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夏が待ち遠しいトランプ米大統領の末期的発言「消毒薬を注射すれば新型コロナを殺せる」

木村正人在英国際ジャーナリスト
記者会見で「消毒薬を注射すればウイルスを殺せる」と発言したトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]新型コロナウイルス流行への初期対応を誤って死者を約5万人も出し、11月の米大統領選で再選するのが難しくなっているドナルド・トランプ大統領が末期的な症状を呈してきました。

23日の記者会見でウイルスを殺すために消毒薬を注射したり、非常に強力な光を体に照射したりすることをほのめかしたのです。

米国土安全保障省の科学技術担当責任者ウィリアム・ブライアン氏が「予備調査で新型コロナウイルスが寒い天候より高い気温や湿度の方が、ウイルスが半分に減る期間が劇的に短くなる」と発言したのがきっかけでした。

ブライアン氏は「紫外線が新型コロナウイルスを殺すので、暗がりより直射日光に当てた方が早く死滅する」「消毒薬や家庭用漂白剤も新型コロナウイルスを殺すのに非常に効果的だ」とも述べました。

この発言にトランプ大統領は「晩春や夏になると市民は外に出たがるようになるだろう」と飛びつき、こう付け加えました。

「紫外線であろうが、単にとても強力な光であろうが人間の体に大量に照射して温めれば効果的かもしれないな。君はまだ検証されていないと言ったが、テストはするんだろう」

「消毒薬は1分もしないうちにウイルスを殺す。体内に注射すればきれいになる。効果を確かめるのは興味深い」

消毒薬は体内に摂取すると有毒です。体に直接浴びても肌や目、呼吸器に危険です。トランプ大統領の問題発言は何も今に始まったことではありませんが、生命と安全に関わるだけに記者会見に同席していた医師は即座に否定しました。

トランプ大統領のツイッターのフォロワーは7820万人。アメリカ人の28%がトランプ大統領から新型コロナウイルス・パンデミックの情報を得ているだけに心配です。

トランプ大統領は「新型コロナウイルスの蔓延にひどい対応をして隠蔽した」と中国に配慮した発言と対応を繰り返してきた世界保健機関(WHO)への資金提供を停止すると表明したばかりです。しかし今回の発言はWHO以上に危険です。

国土安全保障省によると「ドアハンドルやステンレスの表面で湿度が20%の場合、ウイルスの量が半分になるまでの時間は温度が摂氏21〜24度の時は18時間。湿度が80%に上昇すると6時間に、日光が加わるとわずか2分に減少した」そうです。

エアロゾル状態で空気中を浮遊している時、温度が摂氏21〜24度、湿度20%で半減期は1時間。日光が当たるとわずか1.5分に落ちたそうです。南半球のオーストラリアでは感染者は7000人以下で死者は77人止まり。高温多湿になってくると新型コロナウイルスのエアロゾル感染が激減することを示唆しています。

オーストラリアに比べると北半球の欧米諸国では死体の山が築かれています。新型コロナウイルスが季節性インフルエンザウイルスと同じように高温多湿より低温少湿を好む可能性はあるものの、夏が来ると流行は収まると楽観するのはまだ早すぎるでしょう。

大統領選で苦戦を強いられるトランプ大統領が、夏が来れば都市封鎖を解除して経済を再開できると思い込みたい気持ちは分かります。しかし生命がかかるパンデミックにポピュリズム的な話術は通用しません。思いつきに過ぎない言葉ではなく国民の生命を守る真の実力が問われています。

夏に流行が収まったとしても秋や冬に第二波、第三波が襲ってくる恐れがあります。見えない敵であるウイルスを押さえ込むためにはワクチンや治療薬を開発するしかありません。そのためにはトランプ大統領はまず科学者の声に耳を傾ける必要があるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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