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MLB在籍2年間で大幅に変化したファンが抱く大谷翔平像 “打てる投手”から“投げられる打者”に?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
この2年間で大谷翔平選手に対し投手以上に打者として期待するファンが増えている(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【突然終演した投手復活劇】

 現地時間8月2日に今シーズン2度目の登板に臨んだ大谷翔平選手が2回途中で降板した後、右腕に違和感を訴えたため、緊急的にMRI検査が実施された結果、右腕の屈筋回内筋損傷(グレード1~2)との診断を受けた。

 チームは検査結果を受け、キャッチボール再開は4~6週間後になるとの見通しを明らかにし、ジョー・マドン監督はオンライン会見で、短縮シーズンで実施されている今シーズン中の投手復帰はないとの考えを示した。

 一昨年の10月に右ひじの内側側副靱帯を再建するトミージョン手術を受け、昨年は打者に専念し投手としてリハビリを続けてきた後、満を持しての二刀流活動の再開だった。

 だが2試合の登板内容は、我々が期待していたものとは程遠いものであり、二刀流の“完全復活”を印象づけるまでには至らなかった。

【指揮官は来季の二刀流継続を明言】

 今回の負傷を機に改めて二刀流の難しさが認識され、日米のメディアから二刀流継続に疑問の声が強くなってきている。自分もその1人だ。

 だがマドン監督は「自分は彼が(二刀流を継続)できると信じている」とした上で、以下のように話している。

 「これまで自分が見てきた中で、彼は(投手として)素晴らしい腕を持ち、(打者として)打席でしっかり仕事をしてくれるというのを確認している。

 もちろん将来的な話し合いで、彼の方からどちらか一方に専念したいという考えを伝えてくるかもしれない。だが現時点での自分の考えは、これからも継続できると感じている。ただ医学的に不測の事態が起こったり、個人的な責任の上で意見を変えるもしれない。

 彼がまた健康を取り戻すことを楽しみしているし、通常のスプリングトレーニングで、通常のシーズンをしっかり投げられる準備を整えた上で、彼がどういうプレーができるのかを確認する必要がある。そうした決断はその後になるだろう」

 マドン監督が指摘するように、新型コロナウイルスの影響ですべてが異例づくめで開幕した今シーズンでは、リハビリ明けの大谷選手が投手として十分な準備ができなかったのは紛れもない事実だ。

 まずは通常の環境の中で二刀流が継続できるかを見極める必要があるという指揮官の意見は、至極当然のことだろう。

【確実に変化しているファン心理】

 だがマドン監督がどんな判断をしたとしても、これからも大谷選手の二刀流継続に関して、疑問の声が消えることはないだろう。これは日本ハムで二刀流挑戦を開始してからずっと続いてきた論争であり、ある意味大谷選手の定めのようなものだ。

 だがMLBに挑戦してきた2年間で、大谷選手に対するファン心理はかなり変化しているようだ。

 大谷選手が負傷したのを機に、自分のTwitterアカウントを通じて、アンケートを実施した。設問は至ってシンプルで、今後の大谷選手について「二刀流を継続すべき」「打者に専念すべき」「投手に専念すべき」というものだ。

 下記のアンケート結果を見てほしい。大谷選手に二刀流を継続して欲しいという意見は半数に達している一方で、投手に専念すべきという意見を持つファンが圧倒的に少ないのだ。

 もちろん回答数255の調査結果だけですべてのファン心理を把握できるとは思わないが、ある程度の動向は掴めることはできるはずだ。

【現在の大谷選手像は“投げられる打者”に?】

 改めて思い出して欲しい。大谷選手が花巻東高校時代に高校生初の160キロを記録し、広く人々から脚光を浴びるようになって以降、ずっと彼のイメージは“打てる投手”だったはずだ。

 その後MLB挑戦を表明し、日本ハムからドラフト指名を受け、交渉に当たった栗山監督から打診されるまで二刀流という発想は微塵もなく、MLB、NPBにかかわらず誰もが彼を投手メインの選手だと考えていた。

 そのイメージは日本ハム入団後も変わらず、ファンの期待は投手の方に大きく向いていたはずだ。そして大谷選手が何度も日本人最速記録を塗り替える度に、ファンは歓喜してきた。

 だがMLB2年間を経て、ファンは二刀流が継続できないのなら、投手よりも打者として活躍して欲しいと願っているのだ。これは大きな変化といっていい。

【大谷選手に期待する日本人初の真の長距離砲】

 あくまで個人的な意見だが、その背景にあるのはMLBの2年間で、打者としての大谷選手の魅力が投手を上回り、ファンの期待と合致してしまったからではないだろうか。

 これまで我々は、野茂英雄投手から始まり現在のダルビッシュ有投手まで、日本人投手たちがMLBの名だたるスラッガーたちを圧倒する姿を何度も目撃してきた。野茂投手やダルビッシュ投手のように奪三振のタイトルを獲得した投手もいれば、野茂投手や岩隈久志投手がノーヒットノーランを達成する場面にも遭遇してきた。

 だが日本人野手に関しては、イチロー選手が首位打者を獲得している一方で、いわゆる和製大砲と呼ばれるスラッガーたちが日本同様に活躍する姿を目撃できていない。

 やはりファン心理として、MLBのスラッガーたちと互角に渡り合い、本塁打のタイトルを狙えるような日本人スラッガー登場を待ち侘びていないだろうか。その期待が現在の大谷選手に注がれているように思う。

 大谷選手がどこまで二刀流を継続できるかは誰にもわからない。だが今後どんなかたちになるにせよ、大谷選手がファンに大きな期待と夢を抱かせ続ける存在であり続けることに変わりはないだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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