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イタリアの超高級ホテル「ポケモンGO」依存症のお客様にデジタル・デトックスのセラピーを55万円で提供

佐藤仁学術研究員・著述家
(Hotel Byron)

世界中で「ポケモンGO」が大流行だ。スタートした時のようなブームは消え去り、もうだいぶ飽きられて、落ち着きを取り戻したが、大金持ちもスマホの中のポケモンに夢中になっているようだ。

1泊55万円からの「ポケモンGO」セラピー

イタリアのトスカナ州ルッカのフォルテ・デイ・マルミにある超高級ホテルのHotel Byronでは、ホテルに宿泊に来る億万長者やその家族らがせっかくリゾートでバカンスを楽しみにきたホテルの中でもスマホの中のポケモン探しに夢中になっているようだ。

あまりにも「ポケモンGO」の依存症になっているお客様が多いことから、同ホテルのSalvatore Madonna氏は、精神科医によるカウンセリングやセラピーをうけられるプランを提供することを決めた。具体的なカウンセリング内容や詳細なセラピーメニューは明らかにされていないが、Hotel Byronを訪れる大金持ちのお客様を対象に「ポケモンGO」依存症から脱却するためのプランを提供していくようで、イタリアのパドゥアの心理学者 Serenella Salomoni氏の協力を得てプランは作成されたそうだ。いわゆるデジタルデトックスのサービスを提供していく。Hotel Byronでは以前にもスマホ依存症のお客様のために同様のプランを提供したことがあるそうだ。

但し、Hotel Byronは超高級ホテルで、常連客はアラブや欧州の大金持ちが多いようで、ふつうに宿泊しても1泊1,000ユーロ(約11万円)以上するが、この精神科医らのカウンセリングが受けられるプランは1泊5,000ユーロ(約55万円)からだ。

(Hotel Byron)
(Hotel Byron)
(Hotel Byron)
(Hotel Byron)
(Hotel Byron)
(Hotel Byron)

「デジタル・デトックス」で心も体もリフレッシュ!

現代社会は、デジタル社会だ。常にスマホがないと不安でしょうがないという人も多い。スマホを自宅に忘れてきてしまっただけで不安になってしまうという人もたくさんいる。FacebookやTwitter、LINEで誰かと繋がっていないと不安で仕方ない。ネットでニュースやメールのチェックができないとイライラしてしまう。他に何をしていいのかわからなくなってしまう。このような症状に陥ってしまったことがある人がたくさんいることだろう。

このように現代社会で生活している我々はインターネット、つまりデジタル世界と常に接続されていないと生活できない、不安になってしまうという人がたくさんいる。多くの人がデジタル社会に毒されている。そこでデジタルに毒された生活や社会からの解放、「解毒(デトックス)」作用として注目されているのが「デジタル・デトックス」だ。他にも「ネット断食」(スマホやネットなどのデジタルから離れ、それらを使わない日や時間を設けること)などと呼ばれることもある。

最近ではスマホ等のデジタル・デバイスを預けるところから開始する1泊2日の「デジタル・デトックス」をウリにした旅行プランもあり、老若男女に人気があるようで欧米で話題になっているようだ。欧米ではスマホやPCなどに触れない生活を楽しむ、つまりデジタルから解放され大自然を楽しみながら「デジタル・デトックス」を行うためのツアーなどもあり人気がある。それら「デジタル・デトックス」ツアーがネット上にたくさん情報が出て、スマホでみんなが探しているのも皮肉なものだが。

「デジタル・デトックス」は偶然からやってくる:開き直りのすすめ

デジタルから離れることは、意外にも偶然にやってくることが多い。例えばスマホが壊れたり、水没してしまって使えなくなった時、最初は物凄い焦りを感じてしまう。友人や家族と連絡が取れなくなるし、SNSのチェックやゲームも出来なくなってしまう。ここで気持ちを変えて「壊れてしまったものは仕方がない」と開き直って、修理に出して復活している間はスマホを使わないで我慢してみると、スマホを所有していないことがストレスに感じるどころか、むしろストレスの軽減になっていることに気付くかもしれない。

他にもたまたま旅行で訪れた国や地域の通信環境が悪く、最初は困ったなと思うだろう。特に最近の日本では、あらゆるところで携帯電話の電波も繋がってしまうが、海外ではネットに接続できない環境に身を置かざるをえないことがしばしある。いつもは日常的にネットに繋がっているのに、いきなり繋がっていない環境に身を置くことで不安やストレスを感じるだろう。しかしデジタルから隔離された生活に慣れてくると、意外にもネットに繋がっていないことに快適さを感じるようにもなってくる。スマホやネットから物理的に切り離されたことによって「繋がっていないものは仕方がない」と開き直らざるを得なくなる。

そして慣れてくると、常にネットに繋がっていなくても致命的な支障には至らないことに気が付くものだ。「いっそのことネットに繋がらないなら、今いる国や地域の旅行を楽しむことに集中しよう」と思えてくるものだ。そう開き直ってみると、デジタルから隔離された生活はむしろ楽しくなってくる。

ここまでデジタルが浸透してしまった現代社会においては容易にデジタルから離れることはできないと考えてしまいがちだ。わざわざ旅に出なくとも、例えば、まずは週末の1日だけネットやスマホに触れない生活を始めてみることができる。それも難しいというほどデジタルに毒されている方は、今日から家に帰ったらスマホ、PCに触らないなど簡単に出来るところから始めてみるのもよい。ネットやスマホが登場してから、それらは人間の生活に大きな利便性をもたらした。一方で、人々は多くの時間をデジタルに奪われた。ほんの20年くらい前まではネットもPCもスマホも無くても、何の支障もなく生活ができた。

本来は「デジタル・デトックス」や「ネット断食」のような仰々しいイベントにまでしなくとも、日常生活の中でデジタルとの距離感のバランスをとるべき行動が求められているのかもしれない。少しずつ出来るところから「デジタル・デトックス」をしていくことによって、心も体もリフレッシュできるのだろう。スマホやネットは現代社会の生活インフラになってしまったから、最低限のアクセスは必要だろうが、「ポケモンGO」がなくても人生で困ることはほとんどないだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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