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東日本豪雨で格差浮彫り!災害時の自治体広報の課題

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

9月10日以降、栃木県・茨城県・宮城県に特別警報が発令された大雨。「数十年に一度」の雨量で「最大限の警戒を」とニュースでは早くから繰り返し呼びかけていたものの、各地に大きな被害が出ています。

広報・コミュニケーションを生業にしている身としては、現場の様子が心配なのに加え、こうした状況で、どのような情報発信が効果的かを考える上でも、実際に行われている広報活動をしっかり見ておこうと思い、10日朝の段階で栃木と茨城の県・市・知事・市長・地元議員などのツイッターアカウントをリスト化するなどして、どこからどんな情報が発信されているのか、どのように情報が伝達されているのかを追っていました。

その結果明らかになったのは、自治体ごとの広報・情報発信の格差でした。

おそらく、近年の様々な自然災害を通して、日本における全体的な非常時の情報伝達は格段にレベルアップしていると信じますし、今現在も現場では対応に追われていることを十分に理解してはいますが、暮らす町の差が住民の情報格差、ひいては危険度の差にならないよう、そしてこの先少しでも減災につながることを願って、今回浮き彫りになった自治体広報、とりわけネット広報の差をリストアップし、問題提起も兼ねてまとめておきたいと思います。

はじめに、今回の大雨で被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。まだ行方不明の方もいらっしゃいます。無事をお祈りしています。

いち早く非常時サイトに切り替えた常総市、特別警戒情報も出さない隣町

災害時には自治体HPにアクセスが集中しやすく、またユーザー環境も差が大きくなることから、情報を絞ったデータ量の軽い特別版に切り替えると、ユーザーの利便性が飛躍的に向上します。そんな考えもあったのでしょう。今回被害の大きい茨城県常総市は、とても早い段階からトップページを緊急災害時用の特別デザインに切り替えていました。

常総市の緊急災害情報用HP
常総市の緊急災害情報用HP

その一方で、隣接する八千代町は、HP上に特別警報に関する情報もなく、地元住民によると、避難指示が出る一方で翌日の学校は通常登校の連絡が流れ、朝になって避難指示が解除されたと思ったら今度は防災無線で休校の連絡が流れたと言い、被災者が多数いる中でさらに翌日の学校では体育祭、というような状況らしく、理解できないという怒りの声がネット上に噴出しています。

少なくとも緊急事態と認識した時点で、自治体には、発信の体制を変え、いち早くその認識や注意を促す情報の発信を期待したいところです。

知事より強い「ゆるキャラ」と日常の自動ツイートを続ける市

今回、自治体広報で改めて注目したのは、ゆるキャラのツイッターです。たとえば、栃木県のとちまるくんや宇都宮市のミヤリー、茨城県のねば~る君、茨城町のひぬ丸くんなどが積極的に災害関連情報を見つけて転送しており、「彼ら」が災害時に重要な役割を果たす新たな可能性を感じました。

こうしたキャラは、日頃からフレンドリーな口調で幅広い種類の投稿をしており、アカウント自体が活性化していることから、災害時でも発信される情報への反応が得られやすいという特色が見られます。Fbページで比較しても、茨城県知事よりもねば~る君のページの方がはるかに「いいね」が多い。その意味で自治体広報の公式アカウントとは別のメディアとして、幅広く情報を伝達できる潜在力を感じました。

その一方で、たとえば栃木県那須烏山市のように、以前からツイッターを使っていながら、特別警報下でも普段通りのHPの更新情報が自動で流れ続けるだけのような例も見られ、今こそ積極活用しなくてどうするのかと課題を露呈する自治体もありました。

何県かはっきり書かない市が多い

各市のHPを見ていくと、県名を明示していない市がたいへん多いことに驚きます。確かに、日頃、市役所のHPを見る人たちの中心は市民・住民なのかもしれませんが、県外からアクセスするユーザーや災害時に検索する人にとっては、一目見て何県にある市なのかが分かるかどうかは大きな差になります。

たとえば、今回、被害の出た鹿沼市小山市。鹿沼市はトップページの上の方に県名の明示された地図がある一方で、小山市はゆるキャラの投票を促す画像がドーンと出ているだけで県名がすぐに分かりません(共に栃木県です)。馴染みの深い人なら何県にあるかは常識でしょうが、ツイッターなどソーシャルメディアでの投稿も含めて、県名と市をセットにした表記で発信してもらえると、誰にとっても直観的に分かりやすく、位置関係をイメージしやすいです。

自治体の対応が困難なら地元議員に期待も

災害時の情報チャンネルとして、議員の存在は無視できません。たとえば、茨城県桜川市は、市のHP上にこれまた一切、特別警報などの情報が出ていませんし、ツイッターにあるリンクをクリックしてもリンク先ページがなくなっていたりするなど情報導線の整備がお粗末な状況ですが、今回の大雨で地元の市議会議員が被害状況や避難状況をツイッターで伝えるなどしています。

他の自治体でも、今回、あちこちで県議会議員や市議会議員が避難所を回って避難人数などをツイートしている様子が見られ、それを見た地元の人たちが、さらにその人物にネット上で情報を共有し、それをまた議員が配信するという姿をよく目にしました。こうした現場の細かな情報は、エリアごとの深刻さを把握する上でも貴重です。

とりわけ自治体の情報発信が十分でない場合、こうした人たちの果たす役割が小さくないものと見られます。

ユーザーの利便性で大きな差がつく小さな工夫

最後に、利用者の視点からすぐに改善につながりそうなアイデアをいくつかまとめておきます。

1)県内・市内の関連アカウントリストと災害時用アカウントがほしい

県庁のHPには、県庁内だけでなく、県内にある市町村のツイッターアカウントリストを掲載し、ページ遷移せずにフォローできるようにしてもらえると、日頃ウォッチしていない人にとっても情報へのアクセスが飛躍的に早く楽になります。また、'''災害時用の特別アカウントを用意しておいてもらい、それ1つをフォローすれば、異なる市町村や部署から発信されるものも含めて関連情報が網羅的に得られる仕組みになっていると、その時だけ情報が欲しい人にとってもとても便利'''です。

2)県知事・市長のアカウントを災害時に臨時開放したらどうか

知事や市長のツイッターアカウントは平時には熱心に政策・成果アピールしているにも関わらず、災害時にはほとんど活用されていません。比較的多くのフォロワーがついている、せっかくの情報インフラなので、緊急時には広報部門がそうしたアカウントから情報を直接発信できるように事前に運用方針を決めておくと、より幅広いユーザーに早く情報を伝達できる可能性があります。また、県議会・市議会のHPには議員の名簿にソーシャルメディアアカウントも掲載してもらえると、こうした非常時に熱心に活動・発信している議員の存在を認識、あるいは見直すきっかけにもなりそうです。

3)ツイッターから何でもかんでもHPに飛ばさない

自治体のツイートは、タイトルとリンクアドレスだけでの投稿が多くなりがちですが、災害時には回線状況の悪いところからアクセスしている人も少なくありませんし、HPにアクセスが集中するとサーバーが落ちます。

たとえば今回、仙台市がエリアメールを送って市のHPにアクセスを誘導した結果、つながりにくい状況が続きました。ツイッターは災害時にも比較的安定しているインフラなので、ツイートだけでも分かるように、投稿を分割して情報発信することも検討したい工夫の1つです。

広島の土砂災害を経験した人物によれば、豪雨と洪水で停電し、防災無線の声は聞こえず、地上波を配信するケーブルテレビが止まってテレビはBSしか見られず、状況がまったく分からなかったと言います。そうした際でもエリアメールがもし使えるのであれば、ネットではなくラジオを案内するのも手でしょう。

4)投稿は見つけやすく誤解されにくい形式で

フォローしている人だけがツイートを見ている訳ではありません。キーワード検索や#タグで情報を追っている人もいますので、市役所の投稿にも県名を入れるなど、検索で見つけやすくして発信してもらえば、より多くの人に情報を届けられそうです。また、ツイートは、RTされる時に元々の発信時間が分からなくなって広まる可能性があるので、いつ時点の情報か、時間をツイートの中に文字で入れておくのも手でしょう。

また、自治体の情報の多くは文字が多くて分かりにくいことから、とりわけ災害時には画像を組み合わせる工夫がぜひほしいところです。とかくメディア報道は被害の最も深刻な場所にスポットライトが当たりがちですが、応援や支援を必要としている場所は他にもたくさんあります。現場から発信される画像があれば様子も伝わりやすく、ネットを通じて応援・支援の力が早い段階から生まれる可能性があります。

参考:栃木県那須塩原市のFbページ投稿

5) ×情報に○情報も加えて、行動を具体的に

災害時には、とかく問題が起きているモノだけを紹介しがちですが、通常通り使えるモノを一緒に伝えることで、スムーズな行動を促しやすくなります。特に情報が錯綜しているような状況では、「××しないでください」よりも「○○してください」と言う方が説明の表現としてはるかに分かりやすいという意味です。使えない交通・停電・断水なども重要な情報なのですが、行動を喚起する場合には、向かってほしい選択肢を固有名詞で挙げる方が分かりやすいです。

災害の情報を探している際、たとえば今回であれば、「洪水時には長靴ではなくスニーカーなど普段使いの靴に」とか、トイレの逆流対策、あるいは、「LPガスボンベが流れている場合には触らないように」といった災害豆知識の情報が、具体的であればあるほど重用されます。また、災害現場では空き巣被害も出ているので、少しでも余裕があれば意識すべき注意点も伝えたいところです。

6) 避難所の状況、物資・ボランティアの受け入れは相互連携で

地元以外の人たちも注目する情報については、随時アップデートして最新情報を伝えてもらいたいところですが、今回の常総市などのように市役所もたいへんな状態になっているとかネット対応に手が回らないところなどは、県や近隣市町村、関連団体に発信を肩代わりしてもらうのも手かと思います。常総市の場合は、茨城県庁が積極的に情報共有に協力しており、ネット上の情報発信に力を入れていることがよく伝わってきます。

以上、ユーザーの立場から見て、速やかな情報の理解や活用につながる具体的なポイントについて、まとめてみました。自治体によってネット活用は大きな差がありますが、少しでも今後の改善につながるよう、検討のネタに使ってもらえたら幸いです。

2015/9/18追記: たいへん大きな反響を頂きましたので、この続報を日経ビジネスオンライン連載「金曜動画ショー」に書きました。合わせてお読みください。⇒金曜動画ショー「東日本豪雨で露呈、茨城・栃木の災害広報格差」

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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