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4月8日は花祭り 全国一の大賞に選ばれた「おてらおやつクラブ」とは? 7人に1人の子が貧困の日本で

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

4月8日は花祭りの日。お釈迦さまの誕生日だ。全国的に入学式が行われることが多く、「参考書の日」としても制定されている。

コンビニよりお寺の数が多い

ところで、全国にお寺はいくつぐらいあるか、ご存知だろうか。

文化庁の宗教年鑑(平成30年度版)を見ると、仏教系の単位宗教法人の数は、77,112。

一方、一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会のコンビニエンスストア統計調査月報最新版(2019年2月度)では、全国のコンビニの数は55,979店。

コンビニよりも、お寺の方が、21,000以上、多い。

お寺のお供え物は「いただく(食べる)」か「捨てる」

これだけ多いお寺には、お供え物として、食べ物が運ばれてくる。

お供え物は「果物や、地のもの(地元で採れるもの)、旬のもの」と言われるが、日持ちするお菓子をお供え物とする場合もある。

基本的には、これらお供え物は、仏さまの「おさがり」として、人間がいただく(食べる)。

だが、食べきれない場合や、食べられなくなったものは、捨てることになる。

おてらおやつクラブのロゴ(おてらおやつクラブ公式サイトより)
おてらおやつクラブのロゴ(おてらおやつクラブ公式サイトより)

お供えものをおさがりとしておすそ分け「おてらおやつクラブ」

お寺の子どもとして御仏飯(おぶっぱん)で育ってきた、奈良県・安養寺(あんようじ)の住職の松島靖朗(せいろう)さん。

奈良県田原本町の安養寺(筆者撮影)
奈良県田原本町の安養寺(筆者撮影)

2013年、大阪で、母子餓死事件が起こった。

28歳の母が、3歳の子どもに書き残した言葉。

2013年、大阪母子餓死事件で、28歳の母親が3歳の子に書き残した言葉(報道された言葉をもとに、松島靖朗さん作成・提供)
2013年、大阪母子餓死事件で、28歳の母親が3歳の子に書き残した言葉(報道された言葉をもとに、松島靖朗さん作成・提供)

自身が父親になったばかりの松島さんにとって、これは他人事ではなかった。

日本では、7人に1人の子どもが、相対的貧困率より低い「貧困」状態にある。

お供え物のすべてが活かされている訳ではないことも知っていた。

そこで2014年に立ち上げたのが、おてらおやつクラブ

お供え物を、仏さまのおさがりとして、必要な子どもたちにおすそ分けする活動だ。

松島靖朗さん(左)と筆者(松島靖朗さん提供)
松島靖朗さん(左)と筆者(松島靖朗さん提供)

全国47都道府県、1153のお寺が超宗派で活動に参加

お寺に「ある」ものを、社会に「ない」ところへとつなぎ、両者の課題解決をはかる、「おてらおやつクラブ」。

奈良の小さなお寺から始めた活動は、みるみるうちに、全国47都道府県に広がった。

今では1153ものお寺が、宗派を超えて、この活動に協力している。

2016年5月19日、奈良・安養寺で説明する松島靖朗さん(筆者撮影)
2016年5月19日、奈良・安養寺で説明する松島靖朗さん(筆者撮影)

4,789件もの応募の中から「2018年グッドデザイン大賞」に選出

2018年には、全国4,789件もの応募の中から、2018年度グッドデザイン大賞に選ばれた。賞の頂点だ。

審査員には、おてらおやつクラブの考え方や仕組みが高く評価された。

2018年度グッドデザイン大賞に選ばれ登壇するおてらおやつクラブの松島靖朗さん。写真右から2番目(松島靖朗さん提供)
2018年度グッドデザイン大賞に選ばれ登壇するおてらおやつクラブの松島靖朗さん。写真右から2番目(松島靖朗さん提供)

思いもかけないところで食べ物の無駄が日々生まれている

お供え物が、食べられることなく無駄になることもあるという事実。はたして、どれだけの人がこのことに考えを及ばせただろう。

実は、「食品ロス」問題では取り上げられないところでも、食べ物の無駄は生まれている。

たとえば、全国で開催される、食品業界の新製品発表会や展示会で、多めに準備される、サンプル品や試食品。

コンビニやスーパーに採用してもらうために多数の食品メーカーが準備する、商談用のサンプル品。

食品関連企業で、毎日、品質検査に一部分だけ使う商品の、残りの食べられる大部分。

全国で開催されるマラソン大会の、ランナーのための飲食物。

一般の人が思いもよらないところで、まだ食べられる食品が無駄に捨てられ、食品ロスが生まれている。

一方、ここに考えを巡らせて、これら食品ロスを引き取って、食べ物を必要とするところで活用している人たちもいる。その一つが「おてらおやつクラブ」だ。

日本は、食資源が限られている。生まれてきた食べ物は、途中で命をまっとうさせずに殺すことなく、できる限り、最後まで食べてあげたい。

展示情報

2019年4月2日から22日まで、おてらおやつクラブは、公益財団法人日本デザイン振興会と「おてらおやつクラブ 丸の内別院」企画展を共同主催で開催中。

東京丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiに仏さまや三宝を運び、会場を「お寺」と見立て、おてらおやつクラブの活動紹介や子どもの貧困の社会的背景、グッドデザインと評価された具体的な内容について、多くの方に知っていただく場として開催される。

期間中は、仏さまへの「お供え」も常時受け付けする。

会期:2019年4月2日(火)~4月22日(月)

時間:11:00~20:00 (会期中無休 入場無料)

会場:GOOD DESIGN Marunouchi

   東京都千代田区丸の内3−4−1 新国際ビル1F

2019年4月2日〜22日 グッドデザイン大賞展「おてらおやつクラブ 丸の内別院」

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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