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桂文枝と母と妻。筆者が知る愛情とつながり

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

 桂文枝さんが妻・眞由美さん、母・治子さんを相次いで亡くしていたことが報じられました。

 眞由美さんが24日に、そして、治子さんが25日に旅立たれた。この事実だけで、胸がつぶれそうになります。心中察するに余りある。そんな言葉では背負いきれないくらい、ただただ、悲しくて、切なくて、つらいお話です。

 27日深夜、文枝さんは吉本興業が運営するWebサイトで妻と母を相次いで失ったことについてコメントを出しました。

 「人生の中で2日続けて死亡届を書くなんて思ってもいませんでした」

 「私は2人のためにも落語と向き合って、今以上の努力をし、皆様に喜んでいただくよう芸道に励みます。それしか2人に報いる手立てがありません」

 入門直後からタレントとして大ブレークし、50年以上スターとして輝いてきた。そして、300もの創作落語を残してきた文枝さん。

 これまでも、人の何倍も努力をしてきたからこその功績ですが、奥さまとお母さまを亡くした中で「今まで以上の努力をし」という言葉を出す。そこに文枝さんを文枝さんたらしめた気迫を感じるとともに、77歳という年齢もあり、直感的に心配や不安がよぎったのも事実でした。

 妻が、親が、亡くなる。多くの人にとって、これは生きていく中で、最大級のダメージになりうることだと思います。

 しかも、文枝さんの場合はとりわけ、その思いが強いのではないか。取材を通じてあらゆるお話を聞いてきた中で、それを危惧しています。

 過去の取材メモから文枝さんの言葉を振り返ってみます。

 僕が生まれて1年も経たないうちに父親が亡くなりまして、そこからは母が僕を育ててくれました。

 親戚の家を転々として、母は料理旅館に住み込みで働いたりしていた。常に寂しさと向き合う幼少期で、切ない思いもたくさんしました。

 ただ、だからこそ、一緒に遊んでいる友達にはずっといてほしい。その思いから、いろいろと面白いことをやりました。それが高校の演劇部につながり、落語へと結びつきました。

 そして、一人でいないといけないからこそ、想像が膨らんだ。想像を膨らませるしかなかったんです。

 たくさん創作落語も作りましたけど、結局、落語は人の心を描いているんです。となると、いろいろな気持ちの経験がないと、それを盛り込めない。

 「もし、兄弟がいたら」「お金がたくさんあったら」という現実に“足し算”する気持ちはある程度想像できるんです。でも「誰もいない時の気持ちは…」「全部なくなったら…」という“引き算”の気持ちは、本当にそうならないと想像しにくいもんなんです。

 それでいうと、ホンマに寂しくはありましたけど、リアルな“引き算”をたくさん経験できたのは、今の自分を作るのには役立ったと思っています。

 母は今、高齢者の方が入る施設に入ってるんですけど、僕が言っても「どなた?」という状況にはなってます(笑)。

 でも、母がこの世にいてくれる。生きているからこそ、僕は頑張れる。この気持ちがあるのは、間違いありません。

 一方、奥さまに対しても、数年前に周囲からいろいろな話を聞いていました。

 その当時で、文枝さんは年間200公演以上落語会をしていましたが、着物の準備をするのは奥さんの仕事。前日にきちんと着物を手入れし揃えておく。それ以外にも、あらゆる部分で文枝さんを支え、文枝さんも「妻がいなかったら、僕は何もできない」と公言している。

 だからこそ、奥さんへの感謝は大きい。このような文脈で出すのは不適切かもしれませんが、過去に文枝さんにスキャンダルがあった時にも、身から出た錆とはいえ、猛省から、相当、落ち込んでいるという話を聞きました。

 そんな中、僕がたまたま拙連載の中で、先述したような奥さまのサポートぶりを原稿にしたのですが、当時僕が番組で共演していた月亭八光さんから収録時に伝言を受けました。

 「中西さんにお礼を伝えるように頼まれてるんです。文枝師匠から。中西さんがコラムで奥さんのことを書かれて、それを奥さんが読まれたそうで。普段、言えないこともそれで幾分かは伝わったし、こんな形で伝えることではないんだろうけど、それでも本当にありがたかった。それを伝えるように言われてたんです」

 こんな話はこの文脈では不適切かもしれませんし、僕などが綴ること自体、おこがましいことでもあります。

 そして、芸人、スター、時代…。複雑な要素が幾重にも絡まった話であり、幾重にも他人がどうこう言う領域ではないのでしょうが、それでもあえて綴ると、根底にある文枝さんの奥さんへの思いが、そのやりとりで垣間見えた気がしました。

 そのお二人がいなくなってしまった。

 こんな原稿をわざわざ書く以上、何かしら前向きな要素を最後くらいは入れて終えるのが僕の信条でもあるのですが、何を綴ろうが、それこそ、陳腐になる。

 それくらい、今回の流れは苛烈であり、ただただ、文枝さんの心の在りようが心配である。そう結ばざるを得ない状況でもあります。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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