“消費者金融が恐れる司法書士”が断言 「マイナス金利が多重債務を生む」
司法書士法人 杉山事務所。借金で消費者金融に払いすぎた金利の返還を求める「過払い金」請求で知られる。ウェブサイトでは、週刊ダイヤモンドによって過払い金返還請求の実績日本一に選ばれ「消費者金融が恐れる司法書士」日本一になったと記している。大阪市内の地下鉄の車内広告でもおなじみだ。全国に9つの事務所を展開し、月に3000件以上の相談を受け、5億円以上の過払い金を請求しているという。
その杉山事務所の代表、杉山一穂氏が断言した。「うちには大勢の多重債務の方が相談にいらっしゃいますが、多重債務を生み出しているのは今のマイナス金利政策ですよ」
なぜ、そう言えるのだろうか?
総量規制の抜け穴になっている銀行のカードローン
まず最初の問題は、多重債務を防ぐために導入された「総量規制」が有名無実になっていることにあるという。総量規制とは、年収の3分の1までしか借りられない、貸すことができないという、2010年に始まった貸金業法の規定だ。借金に借金を重ねる多重債務者の問題が深刻になる中で決まった。ところが…杉山氏は語る。
「この総量規制は消費者金融などの貸金業者だけが対象なんです。銀行は対象になりません。だから銀行はカードローンで貸したい放題です。2年ほど前から自主規制として年収の3分の1までとか2分の1までとか言ってますけれど、私のところに来る相談者には年収の倍も借りているなんて人がざらにいます。自主規制はあくまで自主規制にすぎなくて、実態はあまり変わってないんですよ。総量規制が意味をなしていないんです」
マイナス金利が銀行のカードローン過剰融資を生む
今では銀行のカードローンの方が消費者金融より貸付総額が上回っているという。では、銀行はなぜそこまで個人にカードローンを貸し付けるのか?杉山氏は次のように見ている。
「それがマイナス金利政策の影響なんです。マイナス金利のおかげで銀行は本業でもうけることができない。収益をどうするか、となったら、個人に貸すしかないんです。そのための道具がカードローンで、そこに総量規制は及ばない。いくらでも貸せる。そうすると貸した相手が破綻して貸付金を回収できなくなるおそれがあるんですが、そこは傘下に収めた消費者金融に保証させて貸し倒れがないようにしている。かつて消費者金融は過剰融資と厳しい取り立てで社会の批判を浴びましたけど、今では同じことを銀行がやっています。銀行の方がえげつないくらいです。銀行は消費者金融のビジネスモデルを吸い上げたんです」
借りられる上限額に厳格なルールを
過払い金の返還請求をビジネスモデルとして確立した杉山氏だが、2010年の法改正で過払い金を生んでいた金利のグレーゾーンがなくなった。このビジネスはいずれ先細りになる。そこで杉山事務所では次のビジネスの主軸を債務整理に置いている。多重債務を抱えた相談者の借金と収入の状況を把握し、借入先と交渉して返済額を圧縮し、実施可能な返済計画を立てる。さらに返済が始まってからも毎月フォローを欠かさず、きちんと返済できているか、やんわりと確認する。それによって返済率を95%まで高め、そこから報酬を得る。大勢の多重債務の人々の姿を見続けているだけに、現場の実感がある。
「そもそも総量規制でいう年収の3分の1の借金でも、正直言って返済は厳しいですよ。多重債務になるというのは、身の丈に合った生活水準を守れないということ。だから年収の多い人でも多重債務になる方はいます。金銭感覚の意識の低さなんです。だからこそ、借りられる上限額に厳格なルールが本来必要なんです。そして、銀行をカードローンに走らせるマイナス金利政策を変えなければ、多重債務の問題は根本的には変わらないでしょうね」
奨学金も多重債務の要因「社会の仕組みを変えないと」
しかし杉山事務所は多重債務あってのビジネスをしているのではなかろうか?そこを尋ねると…
「いや、借金があまりにも多すぎると、さすがに私たちでもどうにもなりません。ある程度手の打ちようがあるレベルを超えると、返済計画が成り立たないから、我々の収益もあがらないんです。多重債務は結局、今の社会の仕組みが生んでいるわけですから、社会の仕組みを変えないと。例えば奨学金の問題です。猶予や免除の条件はありますけど、かなり厳しいのでなかなか認められない。それで奨学金を返すために借金を重ね、多重債務に陥る若者はかなりいますよ。そういうところも見直すべきですよね」
あさって21日は参院選の投票日。杉山氏はこれまで毎回選挙権を行使しており、今回も投票に行くという。
【執筆・相澤冬樹】