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名優・岸部一徳が朝ドラ常連少年俳優と共演。終戦の日に「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
特集ドラマ「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」 写真提供:NHK

8月に戦争関連の番組が年々少なくなっていると聞く。でも世界は戦争の色が濃くなっているし、来年2025年は日本にとっては終戦から80年の節目である。いまこそ戦争について考える機会があるべきなのではないか、という意識が高まっているのか、今年は戦争関連の番組も目につくような気がする。ところが、日本での戦争経験者は年々少なくなっており、体験していない者との認識の乖離をどう埋めるかが課題でもある。

8月15日、NHK総合で放送されるドラマ「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」は戦争体験者(岸部一徳)に小学生(中須翔真)が話を聞くという、直球にして強度のある、極めてハートウォーミングなドラマである。

小学6年生の小沢拓人(中須翔真)はある日、神社で管理人の田中喜市(岸部一徳)と出会う。

田中は81歳の高齢ながら、拓人のスケボーに興味を持ち、試しに乗ろうとして、転倒、骨折してしまう。治療中、田中の身の回りの世話をすることにした拓人と友人たちは、田中と交流を深めていく。

あるとき、田中の戦争体験を聞いた拓人たちは、ある行動に出るーー。

戦争体験者と未体験者の価値観の違いを埋めるドラマづくりの成功例に、戦争時代にタイムスリップした現代人が、未知の出来事に衝撃を受けて認識を変えるという形式がある。「昔はおれと〜」はファンタジー色はなく、リアル。体験者と未体験者が直接語り合うことは実現可能であり、いわゆる「自分ごと」として問題を考えることができる。家族で見てほしいドラマである。

原作は第69回小学館児童出版文化賞を受賞した椰月美智子さんの童話。脚本は夜ドラ「あなたのブツが、ここに」、連続テレビ小説「ブギウギ」の櫻井剛。いやみない善意を描くのが実にうまい櫻井によって、老人と少年がストレートに互いをリスペクトし、助け合っていく流れが心地よい。

神社の慰霊碑の前に立つ田中さんは、戦争時代、小学生だった。写真提供:NHK
神社の慰霊碑の前に立つ田中さんは、戦争時代、小学生だった。写真提供:NHK

スケボー好きの現代っ子たちも過去に思いを寄せ、祈る 写真提供:NHK
スケボー好きの現代っ子たちも過去に思いを寄せ、祈る 写真提供:NHK

主人公の拓人を演じる中須翔真さんは、朝ドラこと連続テレビ小説「舞いあがれ!」では古書店の常連の少年・広田大樹役、「おちょやん」では天海一平の子ども時代役、「スカーレット」では川原武志の子ども時代役をはじめとして、多くのドラマで活躍している。

今回の拓人はとても礼儀正しく、聡明で、お年寄りにやさしい。こんな子どもばかりだったら日本は良くなっていくのではないか。

中須翔真さんのコメント

僕の演じる拓人は、友だちとスケボーで遊ぶのが好きで、勉強はちょっと苦手だけど、心の優しい“ええヤツ”です。拓人は世代の離れた田中さんと出会って少しずつ成長していきます。僕も、このドラマでそんな拓人と出会って、自分も素直なええヤツでありたいと思いました。このドラマを見てくださった皆様が、拓人の成長を感じて、そして、戦争について改めて考えるきっかけになるように、心を込めて拓人を演じたいと思います。

81歳と高齢ながらスケボーに興味を持つ田中さん 写真提供:NHK
81歳と高齢ながらスケボーに興味を持つ田中さん 写真提供:NHK

岸部一徳さんコメント

「僕は戦争には反対です」私がドラマで演じた田中喜市の心の叫びの言葉です。改めてその言葉の重さに気付かされました。戦争は過去だけのものではなく今も世界の何処かで続いています。このドラマに登場する三人の少年は未来への希望かもしれません、そして三人の存在は今の大人たちの良心にも思えました。この作品に出会えた事を感謝します。

岸部さんが演じる田中さんは、神社にひとり暮らす謎めいた雰囲気を醸しながら、実はとても子どもたちに優しい。飄々と立ちながら、ずっと胸に秘めてきたことは極めて重いという、全身からいろいろなものが滲んでいる。

ほかに、拓人の母・尚美役に木村多江さん、拓人のクラスの担任・瀬下誠役に森永悠希さんなどが出演する。木村さんは「原作も、このドラマの脚本も胸が温かくなって読むたびに泣いてしまうとても優しい物語です」と森永さんは「今までとは違う目線で戦争というものを扱った作品」と語る。

原作 椰月美智子さんコメント

近所に小さな神社があります。境内に小屋があり、おじいさんが一人で住んでいましたが、いつのまにか姿を見なくなり、今では空き家になっています。おじいさんはどんな人だったんだろう、どんな生い立ちでここに住むようになったんだろう。そんな思いから田中さんが生まれました。
その田中さんが、まさかドラマに登場するなんて!喜びでいっぱいです。原作とは少し設定が異なりますが、小説で伝えたかったことはしっかりと汲み取って頂いております。
田中さんと拓人の友情、そして戦争の傷跡。見終わったあと、やさしい気持ちになってもらえるといいなあと思います。楽しみです!

脚本 櫻井剛さんコメント

出来る事なら残酷で恐ろしい戦争については触れずにいたいと思いがちで、僕は考える事を先送りして、宿題にして引き出しの奥にずっとしまい込んでいる。でもこの原作には日々の何を大切にすれば戦争を回避する事が出来るのか、宿題のヒントが書かれてあった。それはとても当たり前過ぎて、気付くまでに時間が掛かってしまったけど、考えて向き合って、なんとか脚本に起こす事が出来たと思う。日々と人を想うこと。言葉にすると退屈だけど、何より大切な想いが詰まった作品です。

特集ドラマ「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」
【放送】 NHK総合 8月15日(木)よる10:00~11:13
【再放送】NHK総合 8月31日(土)午後4:40~5:53
【BSP4K】8月17日(土)午前7:30〜8:43
【原作】 椰月美智子 「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」
【脚本】 櫻井 剛
【音楽】 小山絵里奈
【出演】 中須翔真、岸部一徳、木村多江、森永悠希 ほか
【スタッフ】 制作統括:櫻井壮一
プロデューサー:鈴木 航
演出:川野秀昭

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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