熊本地震「車中泊」+「SNS拡散」による「二次災害」を防げ
熊本地震の大きな特徴は、避難者の「車中泊」と被災地情報の「SNS拡散」が多いことです。実際に現場を歩いてみて、最初の大地震直後から見られるこの2つの組み合わせへの対応の遅れが、今、現場の混乱を引き起こす深刻な要因になりつつあることを感じ、具体的な提案とともにまとめたいと思います。
昨年、鬼怒川が決壊した9月の東日本豪雨災害で、私は自治体ごとに情報発信や災害広報に格差があることを指摘し、いざという時、生活する地域の差が得られる情報の差、ひいては命の差になってはいけないことを訴えました(こちら)。今、災害時の情報格差を生まないための、そして少しでも減災へとつなげる災害広報の基準づくりをさまざまな専門家と共に進めています。
そんな中でマスコミ報道では見えない課題を探ろうと、熊本市や益城町などでボランティアの受け入れが始まった週末、今回の熊本地震で最も被害のひどかった地域である益城町、御船町、西原村を避難所やボランティアセンターを中心に回りました。
●これまでの災害に見られなかった状況が生まれている
今回の避難生活で注目したい特徴は次の2点です。
1.避難者の車中泊が多い
避難所にもたくさんの避難者がおられますが、避難所に入りきらなかったり、夜の余震が心配だったり、あるいは避難所で得られないプライバシーの確保などさまざまな理由で車中泊をしている人が数多いことです。
すでに多くのメディアが取り上げているポイントの1つで、主要な問題として指摘されているのはエコノミークラス症候群なのですが、現場ではその他の問題も出始めています。詳しくは後述します。
2.被災地情報のSNS拡散がすごい
建物被害が大きかった割には「今のところ」火事が少なく、津波もなく、また原発事故も起きておらず、そして通信網が生きています。その結果、被災地でも広いエリアでスマホが使えます。
その結果、被災地から個人が発する一次情報が、直接ネットに広がっています。
被災者、避難者が自分で発信するのはもちろん、地元出身者やその知人などによる拡散もあり、その中にはデマや思い込み、噂ベースで現場に新たな混乱を招く情報も混在しています。
●ネットの情報で「機動力のある避難者」が動く
「物資が足りません、誰かすぐに送ってあげて」
避難生活が始まったすぐ後、メディアでも援助物資がスムーズに分配できないことが問題視される頃、そんなメッセージがツイッターで流れ、全国から援助物資が直接、大量に送られてきた避難所も少なくありません。
避難所の運営に携わる人たちに話を聞いても「助かった」と皆さん口をそろえていました。SNS拡散は初期のタイミングでは有効に機能した面があります。
しかし、すでに発災から1週間以上経ち、物流も動き出していることもあって支援物資も届いているし、(営業できている)店の棚には商品も並んでいます。早くからさまざまな応援も入っていて、避難所によっては看護師が常駐していたり、ボランティアによるマッサージを受けられるところもあります。
その一方で、行政の災害対策や避難所やボランティアセンターの運営で仕組みが整ってくる中、SNS拡散が新たな影響を与え始めているのです。
「温泉が開放されているらしい」
そんな情報がネットを駆け巡って対応に追われたことを話してくれたのは、約2000人が避難生活を送る避難所のボランティアリーダーです。施設内にある温泉を子供や高齢者に使えるようにしたところ、一般開放していると誰かが発信。それが拡散されて、あちこちから人が押し寄せてきたと言います。
「車中泊」の人たちは、「機動力のある避難者」です。
避難者自身が、ネットの情報をもとにして動いている。これがこれまでの避難者のイメージとの大きな違いです。
「炊き出しあるって」「物資大量に余ってた」
たとえばこうした情報がツイッターで拡散する。次の瞬間、別の場所にいる避難者などが集まってくるわけです。
●「ネットの話題」に現場が右往左往
「○○小学校で物資が足りない、とSNSで拡散しているという話が災害対策本部に入ってきました。それで『すぐ送れ』と指示が飛んだのですが、同時に『そんな訳がない』という声も上がりました。災害対策本部から、毎日各避難所に確認をしている。必要な物資は把握できていて、今この時点で足りないということは有り得ない、という話です」
益城町の災害対策本部にいたある議員は、そんな話を教えてくれました。
SNSで拡散する情報が、必ずしも最新のものとも、正しいものとも、限りません。
ところがそれをもとに人は反応、行動します。
取材を進める中で、繰り返し報道され注目されている益城町の大型避難所である総合体育館には全国から支援物資が使いきれないほど豊富に届いており、周辺の小規模な避難所で物資が少ないところに分配しないのかどうかと聞いた人が「この先、何があるかわからないからその予定はない」と言われた、という話を聞きました。
益城町の災害対策本部でその話を確認すると、
「そんなことはない。届いた支援物資はJAの倉庫にいったん集められて、そこから各避難所に分配されている」
と言います。
こうした噂もネットで広まりやすい。自治体は、そんな噂やネットの話題への対応が圧倒的に不十分なのです。
●「車中泊」+「SNS拡散」による「二次災害」
不自由な生活を強いられている人たちに、必要とされているものが提供されること自体は良いことです。問題は、避難所単位の運営や見通しが立てにくく、一時的に押し寄せる「車組」で現場に新たな混乱あるいはトラブルが生じることです。
多くの避難所では、車中泊の避難者を把握できていません。
実際、自治体が発表する避難者数にカウントされていない「車中泊」の人たちも多数にのぼると言われています。
避難所の駐車場はスペースに限りがあります。にもかかわらず、先に来た車中泊避難者が物を置いて空き駐車スペースをキープしています。
後から来た人が駐車できないので「キープ禁止」を伝えたところ、「大ブーイングが起きて、黙認に戻りました」(益城町総合体育館のボランティア談)などという話を聞きます。
このままいくと、今後、地域外からの避難者やボランティアなどの支援者などが集まってきた時に、新たな混乱やトラブル、つまり「二次災害」が発生することが明らかです。
デマによって何者かが意図的に「車中泊」の避難者をどこかに集めて現場を混乱させる、といったことも起きる可能性があります。
●公式情報が圧倒的に足りない
今回、熊本県内の自治体間でやはりネット対応に大きな差が出ています。
熊本県庁は比較的早い段階でホームページをデータ量の軽い特別災害モードに切り替えました。手元の記録では4月15日の午前はまだ通常モードでつながりにくかったですが、午後には切り替わっています。大規模な土砂災害のあった南阿蘇村も16日午後には災害モードになっています。
一方で、益城町はしばらく通常モードでアクセスしにくい状態が続いていました。災害モードに切り替わったことが確認できたのは19日。マスコミも大量に押し寄せて対応に追われているのは想像に難くありませんが、発災から10日以上経った今でも、避難者数や避難所の情報、もっと言えば町長の名前も出ていないのは、災害広報があまりに悪いと言わざるを得ません。
もともと、九州の自治体はソーシャルメディア対応が全体的に遅れています。減災インフォによると2016年2月時点で自治体のツイッター導入率が関東58%に対して九州・沖縄は26%(詳しくはこちら)、県別に見ると、熊本県は全国でもワースト5に入る11%(2015年6月末時点)(詳しくはこちら)です。
聞けば、あれだけ多くのマスコミが現地入りしている益城町災害対策本部の広報担当は、わずか一人だと言います。茨城県常総市の水害の際、常総市の災害対策本部には、茨城県庁や水戸市役所などからネット対応にのべ20~30人が派遣されていました。
熊本県でも、さまざまな自治体から、災害支援のスタッフが送り込まれていますが、広報系が圧倒的に脆弱です。
災害支援を効果的に生かすために必要なのは、現地発の情報です。マスコミ特にテレビの報道は印象ベースで目を引くものを中心にされがちで、長期的な現場のニーズを継続的に伝えることに向いていません。報じられた内容に興味を持って調べに来る人に、詳しい情報を見てもらう必要もある。そうした中で、関心のある人たちに向けて情報を出すには、ネット対応、とりわけツイッターを活用したリアルタイムの情報発信が重要です。
避難所ごとの状況、ボランティアセンターごとの状況を、もっとリアルタイムにネットで更新していく体制を早く築いた方がいい。
行政のスタッフは必ず手が足りないと言います。
一方で、仕事がなくてボランティアが余っています。
私が益城町を訪ねた日、町のボランティアセンターには600人以上のボランティアが集まりましたが、1時間ほどで受付は終了。ボランティアに来ても仕事がなくて帰って行った人たちも少なくありませんでした。
ボランティアセンターのスタッフによると、余震が続いていることや、建物被害認定調査がまだ十分に進んでいなかったり、片づけを始められる状態になかったりして、がれき撤去などの作業ニーズがまだ多くなく、避難所での物資仕分けや配布などに作業が限られているためとのこと。
「ニーズ把握が困難」と自治体やボランティアセンターは口をそろえるのですが、その「余っている」ボランティアに早く「ニーズ把握」の役割を担ってもらった方がいい。
具体的には、避難所の駐車場で場所をキープしなくても、戻ってきた時に安心して使えるような仕組みを作る。車中泊の避難者をカウントし、ニーズを聞き、急な混雑にも対応できるよう駐車スペースの状況も合わせてネットで公開する。
避難所内の状況やボランティアセンターの稼働をリアルタイムに伝えて、ボランティアが本当に必要とされている場所に行けるようにする。
SNS拡散している情報が「嘘」もしくは「古い」情報である時に、確認する情報チャンネルとなる。
それだけで、GWなどで殺到するであろうボランティアや今後の支援の動きと、変化する被災地のニーズがマッチしやすくなり、無用な現場の混乱やトラブルを最小限に留めることができます。
●将来の減災に向けて
災害時の自治体広報の差は、毎年策定されている「防災計画」と「平時のネット活用」を見れば、大よそ見当がつきます。
日頃からネット活用ができていない自治体は、いざという時も発信ができない。
でも、対応を急げといってもすぐに積極活用できる所ばかりでもない。そんな時に頼りになるのが地元の「ゆるキャラ」アカウントです。
鬼怒川の水害では、地元茨城県のゆるキャラの「ねば~る君」が自治体や警察・消防などの情報を休みなくシェアし続けていたため、平時に不活性だった自治体によるネット発信もカバーされたところがあります(詳しくはこちら)。
今回、「くまモン」のツイッターが発災直後から沈黙し続けているのは、「この度の地震に見舞われた方々の事を最優先に行動しているところであり、SNSでの情報発信については控えております」とするコメントを公式サイトで発信していますが、内部事情を知る人たちからは「外注だから対応できない」と漏れ聞こえてきています。
熊本県の地域防災計画には、収集し広報する情報については具体的に書かれてあるのに、ネット上の発信方法は、「インターネットを活用する」という曖昧な言葉でしか書かれていません。来年以降の熊本県の地域防災計画には、くまモンアカウントがどういう役割を担うのかを定義しておくべきでしょう。
47万人ものフォロワーに対して、直接情報を発信できるチャンネルがもしも有効に機能すれば、広域にリアルタイムに公式情報を伝え、デマを打ち消したり、混乱を収めるために十分役立てられるはずです。
今回、最初の援助物資が届いたのは、離れたところに住んでいる卒業生のツイートがきっかけだったと言う話を避難所指定されている複数の学校で聞きました。
ほとんどの自治体の防災計画は、「住民」を対象にしていますが、いざという時に、情報面で大きな力を持つのは被災地の外にいる地元出身者や地元に所縁のある人、利用者だということを認識し、そんな人たちの力を借りながら、防災を考えることだと強く思います。
そしてもしも、あなたの出身地の自治体でネット発信が遅れているようなら、ぜひ急ぎ対策を促してください。
早期の対応を願いつつ、被災地の皆さんの生活が一日も早く落ち着くことをお祈りしたいと思います。