ディズニーリゾート エンターテインメントホテルへの期待
TDRのテーマパーク事業とホテル事業の相関
2020年、テーマパーク業界は、新型コロナウイルス感染症の影響で極めて厳しい年となった。東京ディズニーリゾート(TDR)も、政府等からの営業自粛や時短営業の要請を受け、大幅な入場者数制限のもとでの運営を余儀なくされた。ホテル業界も、コロナ禍で極めて大きなダメージを受け、特に宿泊特化型は厳しい状況が続いた。
TDRのディズニーホテルも、2020年度の業績は大きく落ち込んでいる。このホテルの売上高はテーマパークの売上高と比例している(図表1)。当然ではあるが、TDRのディズニーホテルは、ディズニーテーマパークとの関係が極めて強いのである。それでは、テーマパーク併設ホテルは、テーマパークの機能を補強するような、ひとつのアトラクションともいえるような楽しみ方を提供できているだろうか。アフターコロナをにらみ、考えてみたい。
図表1 TDRにおけるテーマパーク事業とホテル事業の売上高の関係
ディズニーホテルのストーリー活用
TDRのディズニーホテルにおいては、キャラクタールームを設けるケースが以前より増えた。2021年度内にオープン予定の「東京ディズニーリゾート・トイ・ストーリーホテル」(地上11階、約600室、総投資額約315億円)はキャラクター活用の典型といえる。映画『トイ・ストーリー』シリーズをテーマに、外観から中庭にいたるまで、おもちゃで作られたようなデザインとなる。客室は、アンディの部屋を思わせるインテリアで、カラフルな家具が並ぶ。
ストーリーは、少年アンディが裏庭で、大切にするウッディ、バズ・ライトイヤーや自分のおもちゃたちみんなが住めるおもちゃタワーを作るプロジェクトに取り掛かるところから始まる。アンディがママに呼ばれて家に戻ると、おもちゃたちはアンディが作りかけたおもちゃタワーの建設を引き継ぐ。そして、世界中のおもちゃのためのホテルとして完成させたというもの。ただし、宿泊特化型であり、比較的廉価な価格設定がなされる予定であるため、このストーリーがどのように活かされるか不明である。上海ディズニーランドにも同名のホテルが存在するが、ストーリーの活かし方は限定的である。
ディズニーホテルとテーマパークの連携
既存のディズニーホテルにおいても、ウエディングにディズニーキャラクターが登場する、結婚式後にテーマパークのゴンドラに乗る、パーク内で記念写真を撮るなど、連携がはかられている。ホテル内の特定レストランにはキャラクターグリーティングがある。ロビーでディズニー映画を見放題、エレベーターの音声がディズニーキャラクターであり、もちろん、隠れミッキーもある。多様なキャラクタールームだけでなく、室内や外装のデコレーションやアメニティなどにもキャラクターが登場する。宿泊者向けに販売される特定アトラクションの利用権を付けたバケーションパッケージや、一般ゲストより速く入園できるアーリーエントリーも設定されている。しかし、それでもプログラムまで発展するケースは見られない。
スター・ウォーズのプログラムを楽しむホテルが誕生予定
コロナ禍で2022年に開業が延びたが、米国「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」に登場する「スター・ウォーズ:ギャラクティック・スタークルーザー」は、映画『スター・ウォーズ』の世界を体験する2泊3日のプログラムを楽しむためのホテルである。これは既存のディズニーホテルの概念を大きく変えるものである。これまで、日本国内の他のホテルで、謎解きゲームなどを開催する例はあったが、プログラムを中心に据えるホテルは極めて珍しい。ゲストは、新たに開発された、映画の世界と同様のリアルなライトセーバーを使いこなしながらジェダイのトレーニングを受ける。ブリッジ (乗組員専用のエンジニアリングルーム) のツアーに招待され、宇宙船のシステムを学ぶ。滞在中は『スター・ウォーズ』の一員としての役割が与えられるそうだ。母船から輸送船でテーマパークの「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」を訪れ、ここでも特別なプログラムが展開される。
外界から切り離した窓の景色と空間演出
ゲストは「ギャラクティック・スタークルーザー・ターミナル」から発射ポッドに乗り込み、ハイパースペースジャンプして巨大な宇宙船「ハルシオン スタークルーザー」に向かい、映画のさまざまなキャラクターやクルーたちの出迎えをうける。そうした導入部の演出は、テーマパークのアトラクションでお馴染みである。
宇宙船のすべての窓(スクリーン)から見えるのは銀河の景色であり、船が目的地へ進むにつれ眺めも変化する。外界から切り離した空間演出で、宇宙にいると信じ込ませる。
宇宙船という空間設定の優位性
キャビン(客室)の窓も同様である。これは客室からの景色の善し悪しによる価値の差が生まれ難いこともメリットといえる。すべてが特別室となりえる。また、宇宙船の中であるため、客室は広くするよりむしろ狭い方がもっともらしい。壁に穴を開けるような形で配置された2段ベッドは、省スペースでありながら船内の雰囲気づくりに一役買う。
食事についても、映画の世界を反映する、さまざまな演出が期待できる。それは仮においしくなくても不満は出にくいし、むしろそれをひとつの楽しみとすることだって可能である。
これらの工夫もあり、すべての体験プログラムを楽しむこのホテルは、既存のディズニーホテルよりかなり高単価に設定される見込みである。
テーマパーク併設ホテルのアトラクション化 エンターテインメントホテルへの期待
今後のテーマパーク併設ホテルは、単なる宿泊場所ではなく、プログラムを楽しむアトラクションとして発展させていく可能性がある。ホテルのテーマパーク化、アトラクション化、あるいは、エンターテインメントホテルといってもよい。すべてのホテルがそのようになる必要はないが、主要なテーマパークにひとつは、このようなホテルが置かれてもよいのではないか。
TDRにおいては、宿泊特化型のトイ・ストーリーホテルにそれを望むのは酷だが、TDSに2023年オープン予定のラグジュアリータイプのパーク一体型ホテルにはそうした期待がかかる。エンターテインメントホテルの役割を意識し、プログラムを楽しめるような仕掛けを施して欲しいと切に願う。