盟友・北斗晶も全面協力「日本一長い現役女子プロレスラー」36年目の誓い
挑戦の歴史はCDデビューから金網ファイトまで
全試合が終了し、ディスタンスを守ったファンを一人ひとり丁寧に出口で見送ったあと、女子プロレスラー堀田祐美子(54)は、しみじみと言った。
「こんなにすごい選手の皆さんが、またコロナの中でもこんなにファンの方が集まってくれた。それだけでも私の思い出になりますよね」
4月4日(日)、東京・上野恩賜公園野外ステージで『堀田祐美子デビュー35周年記念大会』が開催された。ジャガー横田(59)や長与千種(56)ら、堀田の先輩でも現役レスラーとしてリングに立つ選手はいるが、女子プロレス界のかつての暗黙ルール「25歳定年制」もあり、全員が引退からの復活組だ。一度も引退せずに35年、現役を続ける堀田は「日本一長く、途切れずキャリアを積む女子プロレスラー」ということになる。
歌手としてCDデビューを果たせば、金網デスマッチ、敗者髪切り、電流爆破マッチまで、あらゆることに挑戦してきた。また、堀田は女子プロレスラーのなかでもいち早く格闘技戦に挑んだことでも知られている。
男子の総合格闘技イベント『PRIDE』第1回大会スタートは1997年10月だが、堀田はその前年の96年7月に頭突きありの過激な女子金網ファイト『L-1』に参戦。以降も折々で総合ルールに挑んできた。その実績が買われ、2016年大晦日には神取忍(56)のピンチヒッターとして『RIZIN』にも出場した。堀田は女子総合格闘技の“生き証人”でもあるのだ。
生死の境をさまよう大怪我「目覚めたら泣いている堀田がいた」(北斗)
その足跡をたどる今回の記念興行は、空手出身の堀田らしく瓦10枚を一撃で割る演武からスタート。堀田を師と仰ぐ若手たちが熱のこもった戦いで感謝の気持ちを伝えると、メインでは堀田、アジャ・コング、伊藤薫vs長与千種、井上京子、高橋奈七永という、かつての恩讐を超えた“リビングレジェンド”対決も実現。プロレスを目指すきっかけとなった憧れの長与をフォールし、堀田は万感の表情で勝利者コールを浴びた。
幕開けの瓦割りでは右拳に5センチほどの切り傷を負い、メインの激闘では前歯が欠けた。試合後に怪我の様子を尋ねると、堀田は「全然。これはケガのうちに入らないので」と受け流した。
「そんなことよりも、みんな…同期の北斗晶をはじめ先輩も、後輩たちも全面的に協力してくれて。本当にどうして? と思うくらい」
本人は不思議がるが、その答えは今回のイベントに凝縮されていた。
試合の合い間に、北斗をMC役に先輩・後輩たちによるトークショーが行われた。「堀田を漢字一言で例えると?」とのお題に後輩のひとり、中尾真美さん(現役時代のリングネームはチャパリータASARI=47)は「優」をあげた。
「自分の同期が大きな怪我で入院したとき、私がお見舞いに行くと言ったら大先輩の堀田さんが『私も行く』と言ってくれた。入院先は千葉で、すぐ行ける距離ではないのに」
横で聞いていた北斗は深くうなずき「私にとっての堀田祐美子も『優しい』が一番の印象なんだよ」
同期の誰よりも先にベルトを巻き、順風満帆で迎えたデビュー3年目に、北斗は首の骨を折る大怪我を負った。
「(手術を終えて)目が覚めたとき、最初に私の目に映ったのが泣いている堀田祐美子だった。祐美ちゃんと、祐美ちゃんのお母さんが病院まで来てくれて、買ってきたブランケットをかけてくれたんだよね」
会場全体が優しさに包まれた母への35年分の“サプライズ”
この日のイベントでは温かいサプライズもあった。主役は、北斗のエピソードにも出てきた堀田の母親、よし子さん。地元・神戸からよし子さんが駆けつけたのは、娘の懇願を断り切れなかったからだ。「脚も悪くしているし行けそうにないと言うと、あの子はふてくされたように言うんです。『感動してもらえるようなイベントにするから。絶対に来て!』と」
メインイベントの6人タッグ。ラストで呼び込みを受けた堀田は、扇形に広がる客席の最上段からサプライズ登場した。手には花束を抱えている。そのまま、ゆっくり階段を降りていった堀田は、客席中央に座る母親の前で立ち止まり、花束を手渡した。前日の4月3日は、よし子さんの81回目の誕生日。心配をかけ続けた母への35年分の感謝を伝えるために、娘はこの日程でのイベント開催にこだわったのだ。
コロナで1年延期しながらも、無事イベントを開催できた理由について、北斗はパンフレットのメッセージで「堀田祐美子の人柄だと思う」と語っている。
〈誰よりも優しく、誰よりも強い
堀田祐美子を祝ってあげたい!
そう皆んなが思える人だからでしょう〉
家族や仲間たちの思いを受け取り、力に変え、堀田はこの先も身体が許す限り現役を続けていきたいと語った。
「身体を張って、生死をかける覚悟でリングに立っているから、どんなに抗争する相手でも『ありがとう』という気持ちをいつでも持っている。それを表に出したら戦いではなくなるけど、その信用、信頼がなければ感動を与えられないと思うんです。相手を信頼したうえで、気持ちや感情をぶつけあえる。それが、ほかのスポーツと比べてもすごく分かりやすいところだし、プロレスならではの魅力をもっと追求しながら、若手も育てていきたいです」
メインで堀田と対戦した井上京子(51)は、堀田と死闘を演じた2014年の電流爆破マッチを振り返り「堀田さんが相手でよかった。堀田さんだから戦えた」と語った。また堀田の指導を仰ぐデビュー3年目の川畑梨瑚(21)は「自分が生まれる前からリングに立ち続けているのは、それだけプロレス界が素敵な世界だということ。自分も、もっと盛り上げていきたい」と目標を口にした。
35年変わらぬ熱い思いは、確実に伝わり、次世代へつながっている。