「PS5」に存在しない「定価」 「希望小売価格」と混同する理由
ソニーの家庭用ゲーム機「PS5」が、フリマアプリなどで高額転売されて1カ月近くになりますが、問題は収束していません。対策として「定価以上の転売を阻止するべき!」という怒りの声がありますが、実はPS5に「定価」は存在しません。
◇定価は特定の商品だけ
答えを言えば「定価」ではなく「希望小売価格」です。
「定価」は、漢字の意味する通り「定められた価格」で、販売店が上げても下げてもダメです。そして定価販売が許されるのは、書籍や新聞など一部の商品のみです。
「希望小売価格」は、メーカー側が希望する販売時の価格で、拘束力はありません。あくまでも販売店への“お願い”であり、従うか無視するかも販売店の自由です。もし逆らった販売店に対して、メーカー側が出荷停止などの“嫌がらせ”をすると、別のうまい理由をつけても「価格拘束をした」とみなされてしまいます。独占禁止法に抵触するのです。
なおマンガ「鬼滅の刃」のコミックスを見ると「定価」と書かれており、どこの書店やコンビニエンスストアでも同じ値段で売られています。理由は書籍で「定価」販売が許されているからです。一方のゲーム機やソフトは、定価販売が認められておらず「希望小売価格」と書かれています。だから値引き販売もオッケーなのです。もちろん任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」にも定価は存在しません。
◇「定価」と混同する背景
ただし「似たようなものだ。細かいことはいいんだよ」という声も理解はできます。ゲーム機は希望小売価格で売られているのが常態化しており、消費者が「定価」と思うのは仕方のない面もあります。ソフトは値引きができるように利益幅が大きいのですが、ゲーム機はそういかず、希望小売価格(もしくはそれに近い価格)で売ることになるわけです。
また一部のメディアも、「希望小売価格」と書くべきところを「定価」と書いたりしますから、混乱の元になります。さすがに新聞は明確に区別していますが、テレビ番組でも混同するケースもあるほどです。一方、メーカー側がこの二つの言葉を混同することもありませんから、やはり厳然と違うのも確かです。
◇メーカーは価格に口出ししづらい
なお価格拘束ですが、どの業界や会社でも「あるある」の話です。ゲーム業界も、1998年には「(初代)プレイステーション」が、1999年にはセガの家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」がそれぞれ公正取引委員会の“お世話”になっています。
古い話ですが、2005年に発売された携帯ゲーム機「PSP」が人気を博して品不足になりました。すると、一部のゲーム販売店が希望小売価格よりも約1万5000円を上乗せした価格で販売したのです。メーカー側は、販売店にそれを注意すると「価格拘束」とみなされるため、口は出せません。当時取材をしたのですが、販売店は強気の対応でした。
ちなみに翌日、その販売店の店長らしき男性から電話があり、高値販売について書いた記事にクレームがありました。ネットの記事をプリントして、誰かが販売店に張ったらしく「営業妨害だ」とすごまれました。ですが高値の販売は事実なので、はねつけて終わりました。
言いたいのは、販売店が希望小売価格以上で売っても、メーカーは手を出せないという厳然たる事実です。「価格拘束」と取られる行為について、メーカーは相当気を付けているのです。ユーザーからすると高額転売に対して、メーカーが静観していることに「なぜ」となるわけですが、そんな背景があるのです。
◇SIEの「意見表明」どうなるか
そういう意味では、フリマアプリ「メルカリ」で横行していたPS5の高額転売に対し、発売元のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が運営会社のメルカリ社に「意見表明」をしたことは、正直に言うと相当驚きました。メルカリは販売店ではないので、価格拘束にはならないという判断があったのでしょうが、それにしてもSIEは20年前に痛い目に合っているからです。
それでもSIEは「意見表明」というやんわりとした表現にしていること、プレスリリースも出さないようにするなど、相当の配慮がうかがえます。「意見表明」が明らかになって半月が経過しますが、まだ動きはないようです。そしてSIEの今回の動きを見て、自社商品の高額転売に苦労している企業が同じように「意見表明」をするのか注視しています。