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米巨大テック企業に危機感を強める欧州 -サービス独占状態への懸念

小林恭子ジャーナリスト
アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルの寡占への不安感が欧州にはある(写真:ロイター/アフロ)

(月刊「新聞研究」の2017年11月号に掲載された筆者の原稿に補足しました。)

ネット生活に欠かせない米テック大手の存在に疑問

 以前から「温度差」が気になっていることがある。

 それは、アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルなど米国の大手テクノロジー企業(以下、テック企業)への英国を含む欧州での視線とそれ以外の国、例えば日本での視線だ。

 米大手テック企業がインターネット上のサービスをほぼ独占する状況が生じている。インターネットが生活の中で欠かせない存在となった今、英国を含む欧州ではこうした状況に対する危機感が強い。特定の企業が市場を独占することへの懸念、市民のデータが少数の企業の下に集まることや、そうしたデータがどのように使われているかを十分に把握できないことへの不安感、不当感などが背景にある。

 日本では、どちらかと言うと上記の企業による新サービスを嬉々として報じる傾向があるのではないだろうか。

 1つの問題提起として、BBCラジオのある番組での議論を紹介してみたい。

 BBCのラジオ放送の中に、トーク番組が中心の教養チャンネル「BBCラジオ4(フォー)」がある。このチャンネルで毎週木曜日の夜に放送される「ブリーフィングルーム」では、ジャーナリストのデービッド・アーノロビッチ氏が司会役となり、数人のゲストを呼んでその時々の時事問題を深く掘り下げる。

 今回紹介するのは、9月28日放送の「テック企業大手はコントロールが効かなくなっているのか」と題する回だ。

 具体的な内容に入る前に米テック企業の欧州での「寡占度」について補足しておきたい。アマゾンやアップル製品は欧州でも日本と同程度に人気がある一方で、グーグルは欧州市場で検索エンジンとしては90%前後でトップになる。また、ロイター研究所による「デジタルニュースレポート」の2017年版では、調査の対象になった国の中で最も人気が高いソーシャルメディアはフェイスブックであることが多い。

破壊性とデータ利用の負の面

 番組の前半に登場したテック記者のジェレミー・バートレット氏はシリコンバレーから生まれ、世界中を席巻する米テック企業の問題点を指摘する。

 その1つは破壊性だ。「シリコンバレーの世界では破壊はあくまでも前向きの動きだが、非常にネガティブな面もある。時には人が職を失い、産業全体が消える」。

 テック企業成長の燃料となったデータの使い方にも記者は疑問を呈する。「テック企業は莫大な量のデータを私たちの生活の中から集め(中略)行動を予測する。目的は私たちに広告を提供することだ」。

 テック業界に造詣が深い作家のジョナサン・タップリン氏は「データを吸収し、これを基にモノを売ろうとすること自体には問題がないかもしれない」が、利用者の人生を決めてしまうことがあると警告する。例えば、スマートフォンの歩数計アプリを使っていた場合、「体の動きの特徴を掴むことで、利用者がある病気を持っていることが判明することがある」。

 病気にかかっていることが分かるのは良いことでは?と記者が聞くと、タップリン氏はこう答えた。「誰かがそのデータを(本人が知らない間に)保険会社あるいは雇用主に送ったら、どうなるか」。

 バートレット記者は、長い間、テック企業は「自分たちは情報を乗せるプラットフォームであるから、コンテンツには責任を持たない」と言う姿勢を維持してきた、という。

 しかし、コンテンツに責任を持つべきだという政府当局や世論の圧力が高まり、対応せざるを得なくなった。例えば9月6日、フェイスブックは社会の対立を扇動するメッセージを大量にフェイスブックに出すロシア発の運動が発覚したと発表した。今年5月までの2年間で、約3000件の広告が掲載されたという。

 独占的な位置を利用したビジネスの在り方は、欧州当局の批判の的だ。昨年6月末、欧州連合(EU)の執行機関にあたる欧州委員会は、グーグルに対しEUの競争法を違反したとして24億2000万ユーロ(約3000億円)の制裁金を科した。単独の企業に対する制裁金としては過去最高。グーグルは「検索大手という立場を乱用し、商品比較サービスにおいて自社の製品に不当な優位性を与えた」という。8月29日、グーグルは具体的な改善策を欧州委員会側に提出した。

グローバルな寡占化状態

 番組の後半で、アーノロビッチ氏はフェイスブックとグーグルが世界のデジタル広告費の85%以上を得ていることから、「事実上、グローバルな寡占状態となっている」と指摘した。

 英国のテック産業を支援する「テックUK」のアイリーン・バービッジ氏は、「これまでにも大企業による市場の寡占化はあった」が、テック企業がカバーする領域は「非常に幅広い」ため、「より大きな責任が伴う」という。

 2008年の金融危機発生前、「銀行は危険な売買取引にまい進し、行内のリスク査定部門も規制当局もリスクを分かっていなかった」。バービッジ氏は以前の銀行界とテック界の現状をタブらせる。

 巨大テック企業は水道や電気事業者のように「公益企業になるべきではないか」とアーノロビッチ氏は提案した。バービッジ氏はこれに同意しなかった。

 英フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ラーナ・フォルハー氏も同意しなかったが、「(当局側が)管理しやすいように分割する」可能性に言及した。同氏は、大手テック企業が「認識のバブル」にいると指摘する。「金融危機以前、金融業界でさえ自分たちを『神(のように何でもできる)の存在』とは思わなかった。テック業界はまだそう信じている」。

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「ブリーフィングルーム」は、BBCラジオ4で毎週木曜日の夜に放送されている

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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