ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡「ファーストスター」に迫る。これまでで最も古い球状星団を発見
2022年9月29日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)計画に参加するカナダのトロント大学の研究チームは、観測データからこれまで観測された中で最も古い、ビッグバンから5億年以内に形成されたとみられる球状星団を発見したと発表した。球状星団は10万~百万個の恒星が球状に集まったもので、JWSTが発見を目指す宇宙最初の恒星「ファーストスター」が含まれている可能性がある。成果は9月29日付けの天文学術雑誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に掲載された。
The Sparkler: Evolved High-Redshift Globular Clusters Captured by JWST
ビッグバンから数億年後の宇宙に誕生したとされる最初の星「ファーストスター(初代星)」発見はJWSTの科学目標のひとつ。球状星団は非常に古い星の可能性があるものの、これまで最も古いとされる球状星団の年齢はビッグバンから12.5億年後とされ、最も古い恒星とはまだ年代の開きがある。
2022年7月に公開されたJWST最初の観測画像「ファースト・ディープフィールド」は、JWSTのこれまでにない高解像度の観測能力と、46億年前に誕生した銀河団SMACS 0723による重力レンズ効果で遠方の銀河を詳細に観測することが可能になっている。トロント大学を中心とするカナダのCANUCS研究チームは、この観測データを分析し90億光年離れた「スパークラー(線香花火)銀河」の周囲に見える球状の天体「スパークル(火花)」に着目した。スパークルは恒星が活発に形成されている若い星団か、あるいは恒星の形成が停止した古い球状星団のどちらかだと考えられた。
CANUCS研究チームがハッブル宇宙望遠鏡(HST)の過去の観測データも加えてスパークル天体を分析したところ、12個のスパークルのうち、5個は非常に古い恒星の色と一致することがわかった。この5個のスパークルは球状星団であり、形成時期はビッグバンから5億年後と、これまで観測された中で最も古いものと考えられている。最も古い球状星団の中にファーストスターが含まれている可能性があり、JWSTの成果は宇宙最初の星を数百万個以内に絞り込んだことになる。
さらにこの球状星団は宇宙で最も早く星の形成が止まった天体である可能性もあり、球状星団の形成を理解する新たなデータとなる。スパークルに含まれる球状星団の年代が確認されれば、球状星団の形成と銀河形成の初期段階との間に深い関係があることが示唆されるという。
英国の天文学者で『ファーストスター 宇宙最初の星の光』(2022年 河出書房新社)の著者エマ・チャップマン博士は、「これまでファーストスターは発見されておらず、『宇宙のどこを探すべきか』ということそのものが非常に大きな課題でした。古代の球状星団を観測することで、私たちはファーストスターを宿す最古の領域に一歩近づけたのだと思います。JWSTの観測画像はこれからもっと増えるわけですから、本当に素晴らしい発見だと思います」とコメントした。
JWSTによる遠方の銀河の観測は今後も予定されており、銀河団の持つ重力レンズ効果とJWSTの観測能力を組み合わせることで、遠方の小さな天体を詳細に分析できると期待されている。