10日開催予定だった除幕式中止…「安倍首相謝罪像」を巡る謎。「撤去しろ」と韓国内極右団体から抗議も。
現地に直撃電話。「もう見られますよ」
8月10日、午前10時20分頃。
東京から「韓国自生植物園」に電話をかけてみた。「安倍首相謝罪銅像」はここの園長、キム・チャンリョル氏が制作依頼したものだ。本来なら10日に除幕式が行われるはずだった。
公式サイトには「9時開園と記される」。少し時間を置いた10時頃の1度めの電話は繋がらず。2度目の電話で女性の担当者が電話を取った。
「はい。植物園です」
――お聞きしたいんですが、「永遠の贖罪」(安部首相謝罪銅像)は公開されている状態ですか?
「除幕式のことをおっしゃっていますか?」
――それは中止になったと聞きました。今、一般公開されている状態でしょうか?
「はい。植物園のなかにある造形物なので、植物園にいらしてくださればご覧になれます」
銅像公開後、仮に大挙して人が訪れているのなら、必ず報じられるものだ。しかし韓国メディアは静かだ。
7月25日に初めて存在が報じられたこの話題、7月29日以降、韓国側で目立った関連報道はない。当初は韓国内でも「韓日関係の悪材料」(朝鮮日報)と注目を集めていたが、28日に韓国政府外交部(外務省)が「政府と無関係の民間の行事(10日に予定されていた除幕式)に対して具体的な言及は控えたい」としながら、「しかし政府としては外交の指導者クラスの人物に対する国際礼譲の側面を同時に考慮しなくてはならないと見る」と発表。一気に注目度が落ちた。
日本政府側が28日に「設置の報道が事実なら韓日関係に決定的な影響を及ぼす」と不快感を示したこともあってか、キム園長もトーンダウン。当初は小説家や元革新系国会議員などを呼び開催するとしていた除幕式を中止にした。28日には日本メディアの報道に対し、「安倍総理を特定して作ったものではない。謝罪する立場にあるすべての男性を象徴したもの」「少女の父である可能性もある」と答えた。翌29日の韓国メディアの取材には「それが安倍だったら何の問題なのか」「安倍だったらいいと思う」「私有地の造形物。撤去の考えはない」と答えているが。
日本側では、この10日に予定されていた「安倍首相謝罪銅像除幕式」を「8月の日韓対決」のひとつに組み込むメディアもあった。しかし韓国ではまったくといっていいほど話題になっていないのだ。8月4日、11日の「徴用工判決現金化への動き」も同様に、日本の方が強い関心を持つという事態になった。この「謝罪銅像」に関してはその対比が顕著だ。
右か、左か。そこを見るべき。
こういった韓国での反日の運動が起きた際、確かめるべきポイントがある。
アクションを起こしたのは、左派か右派か。近年の韓国では権力の増長が指摘される市民団体(多くは社団法人格)との繋がりはどうなのか。2019年4月には、文在寅大統領が市民団体のリーダーを国会に招待する行事があった。この際には左派の主要団体に加え、右派の少数団体も参加。80の団体の100人近いリーダー格が集まったという。
なぜなら、近年日本にも伝わってくる韓国での社会問題は、多くは「左右いずれかの市民団体が寄与している」というケースがほとんどなのだ。じつのところ「過激な少数派の話」ということが多い。2008年の狂牛病問題への李明博政権の対応批判(左派)、2016年~17年の朴槿恵大統領弾劾運動では左派市民団体が手動するデモに一般市民が加わり、輪が大きくなっていったというところだ。
産経新聞元ソウル支局長批判:右派
朴槿恵大統領弾劾:左右対立
日本製品不買運動:左派
たまねぎ男騒動:左右対立
徴用工判決問題:左派
慰安婦支援団体問題:左派
南北ビラ合戦:右派
今回、この銅像を、私費で制作依頼し、完成後自ら園長を務める植物園に展示するキム・チャンリョル氏(71)は韓国メディアには「左翼」と紹介される。
また「左翼系の運動家で人脈が豊富」とも報じられる。本来開催される予定だった除幕式に招待されていた作家チョ・ジョンレ氏は、かつて作品のなかで共産主義者や抗日パルチザンを美化したことで批判を受けていた人物。また元国会議員のチェ・ヨル氏は2005年の”歴史的”なBSE(狂牛病)問題”の市民運動(デモ)に参加した経歴があるという。
2008年には退任後の盧武鉉元大統領が植物園に植樹に訪れた。また韓国メディアのなかには「慰安婦の歴史歪曲、強制徴用歴史歪曲、ノージャパン不買運動など、ほぼすべての「反日民族主義」の宣伝煽動に関わる左翼勢力と繋がりがある」と報じるところもある。
だとすれば、ひとつ大きな疑問点がある。
「なぜ今回の謝罪銅像の主旨に、左派市民団体が強く賛同しようとしないのか?」
ソウルにある団体とつながれば、この「謝罪銅像」の輪を大きくできるはずだ。2015年の慰安婦問題日韓合意後にあった「慰安婦像撤去反対運動」のように。
国内極右団体から抗議を受けていた。「小さな植物園に何を?」
さらに、キム氏が「現役世代の左派市民団体と繋がっていないのでは?」と想像させる出来事があった。この銅像について、国内で対立する極右団体から抗議までもを受けたのだ。
8月3日「反日銅像真実究明共同対策委員会」が植物園を訪れ、抗議活動を行った。
"歴史歪曲、韓日外交破綻、安倍総理謝罪像をすぐに撤去しろ! 撤去しろ! 撤去しろ!」
同委員会は歴史研究団体を標榜し、日本軍が慰安婦を強制的に連行したという点を否定している。これまでは主に、少女像撤去と慰安婦関連の水曜集会の反対運動を繰り広げてきた。
小規模デモの様子を報じる「MBC」。現地を訪れていた観光客の反応は「何をそんなに騒いでいるの?」だったという。
当のキム氏は「多様な考えがあるのが民主主義」とし、これを黙って聞いていたという。またデモの後、相手との討論会に参加し、「山奥にある小さな植物園なのに、これを相手に『国がどうした』といった話をするのは、過度の飛躍だと思う」とコメントした。「安倍だったら問題か?」という強気の発言とは裏腹な、少し答えをはぐらかすような面も見られる。ちなみに25日の銅像関連の第一報後には韓国メディアに対し「電話がひっきりなしにかかってきて、よく眠れない」とも口にしている。プレッシャーに参っている面もあるか。
またこれに対し、再抗議する左派団体の情報は10日現在報じられていない。カウンターパンチが予想されたのなら、右翼団体も現地に乗り込むだろうか。
「謝罪像」は田舎の山奥の小さな出来事なのか。ただし本人は「韓日の間には領土問題もある」としていて、何か次のアクションも匂わせている。これがソウルの現役左派市民団体と繋がったとき、韓国国内での扱いも大きくなるだろうか。あるいは韓国政府側が「反対」を表明したことが決定的な要因となり、ここでストップとなるか。今後の「8月対決」を考えたとき、新しい火種はそっとしておきたいとの考えもあるか。
日本側が仮に「撤去」まで求めたのなら、状況は大きく変わると予想される。韓国政府側この点について「私有物の造形物に対し、撤去までは指示できない」との立場を表明している。
8月の「日韓対決」
4日 徴用工判決「現金化」実効期間開始
10日 「安部首相謝罪銅像」除幕式予定(中止に)
11日 「現金化」の実効期間開始に対する即時抗告期限日(7日に抗告済み)
15日 「光復節(日本からの植民地解放記念日)」文大統領スピーチ
23日 GSOMIA 延長可否通告期限(毎年11月23日に1年ごとの自動延長となるが、破棄の場合は90日前に通告しなければならない)
その他 8月末にWTO事務局長が退任。6月から2ヶ月間が後任選定期間。韓国からも立候補中。韓国では「日本が他地域からの候補を応援するのでは」と報じられる。