軍内に不満…総参謀部90人を追放した金正恩の「心配事」
北朝鮮には「シムリョ」という言葉がある。漢字で書くと心慮、文字通り心から憂うという意味だが、金正恩総書記が何らかの懸念事項について述べる際に使われる。また、その憂いを解くことが求められることから、実質的には「改めよ」という命令と変わりない。
それを怠ったとの理由で、90人もの軍官(将校)が職を解かれ、首都・平壌から追われる身となった。デイリーNKの軍内部情報筋が詳細を伝えた。
問題の発端となったのは、今年10月の6日と8日に金正恩総書記の現地指導の下で行われた、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の前線長距離砲兵区分隊と空軍飛行隊の火力打撃訓練だ。
金正恩氏は2年前に「作戦戦術案を様々な形に変更することについて」という命令を下していたのだが、10月の訓練で、これが反映されていなかったことが判明。具体的に何がどう変わっていなかったのかについて、情報筋は言及していないが、軍内部で問題となり、先月末に「1号心慮のマルスム」が下される事態となった。
つまり金正恩氏が直々に「ご心配のお言葉」という形で、クレームを付けたということだ。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
金正恩氏の命令に逆らえば、物理的に首が飛んでもおかしくないほどの重大な政治的事件となる。「ご心配のお言葉」を受けて、慌てふためいたであろう軍の総参謀部と、朝鮮労働党朝鮮人民軍委員会は、総参謀部作戦局と関連部署の責任者の90人の軍官に対して、除隊命令書を下した。実質的な不名誉除隊、つまりは懲戒解雇である。
90人の間からは「歩兵と空軍部隊は平時に合同訓練をあまりやっておらず、作戦戦術案を簡単に修正し訓練を実施したもの」だとして、処分に納得がいかないとの反応を見せている。しかし党委員会は、最高指導者の意図を形式的にしか実行せず、2年間にわたり職務を怠慢した非常に厳重な事案だとしている。
今回の処分では軍を辞めさせられるにとどまらない。90人とその家族は平壌から去り、元々生まれ育った地域に戻ることを余儀なくされる。また、彼らは「1号心慮方針除隊対象者」とのレッテルを貼られ行きていかなかければならず、新たな職場でも昇進ができないなど様々な制限を加えられ、地元民からも白い目で見られることになるのだ。