参院選科学技術政策アンケート結果発表~9つの質問で見えてきた争点
今年もやります科学技術政策比較
2003年以来、私は仲間と共に、国政選挙のたびに各党の科学技術に関する公約を比較し、ここ数年は各党にアンケートを送付している。過去数回はYahoo!ニュース個人にて比較結果を書かせていただいた。
- 2017年総選挙 各党の科学・技術政策は?(2017年衆院選)
- 見えてきた各党の違い~科学・技術政策アンケート回答公表(2017年衆院選)
- 参院選公示~各党の科学技術政策は?(2016年参院選)
- 参院選科学技術政策アンケート 各党の回答を比較する(2016年参院選)
- 日本の科学技術政策はどうなるのか?各党の公約を比較してみた(2014年衆院選)
- 科学技術を重視する党は?公開質問状に対する各党の回答(2014年衆院選)
今回の参院選でも、私が代表を務めるカセイケン(科学・政策と社会研究室)で、各党の科学技術政策を比較する。科学技術といっても幅が広いので、比較の対象は分野を問わない科学技術振興の在り方、研究者、大学院生育成、支援策に絞る。
公約比較
まず公約からだ。以下届け出順に各党の公約を並べた。
- 日本共産党 2019年参議院選挙公約と政策
- 自由民主党 令和元年政策BANK
- オリーブの木
- 社会民主党 選挙公約
- 公明党 参院選2019 マニフェスト
- 国民民主党 国民民主党新しい答え2019および政策INDEX 2019
- 日本維新の会 マニフェスト詳細版
- 幸福実現党 主要政策
- 立憲民主党 立憲ビジョン2019
- 労働の解放をめざす労働者党
- NHKから国民を守る党
- 安楽死制度を考える会
- れいわ新選組 政策
科学技術政策に関する記載の有無は以下。
あり:日本共産党、自由民主党、オリーブの木、社会民主党、公明党、国民民主党、日本維新の会、幸福実現党、立憲民主党、れいわ新選組
なし:労働の解放をめざす労働者党、NHKから国民を守る党、安楽死制度を考える会
科学技術政策に関する記載がある党のうち、日本維新の会、社会民主党、れいわ新選組は高等教育に関する記載のみ。
各党の公約のうち科学技術政策に関する部分をこちらのページにピックアップした。以下簡単に各党の政策を比較する。
Society 5.0に関する記載がある党:自由民主党、公明党、国民民主党
若手研究者に関する記載がある党:日本共産党、自由民主党、公明党、国民民主党
女性研究者に関する記載がある党:日本共産党、自由民主党、国民民主党
運営費交付金に関する記載がある党:日本共産党、自由民主党、国民民主党
司令塔に関する記載がある党:自由民主党
ムーンショットに関する記載がある党:自由民主党、公明党
詳細は各党の公約を見ていただきたいが、例年通り自由民主党と日本共産党が科学技術政策に関して多く記述している。国民民主党も政策INDEXで詳しく記載している。公明党がそれに続く。そして、司令塔機能強化、トップダウン型の政策を志向する自由民主党と公明党に対し、ボトムアップ、研究者の自主性を重視する日本共産党、そしてその中間の国民民主党という、方向性の違いがある。
ただ、公約に科学技術に関する記載が少ない、あるいはない党も多いので、私たちはアンケート調査を行った。
アンケート回答は9党から
2019年7月5日に、私たちはFAXもしくはメールにて、今回の参議院議員選挙に立候補している各党のうち連絡先が分かった党にアンケートを送付した。質問は9あり、締め切りは7月17日とした。
なお、今回は新たな試みとして、政党や候補者以外の皆さんもアンケートに答えられるようにした。皆さんがどのようなご意見をお持ちかを知る目安にしたいので、興味のある方は上記ページからご回答いただきたい。
以上のアンケートは締め切りまでに以下9党から回答をいただいた。回答の図は回答をいただいた順に左から並べた。各党の担当者の方には御礼申し上げたい。
社会民主党 日本共産党 国民民主党 立憲民主党 れいわ新選組 自由民主党 幸福実現党 公明党 日本維新の会
アンケート結果の詳細はこちらに掲載しているが、下記にも書く。なお、立憲民主党は各回答すべてにコメントを記載してくださったので、詳しくみたい方はFAXを参照されたい。
質問1 科学技術の政府投資
政府の研究・開発への投資についてお伺いします。日本の研究開発費はGDP 比3.5%程度であり、これは先進国最高水準です。しかし、その8 割を民間企業の支出が占めており、政府支出が小さいのが特徴です。GDP 比で見た公的な研究開発費を今後どうすべきとお考えでしょうか?
解説:自由民主党と日本維新の会のみ増やすで、残りの政党は大幅に増やすとの回答。
質問2 科研費の扱い
研究は、基礎研究と応用・開発研究に分けられます。基礎研究の厳密な定義は必ずしも共有されていませんが、日本の政府予算のうち、科学技術研究費(科研費)が主に科学者・研究者の関心に基づいて行われる「基礎研究」に使われる予算である、という考え方があります。
解説:自由民主党、幸福実現党、公明党が現状維持、その他は科研費の割合を増加させると回答。
質問3 国立大学運営費交付金
国立大学の運営費交付金について、「評価に基づく傾斜配分」枠が設定、増額されており、議論を呼んでいます。この予算についてどのような方向性が好ましいとお考えか伺います。
その他の回答:
【国民民主党】1( 「評価に基づく傾斜配分」枠を拡充して増額する) 及び 2(従来型の交付金を拡充して増額する)
解説:回答が分かれた。与党である自由民主党と公明党は現状維持を選択。日本維新の会は減額を選択。社会民主党、日本共産党、国民民主党、立憲民主党、れいわ新選組は運営費交付金の増額を選択。国民民主党は増額したうえで傾斜配分の拡充を選択。幸福実現党は傾斜配分一択。
質問4 国防・軍事研究
各省庁が独自の目的を持って大学と共同研究を行ったり、研究助成を行ったりすることがありますが、近年特に防衛省の「安全保障技術研究推進制度」や、軍民共用技術(デュアル・ユース)について大学研究者が防衛省から資金を得て研究することに関しては、様々な議論が行われております。
解説:はっきりと意見が分かれた。社会民主党、日本共産党、国民民主党、立憲民主党、れいわ新選組の5党は大学や学会がガイドラインを制定したうえで、こうした研究を行わないとする。与党の自由民主党と公明党は個々の研究者の判断に任せた上で、こうした研究は行わないとする。幸福実現党と日本維新の会はともにこうした研究を拡充するとするが、維新は個々の研究者の判断に任せるとする。
質問5 公的研究費の位置づけ
国立大学は運営の多くを税金からの支出によっていますし、私立大学においてもその研究活動は政府の科学技術研究関連予算に大きく依存しています。この状況下において、以下のどちらの見解を支持されるか、お考えをお聞かせください。
解説:幸福実現党以外は、公的研究費による研究は国益より人類全体の利益や知識の向上を目指すべきとする。
質問6 短期雇用か無期雇用か
かつて、多くの大学で一度就職してしまうとほとんど解雇されないため、研究が停滞し、人事が権威主義的で閉塞したものになるという批判があり、現在はキャリア初期の雇用は任期付きのものになることが一般的になりました。しかし、終身雇用の枠は極めて小さく、また日本社会固有の問題として40歳を超えると他のキャリアに転身することも難しいため、研究者のキャリアパスは極めて厳しいものになっています。このことが、優秀な若手が研究者になることを躊躇う理由にもなっていると考えられています。この点について、今後どのような方向性が好ましいとお考えか、お聞かせください。
その他の回答:
【国民民主党】研究者の処遇改善を進めます。大学などの理系カリキュラム改善やインターンシップを産学官連携で推進し、またテニュアトラック制(任期付き研究者が審査を経て専任となる制度)の普及などにより優秀な若手研究者を支援します。また、研究者が研究に専念できる環境を整備するため、補助員の配置などに対する支援を検討します。
【自由民主党】自民党内で議論してきましたが、1(有期雇用)と2(無期雇用)はどちらも重要であり、どちらかを選ぶことはできません。
【日本維新の会】1(有期雇用)を基本としながら、研究者の評価によっては、処遇に幅を持たせるシステムを目指す。
解説:無期雇用の比率を高めるとする政党が多いなか、自由民主党と日本維新の会は両方を選択。幸福実現党は有期雇用を選択。
質問7 就職氷河期世代の研究者対策
また、任期性が強力に推し進められた2000年前後に大学院を卒業した世代を中心に、民間就職がいわゆる就職氷河期であったこともあり、ポスドク任期終了後の職が見つけられなかったり、低賃金の非常勤講師などを掛け持ちして暮らしている、所謂「高学歴ワーキング・プア」が大量に発生していると指摘されています。これらの人々について、対策をお考えであるかお聞かせください。
解説:国民民主党と日本維新の会が研究者に特化した対策をしないと回答。残りの政党は具体策を記載してくださった。
【社会民主党】若手研究者の大学への積極採用や非正規の正規転換を進めるとともに、必要経費の税控除や育休支援など負担軽減を図る必要があります。
【日本共産党】
無期転換権の発生を特例で10年に延長している有期雇用の研究者・職員が大量に雇止めとなる危険が4年後に迫っていることを踏まえて、国にさらなる調査を実施させます。
有期雇用の大学教職員、研究者、非常勤講師に契約更新5年上限を予め求めることは法改正の趣旨に反する行為であり、やめさせます。有期契約が1回以上反復されて5年経過した雇用を無期契約に転換した場合に、国が大学に対して財政支援する奨励制度をつくります。
大学の基盤的経費を増額して技術、事務、医療などの職員を増員するとともに、雇用は正規が基本となるよう促します。
国立大学法人が「総人件費改革」で5年間に削減した人件費だけで、若手教員1万6千人以上の給与に相当します。国立大学や独法研究機関が削減した人件費分を回復するために、国から国立大学や独法研究機関への運営費交付金を大幅に増額し、若手教員・研究者の採用を大きくひろげます。
博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげるために、公務員の大学院卒採用枠を新設し、学校の教員職や科学に関わる行政職、司書や学芸員などに博士を積極的に採用します。博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求めるなど、社会的責任をはたさせます。
若手研究者の待遇改善をはかるために、大学や独法研究機関が、期限付きで研究者を雇用する場合に、テニュアトラック制(期限終了時の審査をへて正規職に就ける制度)をさらに充実させ、期限終了後の雇用先の確保を予め義務づける制度を確立します。そのために必要な経費は国が責任をもちます。ポスドクの賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大をはかります。
―定額の研究費を国が支給する特別研究員制度を大幅に拡充します。とくに、博士課程院生のうち7.3%しか適用されていない現状を改善し、20%まで採用を増やします。大学院生に対する給付制奨学金を創設します。
大学非常勤講師で主な生計を立てている「専業非常勤講師」の処遇を抜本的に改善するため、専任教員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづく賃金の引き上げ、社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかります。また、一方的な雇い止めを禁止するなど安定した雇用を保障させます。
【立憲民主党】就労支援の際に、多様な専門を生かすことができるよう相談・生活・自立支援をさらに進めるとともに、雇用する側、特に中小企業に対する支援策を強化します。
【れいわ新選組】高学歴の人材は国にとって貴重な財産です。そのような人たちが正当に評価されてこなかったこれまでのあり方に大きな問題があります。諸外国のように、博士課程の方には、社会保険を適用するようにしなければなりません。ポスドクでも安心して結婚できる、子供が持てる環境を作る必要があります。また、大学院で学んだ学歴が省庁の採用試験などで実際の年数よりも多く職歴としてカウントされるような制度が必要です。また、国の政策として、そのような人々を、国会議員の国会の政策スタッフとして、知見を活用し、国会議員の立法活動を促進します。
【自由民主党】現在、具体策を検討しています。残念ながら、現段階で具体策を記入できないのですが、可能な限り根本的な解決に結びつくように尽力します。
【幸福実現党】解雇規制の緩和を進めるなど、雇用の流動性を高める施策を講じるべきと考えます。
【公明党】引き続き、若手研究者のポスト拡充やポスドクへの経済支援の充実、ライフイベントの両立を図るための支援などを推進していきます。
質問8 研究不正対策
我が国で、研究不正が続発していることは、国際的にも問題視されつつあります。通常、研究不正は教授が下位の教員に、教員が学生に、協力を強要するハラスメントを伴うものであり、大学内の権威主義やハラスメント対応部局の実効性にも問題があると思われます。こういった状況を改善するために、どのような方策が好ましいとお考えでしょうか?
その他と答えた党の回答。
【日本共産党】
不正の根絶をはかるために、科学者としての倫理規範の確立を促すとともに、不正の温床となっている業績至上主義とそれを助長する過度に競争的な政策をあらためます。大学・研究機関における外部資金の管理を厳格におこないます。
研究不正の告発を受けた際に、大学・研究機関が調査する機能を充実させるための支援を強めます。
ハラスメント対策については、これを禁止する法規定がないなど日本は諸外国と比べて極めて遅れており、大学・研究機関にとどまらない日本社会全体の課題です。
日本共産党は、6月5日に発表した政策「個人の尊厳とジェンダー平等のために――差別や分断をなくし、誰もが自分らしく生きられる社会へ」のなかで、ハラスメントに苦しむ人をなくすために、〇被害の認定と被害者救済のために、労働行政の体制を確立・強化するとともに、独立した救済機関を設置する、〇学校やスポーツ団体、大学・研究所など、社会のあらゆる分野でハラスメントをなくすために、国としての実態調査と、それぞれの分野に対応した相談・支援体制をつくることなどを提案しています。→こちら
大学・研究機関が、男女共同参画の促進やセクシャルハラスメント・アカデミックハラスメント・パワーハラスメントなどの人権侵害を防止する専門家を専任で配置することへの支援を強めます。
【国民民主党】:教育・研究現場でのアカデミックハラスメントなどハラスメント対策を推進し、意識、慣行の見直しを促進します。
【立憲民主党】:学問の自由を侵害することがないよう、ハラスメントを抑止する観点からも、効果的な方策を検討します。
【自由民主党】:大学の自治を尊重し、基本的には大学が対応するべきです。しかしながら、大学の自治が人事の権威主義を生み、それが研究不正の温床となっている側面があるので、「これまで通り」は許されないと考えています。大学の自治を尊重しつつ、研究不正を防止する施策を検討していきます。
【公明党】:不正研究を防止するため、政府が策定している研究不正への対応に関するガイドラインを大学等へ周知するなど、引き続き、研究不正を未然に防ぐための対策を推進します。
解説:4つの党が研究不正を扱う組織を作るとした。その他の政党も研究不正やハラスメント対策を行うと回答。
質問9 大学教員数
現在、大学教員も多忙であり、研究時間が十分に確保できていないという報道がありました。また、授業の多くが非常勤講師に担われているという事情もあります。この点を踏まえて、大学教職員数について、最も重要だと思う対策を一つお選びください。
解説:社会民主党、日本共産党、国民民主党、立憲民主党、れいわ新選組が一致して常勤定員増を選択。与党および維新がリサーチ・アドミニストレーター等の研究支援職について言及。幸福実現党は特任教員を雇えるようにすると回答。
講評
まずはじめに、今回9党がご回答くださったことに感謝申し上げたい。このアンケートを始めて最多の数だ。ようやく科学技術政策が選挙の争点になってきた感がある。
アンケートの結果をみると、公約では見えてこなかった各党の考えの違いが見えてきた。各党ともおおむね科学技術を重視すると回答しているが、その中身は異なる。
本来科学技術政策は他の政策から独立しているわけではなく、研究費を増額するとしたとき、財源はどうするのかという問題が生じる。予算の分配は必ずしもゼロサムゲームというわけではないが、他の政策課題との兼ね合いとなる。そういう意味で、科学技術政策だけを考えればよいというわけではない。
しかし、一つの争点であるのは事実だし、科学技術政策にも各党の考え方が反映されている。皆さんご自身が各党の政策を確認した上で投票してほしい。