Yahoo!ニュース

相続に救世主登場~遺産を「あっ」という間に払い戻せる「遺産分割前の預貯金払戻し制度」

竹内豊行政書士
遺産を「あっ」という間に払い戻せる制度がスタートしました。(写真:アフロ)

改正相続法が今月7月1日に本格的にスタートしました。その中でもぜひ知っておきたいのが遺産分割前の預貯金払戻し制度です。

口座が凍結されてしまう

遺言書がない場合は、銀行は預金者が死亡した情報をキャッチした時点で、死亡者の口座の払戻し等を一切ストップして、遺産分割協議が成立するまで預貯金の払戻しに一切応じません(いわゆる口座の凍結)。

そして、口座の凍結を解除するためには、まず、遺産分割協議を成立させて、その後に、各銀行が定める払戻し手続きを行わなければなりません。

過酷な手続き~遺産分割協議

遺産分割協議は、相続人全員が参加して、しかも相続人全員が遺産分けの内容に賛成しなければ成立しません。ですから、1人でも「賛成できない」となれば成立まで長期化してしまうことになります。

また、たとえ全員が賛成しても、次のような過酷な手続きが待ち受けています。

・「遺産分割協議書」を作成する

・遺産分割協議書に相続人全員が署名押印する

・相続人全員が印鑑登録証明書を提出する

・死亡者の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本を集める

・相続人全員の戸籍謄本を集める

・銀行が要求する書類に相続人全員が証明押印する などなど

そのため、相続手続を開始してから預貯金の払戻しができるまで、早くても1か月、一般に2~3か月程度もかかってしまいます。

火急の出費に遺産を当てにできない

しかし、家族が死亡すると、医療費や葬儀費用、お墓の準備などまとまったお金が至急必要になることがあります。相続人がすぐに立替えできればばよいのですが、状況的に難しいため、死亡者の預貯金から払い戻そうとしても、前述の「口座の凍結」によって払戻しができなくなってしまいました。

救世主「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」登場

そこで、このような火急の出費に対応するために創設されたのが、「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」です。

この制度によって、相続人は遺産分割協議の成立を待たずに、単独で1つの銀行に対して150万円を上限に、払戻し請求ができるようになりました。

払戻し金額

払戻し金額は、次の計算式で求められます。

【計算式】

単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

ただし、1つの銀行に対する払戻し金額は、150万円を上限とします。

銀行に提出する書類

遺産分割前の預貯金の払戻しを受けるためには、一般に銀行に次の書類を提出します。

なお、この制度はまだ始まったばかりのため、まだ一部の銀行しか必要書類を公にしていません。利用する場合は、事前に銀行に問い合わせることをお勧めします。

1.次の戸籍謄本

・死亡した者の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本

・相続人全員の戸籍謄本

2.払戻しを請求する者の次の書類

・身分証明書(運転免許証、パスポート等)

・印鑑登録証明書

・実印 

3.その他

・銀行が要求する書類(いわゆる「相続届」)

・各相続の内容に応じた書類 等

これらの書類を提出した後、銀行は書類の内容の確認を行い、問題がなければ払戻しを実行します。そのため、銀行に払戻し請求をしてから請求者の指定する口座に振り込まれるまで、2週間程度はかかると見込まれます。

払戻しされた預貯金の扱い

この遺産分割前の預貯金払戻し制度を利用して払戻しされた預貯金は、遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます。

火急の出費や遺産分割協議の成立が長期化するような場合に、この「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」は救世主となります。ぜひ覚えておいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事