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経営者・働く人がコロナ時代を生き抜くために意識すべき3つのこと【吉村慎吾×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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新型コロナウィルス感染拡大により、今までの働き方の常識が通用しない社会情勢になってきました。それを踏まえて「ワークハピネス」では、テレワークカンパニーとして最先端の暮らし方・働きかたを実践しているそうです。例えば、代表取締役会長の吉村慎吾さんのライフサイクルは、朝4時に起きて、午前中はブログの執筆や新作講演の構想などの創作活動に集中し、午後は経営陣雑談会。あいた時時間は料理、読書、運動等を楽しんでいると言います。そんな吉村さんに、「テレワークにより超越できる3つのこと」を伺いました。

<ポイント>

・激しく愛されたかったら激しく嫌われる勇気を持つ

・「テレワーク寂しい問題」をどう解決する?

・メンタルを安定させる秘訣は理想を捨てること

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■オフィスで生産性が阻害される要因と、テレワークのメリット

吉村:今回のテレワークハピネスという100%リモートの会社にすることに関しては、自分がどうしてもやりたかったことでした。僕自身が、世界中旅をしながらこの仕事に参加したいと、前から思っていたのですが、世間が許してくれなかったのです。実際ハワイの別荘からワークショップをしたこともありますが、「それでいいよ」という会社はそれほど多くありませんでした。

倉重:ようやく時代が追いつきましたね。

吉村:ですから、先頭に立ってかじを切ろうと思っています。批判してくる会社ももちろんありますけれども、私は以前から「激しく愛されたかったら激しく嫌われる勇気を持て」とクライアントに指導してきました。熱狂的に愛されたら熱狂的に嫌われます。シェアが100%の会社はないわけですからそれでいいのです。

倉重:テレワークでも、とことん推進する企業とたまに使う企業、全くやらない企業というように、かなりバラつきが出てきました。今後は相当差が出てくるのではないでしょうか。

吉村:そう思います。テレワークになると、3つを超越できます。1つ目が時間の超越、2つ目が空間の超越、3つ目が組織の超越です。チャットや掲示板などの非同期コミュニケーションツールを使うと、会議をペースメーカーにして仕事をしている会社はどうしても日程調整が遅れがちです。スラックなどのチャットでディスカッションを進められたり、仕事の進捗確認ができたりする働き方をしていると、夜型の人とも、ブラジルの人ともコミュニケーションできます。これによって生産性が非常に上がるのです。

倉重:やはり集中を阻害されることの悪影響は大きいですから。

吉村:ある調査によれば、いったん集中を阻害されてから元の思考力を取り戻すまでに平均25分かかるそうです。私がオフィスで働いていた時も、たびたび「吉村さん、ちょっといいですか」と声をかけられました。その瞬間に思考が飛んで、「今せっかくいいところだったのに」ということがあったのです。

倉重:ありますよね。この対談でJINS(ジンズ)という眼鏡の会社で集中力測定デバイス「JINS MEME」の開発責任者である井上一鷹さんと対談しました。集中力を測る眼鏡を使って調査したところ、深い集中に入るには25分以上かかる一方で、日本企業のオフィスだと平均11分に1回話しかけられるという話だったのです。いかに今までオフィスで集中できなかったかという話ですよね。

吉村:本当にそうですね。会議に関しても「あと20分で始まる」と分かっていたら、まとまった仕事に取りかかれません。そわそわして、どうでもいいニュース記事を読んでしまったりして、思い切りアウトプットにいけないわけですよ。

倉重:そうですね。「空間の超越」というのは単純に物理的な移動もなくなるということですか。

吉村:移動がなくなるので、東京、上海、ムンバイで朝礼をして、夕方にロンドンの朝礼もできるわけです。

倉重:「組織の超越」というのはどういうことですか。

吉村:組織の超越というのは、スラックに招待することで、外部のパートナーさんやアウトソーサーの方とどんどんコラボレーションができるということです。

倉重:チームワークを発揮する相手は社内に限られないということですね。

吉村:そうです。それと、うちは組織図をフラットにして、中間管理職を全廃しました。

倉重:ティール組織ですね。

吉村:ティールというか、フルフラットな組織です。非常に薄いピラミッドという感じです。なぜかというと、オフィスワーク時代は「戦略を転換したい」と思ったら全社会議というのを開いて、みんなに私から伝えていました。そこに来ない社員もいますし、「議事録を見ておいてね」と言っても読まない人もいます。ですから、情報が行き渡るまでに数カ月かかっていました。

ところが今だったら、戦略掲示板に情報を出せば、全員が読むので一瞬で伝わります。テレワークになると、みんなすごく掲示板を見るのです。

倉重:確かに、数時間あれば伝わりますよね。

吉村:オフィスにいれば、「ちょっといいですか」と話しかけるタイミングがありました。テレワークにはそういうカジュアルな出会いがないので、情報を自分から取りに来てくれるわけです。中間管理職の役割は、「意志決定を落としこんでいくこと」「仕事を管理すること」「部下の育成と評価」です。でもそれは全部代替手段でいけるなと思いました。評価に関しては360度の相互評価にすればいいし、仕事に関してはプロジェクトチーム単位ですればいいのです。固定の上司がいることによってセクショナリズムも生まれます。ですから、プロジェクト型組織でいいと思っているのです。

オフィスワークだとやはり組織を意識してしまいます。テレワークになるとみんな平等ですから、ピラミッドを全く意識しなくていいのです。この3つの超越によってすごく生産性が上がりました。私の平均的な1日は、朝起きたら公園に走りにいき、ブログのアイデアを考えます。

倉重:ランニング中に考えているのですね。

吉村:はい。帰ってきてからブログを書いて、午前中にニュースや本を読んでインプットして、ご飯を食べたら散歩をしながら講演のプロットを考えます。その講演のプロットをスマホに音声入力し、帰ってきて少し直して、スラックに放り込むと、翌日にきれいなスライドが出来上がっているのです。

倉重:アイデア出しなどは外のほうがいいですよね。

吉村:歩きながらがいいですね。同期コミュニケーションというのは日に1回30分、経営陣との雑談会だけです。あとはもう全部非同期で処理しています。ですから非常に生産性が高くて、今までの人生でこれほどたくさんのアウトプットはしたことがありません。テレワークになって数カ月でブログの記事を100本近く書いています。

倉重:100本も書いたのですね。

YouTubeを30本ぐらい上げました。それから新作のセミナーを20本ぐらい。週に2回ずつしていますから。

倉重:すごいペースでしていますね。いかに同期コミュニケーションが他人の生産性を阻害しているかという話ですね。

吉村:本当にそうです。僕も阻害されたくないので、人の阻害もしません。ただそれだと寂しがり屋は寂しくなるんですよね。

倉重:「テレワーク寂しい問題」というのは常にありますよね。

吉村:ですから、雑談会をきちんと設けなければいけません。

倉重:それは役員だけではなくて、いろいろな社員の方ともするのですか。

吉村:その各階層で雑談会を奨励して「とにかくしてください」と言っています。

■メンタルを安定させる秘訣は理想を捨てること

倉重:テレワークだとメンタルの浮き沈みが出てくることもあります。吉村さんはYouTubeで「20年間怒ったことがないし、妻とけんかをしたこともない」と話していました。なぜそのようにメンタルが安定しているのですか。

吉村:理想を捨てたからです。妻はこうあるべきという「べき」の部分が、全部僕の勝手な押しつけで、勘違いだということにある時気づきました。

倉重:理想があると、「これをしてくれない」と思ってしまいますから。

吉村:そうです。理想とは何かというと、何かを壊される恐怖や、失う恐怖なのです。さすがに経営をしていると自己破産の恐怖を何度も感じます。バックアッププランやリバイバルプランを考えるうちに、「死にさえしなければ何も失わないのだから、別に失敗しても構わないよね」という感覚になりました。究極、命があればいいじゃないですか。

倉重:それはそうですね。

吉村:あと、それほど傍若無人には生きていないので、家族の仲もすごくいいですし、社員も人間的に尊敬できる良い人ばかりです。友人も本当に困ったときに頼れる人がたくさんいます。人間関係が良ければ失う恐怖は減ります。みんな失う恐怖でイラつくんですよ。例えば上司が怒っているのは、彼の地位が侵害されそうになっているからです。彼はきっと夫婦仲が悪いのです。給料が減ると家庭不和になる恐怖を感じているのです。もし何の不安も感じていなければ、怒る必要はありません。電車に乗っていて、ドンと突き飛ばされて、「どけ、この野郎」などと言って走り去る金髪の兄ちゃんがいたとしたら、ただウンコが漏れそうなだけなんだと思えばいいのです。

倉重:急いでいるには理由があると想像する、ということですね。

吉村:そうです。普段はいいやつだけど、彼は人間としての尊厳が侵されそうになっているのです。あおり運転をする人は、おそらく仕事もうまくいっていないし、夫婦仲も良くないわけです。キャパがすごく少ないときにブッブーとクラクションを鳴らされると、キレてしまいます。だから、怒るのは守りたいものが多過ぎる人だと思っています。

そう考えると、別に家が汚くても、嫁が子どものことを叱っていても問題はありません。私も仕事や夜の付き合いなどで遅く帰ってくる日が連続して子育てや家事を手伝わないと怒られるわけですよ。私の妻は私にはもったいないくらいよくできた素晴らしい人なのですが、さすがに疲れてくるとキャパが少なくなって「あなたの子どもなのよ」「私の子どもじゃないんだから、あなたが育てなさい」などと言われるわけです。

倉重:そういうとき、どうやって返すのですか。

吉村:「すみません」と謝ります。夫婦げんかをしない秘訣は2つあって、1つ目はひたすら謝ることです。私は人材派遣業の社長をしていましたが、クレーム処理の連続です。派遣の子が社員を殴ってしまったとかモノを盗んだという話だらけでした。そうすると社長としてはヒロタのシュークリームを持っていって、ひたすら謝るしかありません。

倉重:自分が何も悪くなくても。

吉村:そうです。人の怒りは8分以上続きません。怒ることはエネルギーを消費するので疲れるのです。そこで8分耐えれば、相手の態度が変わります。私は神妙な顔で、「あと何分だろうな」と思っているわけです。だいたい8分ぐらいたつと「まあ、君も仕事とはいえ、大変だな」などと言われます。

倉重:それはすごいですね。家庭でもそうなのですか。

吉村:嫁さんが「あんたのせいなのよ」と言えば、「そのとおりです」と謝ります。怒っているうちに何十年前かの話を思い出して、「付き合っていた頃もそうだった、あなたは昔からそうなのよ」と話して、最後は「人として失格なのよ」などと言われるのです。

倉重:何て返すのですか?

吉村:「そのとおりです」と。

倉重:それはけんかになりようがないですね。

吉村:絶対になりません。その後、私はひたすら掃除、洗濯、片づけをします。そして寝ますよね。起きると、だいたい嫁さんのほうから「許してあげる。昨日はちょっと言い過ぎてごめんね」と謝られます。

倉重:なるほど。「すみませんという気持ちを私はしっかり持っていますよ」と示すのですね。

吉村:うまくいかせる秘訣1は、耐えること。2は、完全肯定です。例えば、嫁さんが子どもに叱ってばかりいたとします。

倉重:「そんなに怒るなよ」とか、つい言ってしまいます。

吉村:嫁さんが、「私、叱り過ぎかな?」と聞いてくるときがあります。そうしたら、「絶対にそんなことはない。俺がおまえでも、間違いなく叱る」と肯定します。「うちは部屋が汚いかな?」と聞かれても「そんなことはない、これでいい」と言います。

倉重:おかしいと思っていても、そう言うのですか。

吉村:それを言われると何が起きるかというと、「そんなことはない。私は少し叱り過ぎで、変わるべきなの」と、自分で言いだすのです。これは心理学で、ペーシング&リーディングという技法です。完全肯定されると、クライアントは自分で良い方向にリードされていくという理論があります。

倉重:そういう理論があるのですね。

吉村:はい。否定されると「そんなことはない、私は間違っていない」と抵抗して、殻にこもってしまいます。ところが「間違っていないよ。それでいいよ。僕でもそうするよ」というふうにペーシングしてあげると、安心感が満たされて成長に向かうのです。

倉重:一種の心理的安全性ですね。

吉村:心理的安全性が満たされます。ですから100%承認してあげると、変化が生まれるのです。僕のクライアントの部長さんが、「自分の奥さんが子どもに殴る蹴るの虐待をする」と言っていたのです。それはもう、「きちんと勉強をしなさい」というようなことで暴行するので、子どもが引きこもりになり、反抗的になってしまいました。「吉村さん、どうしたらいいですか」と聞かれたので、「批判するからそうなるんです。『俺でも殴る。おまえは悪くない』と、100%承認しなければいけません」と言いました。なぜ奥さんが子どもを殴ったり蹴ったりするかというと、自分の親にそれをやられたからです。奥さんはあまり学歴が良くなくて、いつもいとこと比べられてきたと言います。彼女が求めているのは100%の承認です。「あるがままを受け入れてくれる愛を旦那さんが示さなかったらこの因果はいつまでたっても続きますよ。お子さんも自分の子どもを虐待するような親になってしまいます。因果を断ち切るのは、愛しかないのですよ」と話しました。

倉重:それができるのは旦那さんだけですからね。

吉村:そうです。部長さんが僕の教えたとおりに実践したら、奥さんが自分からざんげして、「私が変わらなきゃいけないの」と言いだしたそうです。それが本当にうまくいきました。

倉重:これはチームビルディングも同じではないですか。

吉村:そうですかね。チームビルディングのほうがよほど簡単に感じます。やはり、家庭が一番難しいかもしれません。家庭と比べたら経営は簡単です。

(つづく)

対談協力:吉村 慎吾(よしむら しんご)

株式会社ワークハピネス 代表取締役会長

https://www.telework.workhappiness.co.jp/?fbclid=IwAR2FCIMYrPGQMzvOpN7rRj6ZbxcIaauIfWDvvVdEvBKwyWk8yZL3tboaOj8

プライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。

株式会社エスプール(東証1部上場)を創業

その後、老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを成功させる。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。

2020年4月には自社のオフィスを捨て、全ての管理職を撤廃。

フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラット、No オフィスな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

自社の成功や失敗の体験を生かし、大企業の働き方改革や事業変革で多くの実績を持つ。

イノベーションに関する著書多数。多くの企業で次世代幹部育成の課題図書となっている。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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