「砂糖税」イヤーがやって来る 英国が肥満対策で2年後に導入
法人税を引き下げて甘味飲料に課税
英国のオズボーン財務相は16日、下院で2016年度の予算演説を行い、20年までに法人税率を現在の20%から17%に下げると表明しました。法人税は08年の30%から段階的に引き下げられ、15年から20%になったばかりです。外国企業を呼びこむのが狙いです。
その代わりと言っては何ですが、子供の肥満対策として18年から過剰な甘味飲料に「砂糖税(肥満税)」をかけると表明しました。喫煙者を減らして健康を増進する「たばこ税」と同じ考え方で、砂糖税をかけることで甘味飲料の消費を減らし、肥満対策を進める狙いがあります。
「欧州の肥満大国」の異名を取る英国の肥満対策費は470億ポンド(約7兆5千億円)に達しています。甘味飲料の消費が減れば肥満対策費や医療費が抑えられる一方、砂糖税による税収が年間5億2千万ポンド(約830億円)にのぼる見通しで、小学校のスポーツ予算を増額する方針です。
世界のソフトドリンク市場は94兆円超
子供たちの健康増進のため砂糖税の導入を提唱してきた英国の料理家ジェイミー・オリバーさんやNHS(国営医療制度)は「素晴らしいことだ」とオズボーン財務相の決断を評価しています。砂糖税のターゲットにされたのはコカ・コーラなど甘味飲料メーカーです。
大衆紙デーリー・メールによると、100ミリリットル当たり8グラム以上の砂糖が含まれるコカ・コーラなどには8ペンス(約13円)、100ミリリットル当たり5グラム以上の砂糖が含まれるファンタやスプライトなどには6ペンス(約10円)が課税されます。
フルーツジュースや乳飲料は「健康に役立つ」として砂糖税の対象から外されました。世界のソフトドリンク市場は2013年時点で8406億ドル(94兆円超)です。その中でも甘味飲料や炭酸飲料メーカーは逆風に見舞われています。
スカンジナビア諸国、フランス、ハンガリーに続いて、メキシコも14年に砂糖税を導入して砂糖を含む飲料や食品に課税し、税収を20億ドル(約2200億円)以上も増やしました。15年にはチリ、バルバドス、ドミニカ、今年に入ってベルギーが砂糖税を導入しています。
インド、フィリピン、インドネシアも甘味飲料への同じような税制導入を検討しています。国民1人当たりの砂糖消費量が米国や英国に比べてそれほど多くない日本でも昨年6月、厚生労働省の有識者会議が国民の健康を守るために砂糖にも税金をかけてはどうかという提言書をまとめました。
ロビー活動を展開してきた炭酸飲料メーカー
英国の肥満率は欧州の中で最高水準にあり、世界保健機関(WHO)は「2030年までに英国の肥満は男性で70%から74%に、女性で59%から64%に増える」と予想しています。過剰な甘味飲料は子供の肥満や虫歯だけでなく、糖尿病や心臓病に悪いという指摘があります。
その一方で、科学的な裏付けがないとコカ・コーラやペプシコなど炭酸飲料メーカーが各国でロビー活動を展開してきました。英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルによると、過去10年間にわたって年計25万ポンド(約4千万円)が炭酸飲料メーカー大手から、肥満などを調査する英研究ユニットの研究者たちに提供されていたそうです。
英国のソフトドリンク消費量は14年に147億9千万リットル(前年比0.5%減)。米国では炭酸飲料の消費量が04年から10年間で14%も減っています。
メキシコでは砂糖税で1リットル当たり平均1ペソ(6.3円)を課税したため価格は約10%アップしました。非課税の飲料は4%増えたのに対し、課税対象のソフトドリンクは月最大12%も減りました。メキシコの成功例が呼び水となって、英国の他にも砂糖税を導入する国が増えそうです。
その意味で今年は「砂糖税」イヤーになる可能性大です。
(おわり)