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「フェイクを見破れる」7割超が自信過剰、思い込み強いほど逆にフェイク拡散

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By Chris & Karen Highland (CC BY-SA 2.0)

「フェイクニュースを見破れる」と自信過剰な人が7割超もいる一方で、その自信過剰ぶりが強い人々ほどかえってフェイクニュースを拡散してしまっている――。

米国のユタ大学などの研究チームが、そんな調査結果を公表した。

合わせて8,000人を超す調査から明らかになったのは、フェイクニュースを見分けることができるという自己評価と、実際に見分けることができる能力とのギャップが大きいほど、フェイクニュースサイトに頻繁にアクセスし、それを共有する傾向がある、ということだ。

これまで、フェイクニュース対策として、情報を批判的に見分け、活用する能力「リテラシー」の啓発の必要性が指摘されてきた。

だが実際の能力が伴わない自信過剰が、フェイクニュース拡散を後押しする要因の一つだとすると、それらの人々は、「自分にはリテラシーがあるから、啓発などは余計なお世話」ということになってしまう。

フェイクニュース対策と「リテラシー」の問題のハードルの高さを示す調査結果だ。

●能力を大幅に上回る自己評価

米国人の4人に3人が、本当のニュースと間違ったニュースの見出しを見分ける相対的な能力を過剰評価している。調査の回答者は、実際の能力よりも、平均で22パーセンタイル高く自己評価した。

ユタ大学助教のベン・ライオンズ氏らの研究チームは5月31日、「ニュース判断の自信過剰は間違ったニュースの感受性と関連している」と題した調査結果を発表した。6月8日付の学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

調査結果の中で、ライオンズ氏らはこうも述べている。

回答者の大多数(約90%)は、間違ったニュースと本当のニュースの見出しを見分ける自分の能力が、平均以上だと回答している。つまり多数の米国人が、実質的に自分の能力を過大評価しているということだ。

ライオンズ氏らの研究チームは、2018年から2019年にかけて、2度の大規模調査を、合わせて8,285人の米国人を対象に実施した。

調査では、フェイスブックのフォーマットで表示した本当のニュースとフェイクニュースの正確さを評価してもらい、その識別能力の結果をパーセンタイル(全体順位の何パーセントに位置するか)で示した。さらに、回答者自身のフェイクニュースの識別能力を、やはりパーセンタイルで自己評価してもらった。

調査では、識別能力の結果から、全体を最下位(1~25パーセンタイル)から最上位(76~100パーセンタイル)へ、4つのグループに分けた。

さらに、それぞれのグループの識別能力の自己評価の平均値を見たところ、最下位のグループは2度の調査でそれぞれ63と64パーセンタイル。実際の能力を大幅に上回っていた。

これに対し、最上位のグループは2度の調査でいずれも平均74パーセンタイルで、逆に、実際の能力を下回っていた。

つまり、実際の識別能力にかかわらず、その自己評価はほとんど変わらず、能力が低くなるほど、その自信過剰の傾向は拡大していた。ダニング=クルーガー効果(DKE)と呼ばれる認知バイアスの傾向が確認できた、という。

全体で見ると、回答者の73%が自信過剰となっており、前述のように、実際よりも平均で22パーセンタイル高い自己評価をしていた。さらに回答者の約20%は、実際より50パーセンタイル以上も高い自己評価をしていた。

●自信過剰な人ほどフェイクを拡散する

調査ではまた、回答者の同意を得て、それぞれのパソコンから、主流とされるニューヨーク・タイムズやCNNなどのメディアサイトと、フェイクニュースの配信サイトとして認定されているサイトへのアクセス履歴を分析した。

フェイクニュースへの接触率は全体で6.5%。だが、自信過剰の割合が最も高い回答者は、最も低い回答者に比べて、フェイクニュースへの接触率が11ポイント高かった。

さらに調査では、ニュースの正確さの評価調査で見たコンテンツを、「いいね」または「共有」するか、と尋ねている。それらの結果を、研究チームはこう指摘する。

自信過剰の人々は、全体としてニュースコンテンツへのエンゲージメントが高いが、それだけではなく、自信過剰ではない人々に比べて、主流メディアのニュースより、間違ったニュースを共有する傾向が特に強い。

さらに、自信過剰の傾向を、政治的な立場から見ると、共和党支持者の方が民主党支持者よりも強かった、という。

ライオンズ氏は、この調査結果について、「多くの人々は、自分が誤情報の影響を受けやすい、ということに気づいていない」とし、こう述べている

自分は間違ったニュースを見分ける能力が高い、と誤解をしていると、無意識のうちにそれらを目にし、信じて共有してしまっている可能性がある。そのニュースが自分の世界観に合ったものなら、なおのこと。

●フェイクニュースとバックファイアー効果

自分の情報識別能力に強い自信を持っている場合、さらなるリテラシーの啓発などに関心を示すことはない。むしろ反発をすることにもなりかねない。研究チームはこう指摘する。

先行研究では、高い自信と低いパフォーマンスの組み合わせからくる行動として、支援、訓練、修正への拒否反応が指摘されている。間違ったニュースを識別する能力についての誤った認識について言えば、それがメディアのコンテンツの信頼性評価についての新たな情報や、デジタルリテラシー要請のためのプログラム参加への意欲を削いでしまう可能性がある。

そのため、自信過剰の根本原因を、さらに詳細に分析する必要がある、としている。

研究チームのメンバーであるダートマス大学教授、ブレンダン・ナイアン氏は、「ニュース報道の修正情報は誤解を減らすことができない可能性があり、それらの誤解を持つ可能性が最も高いイデオロギーグループにとって、誤解を増やすことがある」とする「バックファイアー効果」の研究で広く知られる。

※参照:偽ニュースの見分け方…ポスト・トゥルース時代は、まだ来ていない(12/31/2016 新聞紙学的

ただし、ナイアン氏はこの「バックファイアー効果」が、かなり誤解されているという。

2021年4月13日の「米国科学アカデミー紀要」に掲載した研究で、ナイアン氏は、この「バックファイアー効果」が確認できるケースは極めてまれであり、「すべての修正が逆効果である、またはバックファイアー効果が誤解の持続の主な原因である、と誤解されることがよくある」とも述べている。

ナイアン氏はその中で、ファクトチェックやメディア報道が、誤った思い込みの修正に一定の効果が期待できるとし、その取り組みを強化すべきだとしている。

例えば、気候変動の原因については見解が分かれるとしても、極端な気象現象など、目をそらすことができない明白な事実を提示し続けることで、誤った思い込みが修正される可能性はある、と述べている。

そして、このような誤った思い込みの形成に大きな役割を果たす、政治的エリートのフェイクニュースに焦点を当て、その拡散を抑制することの重要性を指摘する。

●丁寧な説明

今回の調査結果に、「バックファイアー効果」についての直接の言及はない。ただ、自信過剰が「リテラシー」養成などへの拒否反応を引き起こす懸念があるとの指摘は、前述の通りだ。また、ここには政治的な立場の違いも絡む。

そこで求められるのは、ファクトチェックの提示やリテラシーの啓発において、拒否反応を抑制するような丁寧な説明だろう。

政治的な対立を乗り越える、事実をベースにした説明が、改めて求められている。

(※2021年6月4日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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