「ナイル殺人事件」で“一番美味しい役”を演じた新人女優は、メイドの役でオーディションを受けていた
アガサ・クリスティ小説の映像化作品の大きな魅力は、超豪華キャストが揃うこと。その中の誰が犯人なのか、原作や過去作を通じて知っていたとしても、絶対にまた見たくなる。
25日に日本公開となったケネス・ブラナー監督の「ナイル殺人事件」も、ガル・ガドット、アネット・ベニング、ラッセル・ブランド、ソフィー・オコネドー、(個人的なスキャンダルでネガティブなイメージがついたものの)アーミー・ハマーなど、有名どころが揃う。だが、一番美味しいジャクリーン役を演じるのは、今作でメジャースタジオ映画にデビューするエマ・マッキーだ。
フランス人の父とイギリス人の母のもと、フランスに生まれたマッキーは、現在26歳。この映画のオーディションを受けるに当たって、3人の主要キャラクターのひとりであるジャクリーンを狙うつもりはまるでなく、別の役で受けたのだと、筆者との電話インタビューで明かした。
「メイドの役よ。彼女はフランス人という設定だったから。オーディションは2、3回あったのだけど、ずっと返事をもらえないでいたら、ジャクリーンの役でまた受けてほしいと電話があったの。そのオーディションでは、(主演も兼任する)ケネス・ブラナーを相手に演技をすることになった。彼みたいな大ベテランと一緒に自分が演技をするなんて、信じられなかったわ。それだけでも特別な体験だったのに、なんと私は役をもらえたのよ。それは、もっと信じられなかった(笑)。これは本当なんだと思えるようになったのは、撮影現場に入って、カメラが回り始めてからだったわね」。
マッキーを抜擢した理由について、ブラナーは、「有名スターの中にサプライズを入れるのは、最初から目的だったからね」と述べる。そんな中で、彼は、「熱愛、怒り、嫉妬など、爆発しそうな感情を常に見せ続けることができる、頭の良い女優」を探していたのだという。それがマッキーだったのだ。
とりわけ映画のはじめで、ジャクリーンは、サイモン(ハマー)に対して激しすぎるほどの愛を見せる。サイモンは、彼女が出会った運命の人。しかし、友人で大金持ちの令嬢であるリネット(ガドット)に紹介すると、リネットはサイモンを横取りし、あっというまに結婚式を挙げてしまう。そんな屈辱を味わわされたジャクリーンの感情をきっちり表現することは、「危険なほど激しい愛」をテーマにする今作で、非常に大事だった。
だが、ジャクリーンと自身に共通点はとても少ないと、マッキー。
「そこが一番難しいところだったわ。ジャクリーンは、直感で行動するし、感情にまかせる。キャラクターにこれほどテクニカルにアプローチしたのは初めてよ。声をちょっと変えるようにボイストレーニングも受けたし、身の振る舞いも研究した。サイモンとはどこで出会ったのかとか、リネットとはいつから友達なのかとか、バックストーリーも考えたわ。そういう研究をたっぷりして挑んだの」。
1978年のバージョンでは、ミア・ファローがこの役を演じている。
「あの映画は過去に見ているけれども、今回のために見直すことはしていない。この脚本で、彼女はちょっと違うふうに書かれているし、誰かがやったことをベースにしたくないと思ったし。あの映画はすばらしかった。でも、今作はまた違っている。スケールもビッグだし、衣装やヘアメイクも、とても素敵。パンデミックを経験した今、ぜひ劇場で見たいと人々が思ってくれる映画ではないかしら」。
マッキー自身は、パンデミックのロックダウンをフランスの実家で過ごした。17歳でイギリスに移住し、リード大学で学んだ彼女にとって、久々に家族とゆっくりした時間を過ごすのは、そう悪いことではなかったようだ。
「両親と一緒に市場に行って、新鮮な野菜を買って、料理をして。そんな普通の日々を過ごしたわ。パンデミックでとても辛い思いをした人がたくさんいるのはわかっている。自分が恵まれていると知っているだけに、私はできるだけポジティブでいようとしたの。私たちの物の見方は、このパンデミックで変わったと思う。これを抜け出した時、コミュニティのつながりが以前より強くなっていることを願っている。みんながより良い人間になっていることも。ほかの人たちを思いやり、手を差し伸べようとすることも。もっと地球を大切にすることも。私の中には希望がたっぷりとある。とくに私と同世代の人たちに対してね。私たちの世代は、自分たちと地球を癒すよう、きっと努力していくはずだと信じているわ」。
「ナイル殺人事件」は映画館だけで上映中。
写真クレジット/2022 20th Century Studios. All rights reserved