地味模様の日中首脳会談、注目ポイントは「民間企業協力」
9日、安倍晋三首相と李克強首相による日中首脳会談が開催された。
中国側の報道はというと、きわめて静かだ。人民日報、環球時報、新華社などの官製メディアはストレートニュース中心の構成で、日中友好ムードの演出は見受けられない。2006年の第一次安倍政権では、 安倍首相の訪中、温家宝首相(当時)、胡錦濤国家主席(当時)の訪日のたびに大騒ぎして盛り上げていたが、今回はそうした「無理矢理な友好モード」はまったく見受けられない。今後トラブルがなければ、安倍首相の訪中、習近平総書記の訪日という首脳往来外交が続くことになるが、淡々とした関係改善が基調になるのではなかろうか。
「無理矢理な友好ムード」はむしろリスク、実務的な関係強化で十分というのが私の考えだ。第一次安倍政権後の日中関係は急接近からどん底へと急転した。その後、中国に接近した韓国・朴槿惠政権もTHAAD問題で一気に関係を悪化させた。反動を考えれば、地味なぐらいがちょうどいい。
今回の首脳会談も地味ながら、着実なポイントは抑えているように思われる。北朝鮮問題に向けての日朝対話促進、尖閣諸島近海での衝突回避メカニズムなどと並んで、ビジネスの観点から注目されるのが「第三国での民間企業協力」だ。
首脳会談では、第三国での日中民間企業によるインフラ協力を進めるためのフォーラム設立で合意されたという。李克強首相は日本訪問前に朝日新聞に寄稿したが、ここでも第三国での協力が取り上げられている。
「経済をもって政治を促す」取り組みを 李首相寄稿全文(朝日新聞デジタル、2018年5月8日)
日本経済界の関係者の方々と交流する中で、多くの日本企業は「一帯一路」(中国のシルクロード経済圏構想)のイニシアチブがもたらす幅広いチャンスを共有したいとの意向を持っていると聞いている。確かに、高度に相互補完的な経済関係にある中日両国が、新たな科学技術・産業革命の潮流に乗って、省エネ・環境保護、科学技術の革新、ハイエンド製造業、財政金融、シェアリングエコノミー、医療・高齢者福祉など多岐にわたる分野での実務協力を拡大していくことは非常に将来性が高く、両国企業による第三国市場での協力も大きな潜在力を有している。
日中首脳会談の前に行われた日中韓首脳会議でも、同じ内容があった。新華社の記事「李克強首相:“中日韓+X”の協力モデル」は次のように伝えている。
アジアは国が多く、発展レベルの違いも大きい。発展レベルにおいてアジアのトップにある中日韓は三国の優位を結集し、“中日韓+X”のモデルによって、製造協力、エネルギー、貧困、災害、省エネなどの分野で共同プロジェクトを実施するとともに、設備、技術、資金、建設などの分野における各自の優位を発揮し、第四国、あるいはそれ以上に多くの市場を共同開拓し、アジア地区諸国のより良い、より早い発展を導き、促進するべきだ。
中国からこうした構想が強く打ち出された背景には、対立が深まる米国との経済摩擦がある。経済分野、とりわけ民間企業に対する圧力が強まるなか、中国は米国以外の国との関係強化が急務となった。日本はこのチャンスをつかめるのか。李克強首相の訪日を今後につなげられるかが焦点だ。