食糧難の北朝鮮で女子高生が走る「楽してカネ儲け」
高級中学校(高校)の卒業を控えた生徒たち。一般的に、その10%から15%が推薦を受けて大学に入るが、最近は大学進学より看護学校を目指す女子生徒が増えている。その理由を、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)では、看護学校の人気が高まっていると伝えた平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋。その理由とはこのようなものだ。
「看護学校を卒業して注射さえ打てば簡単にカネが稼げるから」
医療のプロである看護師に対して非常に失礼な発言だが、北朝鮮ではこういう認識が持たれているようだ。
コロナ前の平城では、家庭の経済的事情で大学に進学できない高級中学校の卒業生の行くところが看護学校だった。しかし、今では経済的に余裕のある家庭の生徒でも、医科大学や医学専門学校ではなく、看護学校に行く場合が増えているとのことだ。
(参考記事:女子大生40人が犠牲…北朝鮮幹部「鬼畜行為」で見せしめ)
全国有数の流通の拠点で、裕福な人が多かった平城だが、極端なゼロコロナ政策で中国製商品の輸入や行商などが難しくなった。それに伴い、かつて裕福だった人でも今は経済的に困窮しているケースが多い。
親は子どもに大学進学を勧めるが、「大学を出たところで何の意味があるのか」と、卒業までの期間が短く、卒業後すぐに金儲けができる看護学校に行きたがるのだそうだ。
ちなみに医学大学は6年、医学専門学校は3年かかる一方で、看護学校は2年で卒業できる。さらに短い6カ月で卒業できる看護養成所もあるが、卒業後に病院でキツイ仕事をさせられるため、看護学校がちょうどいいのだという。
(参考記事:響き渡った女子中学生の悲鳴…北朝鮮「闇病院」での出来事)
「看護学校のいいところは、医師のように患者の命に責任を負わなくてもよく、看護養成所卒業生のように、雑用をやらなくてもいいことだ。さらに看護員として働けば、工場や企業所に務める若者とは異なり、突撃隊に行かされることもないため、人気が高い」(情報筋)
突撃隊とは、各地の建設現場でタダ働きをさせられる建設部隊のことを指すが、待遇が非常に悪いため、誰もが行きたがらない。看護師になればそこから逃れられるメリットがある。
それだけではない。「簡単にカネが稼げる」とは、給料が多いという意味ではない。北朝鮮の病院では、医師や看護師に対してワイロを渡すのが当たり前になっている。さもなくば、治療や看護を受けられなかったり、後回しにされたりする。看護師の受け取るワイロの額は病院ごとに違うが、概ね数十ドル。経済難と食糧難の中では貴重な収入になるのだ。
平城市教育部から各高級中学校に割り当てられた看護学校の枠は1〜2人。一方で、看護学校を目指す女生徒は約3割。熾烈な競争を勝ち抜こうと、入学を巡りワイロが飛び交っている。今までも入学斡旋で多額のワイロを受け取ってきた教育関係者だが、今年は志願者が多く、誰を選べばいいのか頭を抱えているとのことだ。多くの人が飢えに苦しむ中、実に贅沢な悩みだ。