アリババ版ChatGPT、ビジネスにすぐ使えるその実力とは
ChatGPTなど生成AI(人工知能)が今、世界的な注目を集めています。米国に次ぐAI先進国として知られる中国でも、大手IT企業はこぞって参入を表明するほか、大物企業家によるAIスタートアップ企業も続々立ち上げられているなど、熱狂しています。
ビジネスシーンですぐ活躍しそう、アリババの生成AIが強烈
4 月11日、中国EC(電子商取引)最大手アリババグループは大規模言語モデル「通義千問」(トンイーチエンウェン)を発表しました。
文章による指示を与えることでさまざまなタスクをこなすことができるAIです。まずはコラボレーションツール「DingTalk」(ディントーク。企業内チャット、オフィスソフト、ビデオ会議などの機能を一体化したサービス)とスマートスピーカーのTモールジニーに搭載されますが、将来的にはネットショッピング、旅行予約、動画配信、中古品売買など、アリババグループ傘下のあらゆるサービスに搭載していく方針です。
発表イベントで流されたデモビデオではDingTalkで活用事例が四つ紹介されています。
1:会議概要の作成
チャット会議の終了後にAIが会議概要を作成。「未読200件です」などの絶望的な状況でも、AIが話の流れをさっくりまとめてくれる。また、自分に割り振られた仕事をワンタッチでタスクとして設定することもできる。
2:文書作成
海にでかける社内旅行パンフレットの作成をデモ。「旅行の目的を5つ書きだして」「どんな遊びができるか列挙して」「ビーチの写真を作って」と文字で指示するだけで、AIがパンフレットの中身を作成。
3:ビデオ会議
デモでは会議の内容の書き起こし、概要の作成、タスク設定までをAIが担当しています。途中参加しても、それまでの内容をAIがまとめてくれるので遅刻し放題に(?)。
4:ミニアプリ作成
手書きの構想図を写真撮影するだけで、それを読み取ったAIが簡単なアプリを作成する機能。デモでは「社内向けのお昼ご飯注文アプリ」をさくっと作成。
実際にAIを試せたわけではないので、どこまで使い物になるのか、未知数な部分もありますが、「とてつもなく便利そう、働き方が変わりそう」という期待感が高い発表内容でした。
中国生成AIの悩み
生成AIにはハルシネーション(AIの幻覚)と呼ばれる問題があります。事実を無視した虚偽の内容をアウトプットしてしまうというもので、利用者に誤解を与える、フェイクニュースを生み出しかねないと懸念されています。
特に検閲が厳しい中国では、ハルシネーションによって中国共産党や習近平総書記を批判するテキストを生み出せば、企業が厳罰を受けかねないとも懸念されています。大手検索サイトのバイドゥやAIベンダーのセンスタイムなどすでに生成AIを発表した企業も利用できるユーザーを限定することで対策しています。誰でも使えるサービスにすると、それだけリスクが高まるためです。
NHK「キャッチ!世界のトップニュース」で3月11日に放映された特集「中国のAI開発最前線」では、面白いエピソードが紹介されていました。中国ゲーム・メッセージアプリ大手テンセントが公開した対話型チャットに「中国の夢とはなにか?」と質問したところ、「アメリカに移住すること」という答えが返ってきたのだとか。このやりとりが話題となってサービスはなくなってしまいました。2017年の話ですが、今でも、同様のやりとりがあればサービスのお取り潰しは免れられないでしょう。
それでも、アリババは近い将来、一般ユーザーが使えるようにするという、一歩踏み込んだ方針を示しました。会議概要やオフィス文書の作成など、ビジネスシーンに限定することでリスクを回避できると踏んだのではないでしょうか。
早くも生成AIサービス管理法が誕生へ
中国政府もすばやい動きを見せています。すでに今年1月にはAIを使ったディープフェイクの規制法を施行していますが、4月11日には「生成AIサービス管理法」(生成式人工智能服务管理办法)のパブリックコメント稿が公開されました。おそらく数カ月以内に施行されるものとみられます。
草案を見ると、第3条に「国家はAIアルゴリズム、フレームなどの基礎技術の独自イノベーション、アプリケーションの普及、国際協力を支持し、安全で信頼できるソフトウェア、ツール、コンピューティング、データリソースの優先的採用を奨励する」とあります。生成AIを支持する姿勢を示したことは、AI企業にとっては一安心でしょう。
一方で、第4条1項では「生成AIの生成したコンテンツは社会主義核心価値観を体現したものでなければならない。国家政権や社会主義制度の転覆、国家の分裂の扇動、国家統一の破壊、テロや原理主義の称揚、民族の亀裂、民族差別、暴力、ポルノ情報、フェイクニュース、経済・社会秩序を攪乱する内容であってはならない」と規定されています。また、第4条4項では「生成AIが生成したコンテンツは真実かつ正確でなければならない。フェイクニュースの生成防止策をとらなければならない」とあります。
こうした規定に違反した場合、3カ月以内にAIを訓練し直して対応することも定められました(第15条)。
となると、やはりChatGPTのような自由な使い方ができる製品を公開することは難しいように思われます。アリババのように活用シーンをかなり明確に限定し、実務的な利用法を目指すのが中国流となりそうです。