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「加湿器」などからの「呼吸器感染症」に要注意

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 空気が乾燥する季節だ。室内の湿度を上げるため、加湿器を使う家庭も多いだろう。だが、この加湿器から重篤な呼吸器感染症にかかるケースもあるので要注意だ。

厚生労働省が指針を改正

 厚生労働省は2018年8月、レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針を15年ぶりに改正した。2018年1月、高齢者施設で加湿器の汚染水が原因とされるレジオネラ症で感染例が出たことを受けた改正措置となる。

 レジオネラ症は、河川や温泉、土の中など自然界に生息するレジオネラ属菌(主にレジオネラ・ニューモフィラ)というグラム陰性桿菌に感染することで発症する細菌感染症で、レジオネラ肺炎では重篤な肺炎になることもある。また、レジオネラ症としてポンティアック熱という肺炎は引き起こさない感染症が知られ、こちらは一般的にレジオネラ肺炎よりは軽症ですむケースが多いようだ。

 レジオネラ症の原因は、主にレジオネラ属菌に汚染された水がエアロゾル化し、それを吸い込むことによると考えられ、循環式の浴槽、温泉施設、冷却塔などから発生したエアロゾルによる集団感染の事例がある。2018年8月の改正では、エアロゾルを発生する加湿器について、タンク内などの微生物の発生・増殖を抑制し、除去するなど、衛生上の維持管理などについて定めている(※1)。

 この指針にある通り、レジオネラ属菌は、水をためて利用するような施設や機器などに繁殖する。こうした機器などの配管内部や排水口などがヌルヌルしていることがあるが、こうした生物膜(バイオフィルム)にアメーバが生息し、レジオネラ属菌はアメーバの中で繁殖する。そして、アメーバが破裂するなどしてレジオネラ属菌が外へ出て、レジオネラ属菌を含んだエアロゾルを吸い込むことで感染する。

レジオネラ属菌の感染経路。厚生労働省の資料をもとに筆者が図を作成。
レジオネラ属菌の感染経路。厚生労働省の資料をもとに筆者が図を作成。

 そのため、まずレジオネラ属菌を増殖させず、レジオネラ属菌の温床となるアメーバが繁殖する生物膜を配管内や機器の水タンクなどに発生させないため、定期的な消毒を徹底すること、レジオネラ属菌を含んだエアロゾルを吸い込まないことなどが重要だ。入浴施設では、浴槽や配管、循環水などを塩素系薬剤で消毒し、シャワーヘッドなどは高温消毒(摂氏60度以上、5分間以上で殺菌)するなどすると効果的とされる。

レジオネラ症とは

 レジオネラ症の肺炎は、感染法上の取り扱いが季節性インフルエンザの5類より厳しい4類の感染症だ。ヒトヒト感染はないとされ、潜伏期間は2日から16日と幅があり、初期症状は発熱、食欲不振、頭痛などがあることが多い。

 ただ、レジオネラ症の肺炎と診断するためには、尿中抗原検査キットなどで調べる必要がある。

 早期の治療ができず、措置が遅れた場合、重症化して死亡することもある(※2)。致死率は5%から10%程度とされているので、致死率はかなり高い。

 また、浴室や加湿器に発生したカビにより、過敏性の肺炎になることがある。原因となるのは、レジオネラ属菌のようなグラム陰性桿菌のほか、レンサ球菌などの真菌類、非結核性抗酸菌、エンドトキシン(細菌の死骸から出てくる毒素)などがアレルギーの原因とされる(※3)。

 過敏性の肺炎の症状は、発熱、悪寒、咳、全身の倦怠感、呼吸困難などが出る。特に、外出中は大丈夫なのに帰宅すると症状が出るような場合、浴室や加湿器などからによる過敏性肺炎の恐れがある。

小まめな掃除が重要

 加湿器には、電気の熱で水を加熱して蒸気を発生する方式のもの、水を含んだフィルターに送風し、気化した水分を発生させる方式のもの、ヒーターで熱して気化させる方式のもの、超音波で水を振動させて放出させる方式のものなどがある。どの方式もタンク内などがカビやレジオネラ属菌などに汚染されていれば、感染症や過敏性の肺炎のリスクがある。

 加湿器のタンク内や吹き出し口、フィルター、トレイなどを入念に掃除し、タンク内の水を小まめに入れ替えることが重要だ。

 加湿器が原因のレジオネラ症と思われる症状が出た場合、すぐに加湿器の使用をやめたほうがいい。そして、呼吸器科などの専門医を受診し、重症化しないうちにすみやかに治療を受けるべきだ。

 加湿器以外にも、浴室やシャワーヘッドなどもレジオネラ属菌が繁殖する危険がある。配管やシャワーヘッドなどをきれいに保つことが必要で、特に高齢者や乳幼児、免疫機能が低下している方などは要注意だ。

 乾燥する季節に加湿器は欠かせない。最近では超音波加湿器から出る水分に紫外線を当てて除菌する製品も出ているが、基本的には小まめに掃除をし、カビや細菌などを繁殖させないようにしたい。

※1:嶋田聡、「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針の一部改正」、ファルマシア、第54巻、第12号、2018年12月1日
※2:遠藤啓一、伊藤一寿、「家庭用加湿器が原因と推定され、重症呼吸不全を呈して死亡したレジオネラ肺炎の1例」、日本呼吸器学会誌、第47巻、第5号、2009年8月18日
※3:大西康貴ら、「家庭用加湿器の貯留水と吹出気における微生物の検討」、日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌、第39巻、第1号、2019年12月28日

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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