相続がガラッと変わった!「改正相続法」令和元年7月1日本格スタート~「知りません」では済まされない。
平成30(2018)年7月6日に、改正相続法(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」)が成立し、同年7月13日に公布されました。
今回の相続法の改正は、配偶者の法定相続分の引上げ等がされた昭和55(1980)年以来、実に約40年振りです。
そして、いよいよ本日令和元年7月1日に、改正相続法が施行されました。
相続法を改正した背景には、高齢化が進むことによる、配偶者に先立たれた高齢者(おもに夫に先立たれた妻を想定)に対する生活への配慮と、相続をめぐる紛争防止のための遺言書の利用を促進する必要性の高まりの二つがあります。
今回の改正は相続の姿をガラッと変えるものです。では、どのように変わったのかその内容を見てみましょう。
相続人以外の貢献を考慮するための方策~相続人以外の親族が相続人に金銭を請求できる
たとえば、被相続人を療養看護等する者がいたという場合に、その者が相続人であれば寄与分等による調整が可能です。
一方、その者が相続人ではないというときには、相続財産から何らの分配も受けることはできませんでした。このような結果は、被相続人の療養看護等を全くしなかった相続人が相続財産から分配を受けることと比較して不公平ではないかという指摘がされてきました。
そこで、たとえば長男の妻のような相続人以外の親族(=6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)が無償で被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対して金銭の支払いを請求できることとしました。
遺産分割前の払戻し制度の創設等~遺産分割前でも単独で払戻し請求ができる
相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれるため共同相続人による単独の払戻しができません(いわゆる「口座凍結」)。そうなると、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも、遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預貯金の払戻しができなくなってしまいます。
そこで、各共同相続人は、金融機関の窓口において、自身が被相続人の相続人であること、そして、その相続分の割合を示した上で、遺産に属する預貯金債権のうち、口座ごとに、家庭裁判所の判断を経ないで、なおかつ他の共同相続人の同意がなくても、同一の金融機関に対して一定の計算で求められる額(ただし、150万円を限度とする)を遺産分割協議が成立する前でも単独で払戻しができることとしました。
なお、この制度を活用するには、金融機関へ、「相続人の範囲」を証明するために被相続人の出生から死亡までと相続人の戸籍謄本、請求する者の身分証明書等を提出する必要があります。金融機関ごとに対応が異なると思いますので、請求する場合は、事前に金融機関に提出書類を確認してから申請することをお勧めします。
持戻し免除の意思表示の推定規定~婚姻関係が長期にわたる場合の配偶者相続人の保護
民法上、相続人に対して遺贈または贈与が行われた場合には、原則として、その贈与を受けた財産も遺産に組み戻した上で相続分を計算し(持戻し)、また、遺贈または贈与を受けた分を差し引いて遺産を分割する際の取得分を定めることとされています。
その結果、被相続人(多くの場合は夫)が「自分の死後に配偶者(多くの場合は妻)が生活に困らないように」との趣旨で生前贈与をしても、原則として配偶者が受け取る財産の総額は、結果的に生前贈与をしないときと変わりませんでした。
そこで、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合には、「遺産分割において持戻し計算をしなくてよい」という旨の被相続人の意思表示があったものと推定して、原則として、遺産分割における計算上、「遺産の先渡しがされたものとして取り扱う必要がない」こととしました。これにより、配偶者(多くの場合は妻)が遺産分割においてより多くの財産を取得することができるようになります。
このように、持戻し免除の意思表示の推定規定は、居住用不動産を所有している夫に先立たれた妻の老後の生活保障を目的にしています。
ただし、贈与や遺贈をするかどうかは夫の意思に委ねられます。持戻し免除の意思表示の推定規定を活用するのは、夫婦の間で話し合うことが必要になるでしょう。
遺留分制度に関する見直し~遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化する
遺留分制度とは、一定範囲の相続人に対して、被相続人の財産の一定割合について相続権を保障する制度です。被相続人がこの割合を超えて生前贈与や遺贈をした場合には、これらの相続人は、侵害された部分を取り戻すことができます。この権利を遺留分減殺請求権といいます。
遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分権者と遺贈等を受けた者との間で複雑な「共有」の状態が発生してしまいます。
共有になると、数人がそれぞれ共同所有の割合としての持分を有して一つの物を所有することになります。そのため、共有状態になると単独で共有物の変更(処分を含む)・管理(賃貸借契約の設定や解除等)ができなくなってしまいます。その結果、事業承継等の障害が発生してしまうなど不都合な状況が発生してしまう場合があります。
そこで、遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化し、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に発生することを回避できるようにしました。
このことにより、「遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたい」という遺言者の意思を尊重することができるようになります。
もっとも、その請求を受けた者が金銭を直ちには準備できないということもあります。そこで、受遺者(=遺贈により利益を得る者)等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき、期限の許可を求めることができるようにしました。
すでに施行されているもの、来年施行されるもの
改正相続法は本日から本格的にスタートしましたが、実は、既に施行されているものと来年施行されるものがあります。
自筆証書遺言の方式緩和・保管制度の創設~平成31(2019)年1月13日に既に施行
自筆証書遺言は、添付する財産目録も含め、全文を自書して作成する必要がありました(つまり、自分で全て書かなければならない)。その負担を軽減するために、全文を自書する要件を緩和して、自筆証書遺言に添付する「財産目録」については自書を要しないとしました。
配偶者の居住権を保護する権利の創設~令和2(2020)年4月1日に施行
配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で居住していた場合に、その居住していた建物(=居住建物)に遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償で居住建物に住み続ける権利を創設しました。この権利のことを、配偶者短期居住権といいます。
また、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に相続開始時に居住建物を対象として、所有権とは別に、終身または一定期間、その使用収益を認める権利を創設しました。この権利のことを、配偶者居住権といいます。
この配偶者短期居住権と配偶者居住権を創設したおもな目的は、冒頭で照会した持戻し免除の意思表示の推定規定と同様に、残された配偶者(おもに夫に先立たれた妻を想定)の老後の生活保障です。
だれしも相続から逃れることはできません。知らないと相続人以外の貢献を考慮するための方策や遺産分割前の払戻し制度など損をしてしまうこともあります。相続を円満に乗り切るために、改正相続法を正しく理解して上手に活用してください。