ラーメンチェーンAFURIがジャンル違いの清酒メーカーに商標権侵害訴訟
ラーメンチェーン店AFURIと言えば、ランキング上位に入ることも多く、少なくとも東京圏では周知だと思います(私もたまに行きます)。そのAFURIが、吉川醸造という清酒メーカーを商標権侵害で提訴したというニュースがありました。吉川醸造は「雨降」と書いて「アフリ」と読ませる商標(タイトル画像参照)を使用して清酒を販売しています。
AFURI社は、ラーメン関連に限らず、多くの指定商品・役務でAFURIの商標登録を行っています。「清酒」については2020年4月14日に登録(6245408号)しています。
AFURI社がAFURIというブランドの清酒を販売しているという話は知らないので調べてみましたが、少なくともネット上では販売の形跡が見つかりません。一般に、3年以上使用されていない登録商標に対しては不使用取消審判を請求することで取消できます。吉川醸造側が何故不使用取消審判を請求していないのか不思議だったのですが、よく見たら、AFURI社は「清酒」を指定して2023年3月6日に再出願(商願2023-023182)を行っていました。
仮に、元の商標登録を不使用取消できたとしても、この新出願が登録されれば再度権利行使され、3年経過するまでは不使用取消できません。違法ではないですが、ちょっとエグい攻め方です。この攻め方に対しては、吉川醸造側が自社の商標を先に出願しておけばよかったのですが、「雨降(AFURI)」の出願(商願2023-032269)の出願日は2023年3月14日と約1週間遅れになってしまいました。一般に、権利関係で争いがある時は一刻も早く出願することが重要です。一日の違いが致命的な結果をもたらすことがあります。
商標権侵害訴訟では、登録商標の「AFURI」と吉川醸造が使用している「雨降(AFURI)」が類似するかが争われることになります。特許庁の審査では(暫定的に)両者は類似するとされていますが、侵害訴訟ではより取引の実情を加味して、消費者が混同するか等の点が重視されることになりますので、非類似とされる可能性も十分にあると思います。また、吉川醸造は、登録6245408号に対して無効審判を請求しています(まだ、ネット上で内容が見られないですが、阿夫利山という地名に由来することから記述的であり無効であると主張しているものと思われます)ので、無効にできれば、侵害訴訟の方も請求棄却になります(この場合、AFURI社の再出願も拒絶になるでしょう)。
AFURIのやり方はもちろん違法ではないですが、ネット上では反感の声も聞かれます。一方、2020年4月にはAFURIが登録されていたにもかかわらず、吉川醸造がそれ以降の2021年に商品を出荷開始したということは商標調査をしないで商品名を決めてしまった(調査はしたが大丈夫と判断したのかもしれませんが)ということを意味します。新たな商品名を決める時は類似商標調査を行い、自社で商標登録出願(さらに時間的余裕があれば商標登録)を行ってから出荷開始するというのはブランド管理の基本です。この基本を怠っても何も起きないこともありますが、今回のようにやっかいなことになってしまう可能性は十分にあるということです。
追記:吉川醸造側も「雨降」(AFURIの文字がないパターン)を製品出荷開始時に商標登録出願し、2021年6月30日に登録(6409633号)していました(なお、この登録に対してAFURI側が無効審判請求しています)。しかし、実際の商品のラベルはAFURIの文字が付いた商標になっています。商標登録できたということはその商標を使用できる一応のお墨付きが得られたこと(他人から権利行使されないこと)を意味するのですが、それは登録商標と同一の範囲の使用の話であって、類似範囲には及びません。実際に商品に使うパターンで出願しておくべきだったと思います(もちろん、そうしたとしても無効審判を請求される可能性はありますが)。