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北朝鮮軍、最前線で死者続出「兵士は限界を超えている」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
農作業に当たる北朝鮮の兵士たち(デイリーNK)

 北朝鮮は1日朝、弾道ミサイル2発を朝鮮半島東の海上へ向け発射した。防衛省によると、いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられる。この1週間で4回目の発射であり、前例のない頻度だ。

 朝鮮半島とその周辺では、米韓が26日から約5年ぶりに大規模軍事演習を実施。30日には日本の海上自衛隊と3カ国で対潜水艦戦訓練を行った。また、ハリス米副大統領が29日に訪韓して南北の軍事境界線(DMZ)を視察した。

 こうして対北包囲網が強化される中、金正恩総書記は「軍事示威」で対抗姿勢を示したのだろう。

 しかし、当の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の内情はボロボロだ。

 軍の中枢機能を担う総参謀部の指揮部で、過去にはいかなる場合にも止まることのなかった食糧配給が、2カ月に渡って滞っているのは本欄でも言及したとおりだ。

 軍中枢がこの有様なのだから、末端部隊の現状はよりひどい。

 デイリーNKの現地情報筋によると、開城(ケソン)市の開豊(ケプン)郡に駐屯する第2軍団・第8軽歩兵師団(132軍部隊)の第4大隊では今月13日、訓練中に死亡事故が発生した。

 死亡したのは入隊から4年目の20代の男性兵士で、ロープを使って垂直の壁を登る訓練中に15メートルの高さから墜落した。

 直接の死因は墜落死だが、本質的には餓死であるとも言える。

 北朝鮮軍で、末端部隊への食糧供給が満足に行われていないのはつとに知られた事実だ。韓国軍と対峙する最前線の同部隊も状況は同じで、栄養失調のためキツイ訓練に耐えられず事故死する例が相次いでいるという。

 今回死亡した兵士も、「飢えのため体力がもたず、自分の体力を支えきれずにロープを離してしまった」(情報筋)のだという。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 部隊への食糧供給が足りないのは、横流しや横領が原因のひとつであり、北朝鮮当局はそうした行為に厳罰で臨んでいる。

 しかし、給料も配給もろくにもらえないとあっては、指揮官たちもそうした行為で生き延びるしかないのだ。

 情報筋は「苦しいのは兵士も指揮官も同じだが、シワ寄せの大部分は末端の弱者に向かう。兵士たちはすでに限界を超えている」と語っている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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