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参院選直前~各党の科学技術政策は?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
参院選、各党の科学技術政策は?(写真:イメージマート)

参院選、アンケート調査を行ってみた

 第26回参議院議員通常選挙の投票日が目前に迫っている。

 私はこれまで仲間とともに、選挙のたびに各党にアンケート調査を送り、どのような科学技術政策を立案しているのかを問うている。

 今回も、NPO法人日本科学振興協会(JAAS)と共同でアンケート調査を行っている。

 ところが今回は、主要政党の一部からお返事をいただけていない。このため、比較が難しいため、上記アンケートを紹介するにとどめる。

 ちょっと残念…。と思いかけたのだが、今回の選挙では、様々な団体がアンケート調査を行っているようだ。

生物科学学会連合のアンケートに対する回答(参議院浜田聡議員のお手伝い)

生物科学学会連合アンケート(こちらからダウンロードできる)

 こうした政策アンケートを様々な立場の方々が行うことは、とても健全なことだと思う。

 そして、報道も例年に比べて多いように思う。

 こうした状況のなか、各党の政策担当者の方々にご負担がかかっており、私たちへの回答が遅れているとしたら、それは残念ではあるが、うれしいことでもあるのかなと思う。

公約を比較

 そこで、各党の科学技術政策を公約から解きほぐし、比較してみる。とはいえ、アンケートと異なり、各党の政策に記載がある分野やない分野があるので、エッセンスのみ比較したい。かつ、基礎科学の振興や研究者育成に関連ある分野に絞る。

 参照した公約は以下。

科学技術、学術の政策があるのは?

 まず、そもそも公約に科学技術、学術がある党は以下。

自由民主党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、日本共産党、NHK党、参政党

各党の目玉は?

 以下、上記の各党の政策を簡単にみてみたい。

自由民主党

科学技術立国を実現する

わが国の勝ち筋となる先端科学技術(量子、AI、バイオ、グリーン、宇宙、海洋、再生医療など)について、国家戦略を定めたうえで、大胆な投資を行い、社会実装を進めることで、官民を挙げて科学技術立国を実現し、世界をリードします。

大学ファンドによる世界と伍する研究大学の実現、地域の中核大学や若手研究者への支援強化により、わが国の研究力を抜本的に強化します。

公明党

科学技術イノベーションの再興

●国際競争力の低下が続く科学技術分野の再興をめざし、若手研究者支援などを抜本的に強化する「科学技術イノベーショントータルプラン(仮称)」を策定・実施し、持続的な経済成長や社会課題の解決につなげます。

●未来を切り拓く優秀な若手研究者が安定した環境のもと挑戦的研究に継続して取り組めるよう、日本学術振興会(JSPS)の特別研究員事業(DC)の拡充など、博士課程学生への支援の倍増に取り組みます。

●女性研究者が出産・育児等と両立し安心して研究を行い活躍を続けられるよう、保育施設の整備やサポート制度等の各種支援を充実・拡充します。

立憲民主党

科学技術と文化芸術への支援拡充

国の科学研究費を倍増し、研究者の安定的な雇用や個々の研究環境を整備することで、研究人材の育成を進めていきます。

大学運営費交付金の増額、ポスドクを含む研究者や大学院生の処遇改善などにより、安心して研究に専念できる環境を整備します。

研究開発力の抜本強化

研究開発費を今後10年間で大幅に引き上げます。

安定雇用により高度な技能を持つ人材を育成し、自社内の技術開発に努める企業を支援します。

野心的な産業技術開発

創薬・バイオ、次世代通信技術、光電融合、量子暗号、AI、デジタル、航空宇宙、超電導、次世代モビリティなどを国家プロジェクトとして推進することで、次世代の産業インフラを世界に先駆けて実装し、民間のイノベーションを促進します。

標準、規格、特許の分野での人材育成を強化し、世界標準を主導します。

日本維新の会

科学立国の礎となる基礎研究について、十分な研究費を確保するとともに、若手を中心とする多様な人材が活発に研究できる環境づくりを推進します。

国立国会図書館や国立大学に所蔵されている書籍、貴重図書、資料などのデジタル化を推進し、アーカイブの積極的な活用を図るとともに、デジタルアーカイブを担う人材の育成を行います。

国民民主党

教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的経費であり、財政法を改正して、これらの支出を公債発行対象経費とする「教育国債」を創設します。 毎年5兆円発行し、教育・科学技術予算を年間10兆円規模に倍増させます。

日本共産党

 以下見出しのみ掲載。

  • 学術総動員体制づくりをやめ、科学、技術の多面的な発展をうながす
  • 大学・学術への政治介入を許さず、「学問の自由」を保障します
  • 日本学術会議会員の任命拒否を撤回させ、独立性を守り、予算・体制を充実
  • 行政の私物化と大学運営への不当な介入を許さず、大学の自主性、自律性を守る
  • ピア・レビューの尊重を厳守
  • 研究者の声を反映させ、官邸主導のイノベーション政策を抜本的に転換する
  • イノベーション支援の重点を中小企業、地域に移す
  • 科学・技術の総合的な振興計画を確立する
  • 「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、大学や公的研究機関の軍事利用をやめさせる
  • 「経済安全保障推進制度」は廃止し、知的財産権をめぐる問題は外交で解決する
  • 国立研究開発法人制度を見直す
  • 有期雇用を限定し、無期雇用を基本にして、雇用を安定化させる
  • 雇い止めをやめさせ、有期雇用の5年・10年経過後の無期転換を促進する
  • 筑波研究学園都市の研究施設整備をはかる
  • 任期付き雇用を限定し、若手研究者の待遇改善をはかる
  • 博士課程院生への経済支援を強化する
  • 博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげる
  • 性差別・ハラスメントをなくしジェンダー平等を推進します
  • 科学・技術の振興に光をあてる
  • 科学研究費補助金を大幅に増額し、配分の偏りを是正する
  • 過度の競争を是正し、研究における不正行為を根絶する
  • 産学連携の健全な発展をうながします
  • 国立大学の運営費交付金の傾斜配分を廃止し、基盤的経費として増額する
  • 私立大学への「公費負担」原則を確立し、「経常費の2分の1助成」を実現する
  • 公立大学への国の財政支援を強める
  • 国が各大学の改革を誘導する資金を廃止し、独立した配分機関を確立する
  • 大学の人件費支出を増やし、若手教員の採用をひろげる
  • 任期制の導入に歯止めをかける
  • 有期雇用の5年・10年経過後の無期転換を促進する
  • 若手研究者の待遇改善をはかる
  • 博士課程院生への経済支援を強化する
  • 大学職員を増員し、教育・研究・診療への支援体制を充実させる
  • 専業非常勤講師の処遇を抜本的に改善する
  • 「大学の自治」を尊重するルールを確立する
  • 国立大学法人制度を抜本的に見直す
  • 私立大学の公共性と教育研究の質をさらに高めるため私立学校法の改正を含む改革をすすめる
  • 国公立大学の一方的な統合に反対する
  • 大学への公費支出を欧米並みにひきあげます

NHK党

また、国立大学の運営費交付金の拡充を政府に求めるとともに、研究予算配分の過度な選択と集中を見直し幅広い分野の基礎研究に資金を投入して長期的に研究の芽をはぐくめるように「科研費」の拡充を政府に求めることで、国内における研究者の研究環境向上を図り、優秀な研究者の海外流出をできるだけ防ぐ。

参政党

課題解決中核国として科学技術分野において、高い倫理観と日本独特の感性で世界を先導し、人類社会の共通課題に答を出す国になる。

これからAI、IoT、5G/6Gなどの最先端技術によってモノとヒトと情報が高度につながる“Society5.0” が進展し、仮想の世界と現実の世界との一体化が進んでいくことになるが、こうした流れの中にあっても、日本は、これが人間本位の仕組みになることを最優先で考える国になる。自由で自立した人間本来のあり方を守り尊重していくという独自の立場に立つことで、情報技術の革新においても世界をリードする国をめざす。

研究者の能力を最大限に生かし、国内で研究に専念できる環境を充実する。

サイバー、医療、エネルギー、宇宙、環境などの最先端の各分野の研究開発が、人類社会の課題解決に向けて横断的、俯瞰的に機能する仕組みをつくる。

科学技術は国力の源泉、国の関係経費や知財を「投資国債」の対象とする。

研究開発や関係行政機関の縦割り化した硬直性を打破。

選挙に行こう、民主主義を守ろう

 以上、各党の政策を抜粋した。投票の参考にしていただけたら幸いだ。

 政策をしっかりとみて、選挙に行き、投票してほしい。今私たちができることをやっていこう。

 どのような意見を持っても脅かされない社会を守るために、私たちはできることを当たり前のようにやっていこう。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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