込みます。すると、ある日義父である会長が役員会議の席で「パスタマシンを買ったから」と報告しました。
「このまま日本の麺をつくっているだけでは、この先はないだろうとの判断だったようです。私ども夫婦はもちろんですが、常務である義母も何も知らされていなかったようで。本当に驚きました」。
搬入されたパスタマシンの押し出し口はらせん状のフジッリ、貝の形のコンフィリエ、巻貝の形のスコンティリーの3種。そこから、冒頭で紹介したようなさまざまな形状のパスタをつくるに至ったのは、東日本大震災を経験したからでした。
「やはり風評被害で、『震災前の商品ならば買うよ』というように、お客さまから東北のものが嫌煙されるようになってしまいました。それならば、『絶対に買いたくなるオンリーワンのものをつくろう』と、雪の結晶パスタをつくることになったのです」。
70年培った技術が叶えた、奇跡のパスタ
イタリアの金型職人に金型を依頼するも、押し出されたショートパスタはその形状から水の分子を吸収しづらく、いくらゆでてもゆであがらないという問題が起こります。
「パリで開催される『メゾン・エ・オブジェ』という展示会に持っていくのがミッションでした。その展示会が1月開催だったのですけれど、12月の年越しの段階でまだゆでられなくて。水からゆでてみたらゆであがったんです。そのときに会長が『水からでゆでられるなら、ちょっと待て!』と、これまでのそば、うどんの技術を活かして、雪の結晶パスタが完成しました」。
革新的アイデアとこれまで培ってきた技術が融合し、これまでにないパスタをつくりあげた玉谷製麵所。「『食べられるものになるはずがない』といっていたイタリアの金型職人も感心してくれて。それ以降『玉谷製麵所のいうことならば、挑戦してやる』という感じになりました」。
まさに、職人魂のぶつかりあい。ものづくりに妥協しない人たちだからこその絆が生まれた瞬間でした。
それ以来、さまざまな形のショートパスタをつくりつづけ、最近では「ブルーインパルスをパスタにしてほしい」という依頼を受けて実現したそうです。
研究室で繰り返したトライ&エラーを今はパスタづくりで行う玉谷さんは「私は、玉谷製麵所を『あそこに行けば夢がかなう』という風に思ってもらえる会社にしたいんです」と話します。
さまざまな人の夢を託され「大変です」といいながらも、とても楽しそうな笑顔を浮かべる玉谷さんなのでした。
玉谷製麵所が山形県天童市の特産品の粋を集めた「将棋駒パスタ」の誕生秘話は、「暮らす仙台」でもご紹介しています。ぜひご覧ください。