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【戦国こぼれ話】大失敗に終わった豊臣秀吉の朝鮮支配政策の全貌

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
豊臣秀吉の朝鮮侵略は、大失敗に終わった。(提供:アフロ)

 本年2月にはじまったロシアによるウクライナ侵攻。当初の予想を覆してロシアは大苦戦だが、それは当然だろう。他国侵攻が容易ならざるのは、かつての豊臣秀吉の朝鮮侵略から明らかである。今回は、その支配政策の全貌を確認することにしよう。

■文禄の役のはじまり

 文禄元年(1592)3月、豊臣秀吉による朝鮮出兵が開始された(文禄の役)。日本軍は約16万人の軍勢と言われ、小西行長らの諸将が率いた。

 戦いの火蓋が切られると、日本軍は最初に釜山城を落とした。やがて黒田長政、加藤清正の軍勢が合流すると、5月漢城を攻略した。

 日本軍が放火をしながら、宮殿へ雪崩れ込むと、朝鮮国王をはじめ人々は散り散りに逃げ出した。宮殿に残った金銀財宝は、日本軍が接収した。日本軍の圧倒的な勝利である。

■驚嘆する秀吉の方針

 漢城陥落後の5月16日、秀吉は朝鮮占領政策を指示した。その概要は、日本兵に現地で乱暴狼藉を働かせないこと、朝鮮の町人や農民を還住させることに加え、ソウルの中心に秀吉の御座所を造営するというものだった。

 5月18日、秀吉は関白豊臣秀次に対して、驚くべき構想を打ち明けた。それは、全部で25ヵ条の覚書となっており、要点を記すと、次のような内容であった(「尊経閣文庫所蔵文書」)。

①関白秀次を中国の関白にする。そして、北京の周囲100ヵ国を与えるとし、来年早々に出陣するように準備を整えよ、との指示。

②翌々年の1594年に、後陽成天皇を北京に移し、周囲の10ヵ国を進上する。その範囲で公家衆にも知行を宛がい、後陽成が北京に移動する際には、行幸の形式を取ること。

③後陽成の後には、皇太子良仁親王か皇弟智仁親王のどちらかを天皇にすることにし、日本の関白は、豊臣秀長の養子の秀保か宇喜多秀家にするということ。

④朝鮮には、織田秀信(信忠嫡子)か秀家を置くこと。そして、肥前名護屋には、羽柴秀俊(小早川秀俊)を置くこと。

 秀吉が本気で中国・明や朝鮮を支配下に収めようとした事実を示しており、大変興味深い。

■幻の大名配置

 さらに秀吉は朝鮮に出兵した諸将らに対して、次のとおり朝鮮全域に配置を命じた(『土佐国蠧簡集』)。

①毛利輝元――――――――慶尚道(288万7790石)

②小早川隆景―――――――全羅道(226万9379石)

③四国衆(福島正則等)――忠清道(98万7514石)

④毛利吉成――――――――江原道(40万2289石)

⑤宇喜多秀家―――――――京畿道(77万5113石)

⑥黒田長政――――――――黄海道(72万8867石)

⑦加藤清正――――――――咸鏡道(207万1028石)

⑧小西行長――――――――平安道(179万4186石)

※総計――8191万6186石(上記の合計と史料上の合計は合っていない)

 秀吉は朝鮮全土を支配することを前提として、配置を行った。諸大名は出兵に際して多大な経費の負担を強いられたが、あてのない異国・朝鮮の土地を宛がわれても、非常に困惑したに違いない。

 これより以前の天正20年(1592)、秀吉は日明貿易の拠点だった寧波に拠点を置き、さらに天竺(インド)までも侵略しようと考えていた(「組屋文書」)。

 さらに天正18年(1590)には、琉球(沖縄)、高山国(台湾)、ルソン(フィリピン)にも服属と入貢を要求していた(「尊経閣文庫所蔵文書」)。

 秀吉自身は明と朝鮮の支配を夢に描き、さらに大名の配置まで決定したことに一人心躍らせ、悦に入ったことであろう。そして、その夢は、さらに東アジア支配へと広がっていたのである。もはや秀吉に意見する者は、誰もいなかった。その点がのちに大きな禍根を残すことになる。

■まとめ

 秀吉の構想は、朝鮮民衆の抵抗により挫折した。慶長3年(1598)8月に秀吉が病没すると、日本軍は朝鮮と和睦し、一斉に兵を日本に引き揚げたのである。他国への侵攻は、簡単に成功しないのだ。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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