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各自治体ですすめられる「ワクチン・検査パッケージ」の概要 オミクロン株が冷や水を浴びせるか?

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

各自治体ですすむ「ワクチン・検査パッケージ」施策

「ワクチン・検査パッケージ」(VTP)は、飲食店などの利用者の新型コロナワクチン接種歴や抗原検査・PCR検査等の陰性結果を確認することで、新型コロナ感染拡大時においても、人数制限をせず営業を続けられるという主旨の施策です(1)。

現在、各自治体は無料検査場の設置をすすめ、VTPを適用する登録事業者を募集しています。事業者側が登録するメリットとしては、VTPを用いた利用者に対して、5人以上の会食やカラオケ設備の提供(収容率上限50%)が可能になるという点です。

しかし、オミクロン株の感染拡大がVTPに冷や水を浴びせる可能性があります。

ワクチン接種証明の概要

ワクチン接種歴を証明する場合、飲食店などの利用者がワクチンを2回接種していること、また2回目接種日から14日以上経過していることの確認が必要です。3回目接種後であれば、14日以上経過していなくても大丈夫です。

すでに「ワクチン接種証明書」(アプリ・紙)の発行が始まっており、ワクチン接種時に接種会場で発行される「接種済証」もこれと同等の扱いになっています。

ただ、オミクロン株では2回接種でもブレイクスルー感染が起こりうることから、感染伝播を減少させる医学的な証明にならない可能性があります。そのため、ワクチン接種証明に関して、①現行の2回接種のままでよいのか、②有効期限を設けなくてよいか、という課題が今後出てくる可能性があります。

検査陰性証明の概要

VTPでは、検査陰性証明は、12歳未満や医学的理由でワクチンが接種できない人におけるワクチン接種証明の代替とされます(医学的には決して代替にならないですが)。適応を満たしていれば、検査は無料です。

オミクロン株の市中感染が確認されている大阪府や京都府、米軍基地で感染者が確認されている沖縄県では、不安のある方に広く無料の検査が行えるよう12月23日に表明されています。ややこしいのですが、これはVTPの制度とは関係ない仕組みです(表1)。

表1. 大阪府の無料検査事業(概要)(参考資料2を元に筆者作成)
表1. 大阪府の無料検査事業(概要)(参考資料2を元に筆者作成)

VTPに話を戻しますが、6歳未満の未就学児については、親などの監護者が同伴しておれば検査不要としていますが、6歳以上12歳未満の児童については、検査の陰性確認が必要となります。ワクチンが接種できないこの世代は、この制度における「谷間世代」と言えます。

検査は、PCRセンターや薬局などで受けられます()(2)。薬局については現在急ピッチで整備がすすめられているところですが、これまで病院が担っていた「診断」の役割を薬剤師が負担することになりかねない、と個人的に懸念しています。検査後、「検査結果通知書」が発行されます。抗原定性検査の場合、即日受領できるという迅速性があります。

図. 検査フロー(大阪府の例)(参考資料2より)
図. 検査フロー(大阪府の例)(参考資料2より)

検査陰性証明に関して、PCR検査は検体採取日から3日以内、抗原定性検査は検査日から1日以内が有効期限とされています(表2)。PCR検査は結果判明までに2日ほどかかってしまうので、有効期限が長いことの恩恵はほぼありません。

表2. 「ワクチン・検査パッケージ」で適用される検査の解釈(筆者作成)
表2. 「ワクチン・検査パッケージ」で適用される検査の解釈(筆者作成)

ノルウェーのオミクロン株クラスター

ノルウェーでおこなわれた117人が参加するクリスマスパーティで、オミクロン株の大規模クラスターが起こりました(3)。新型コロナワクチンを最低1回接種している人が96%で、参加者全員が事前のPCR検査あるいは抗原検査で陰性だったとされています。しかし、81人が新型コロナに感染してしまうという未曽有の事態となりました(ほとんどがオミクロン株)。

つまり、日本のVTPを適用したような状態で、参加者のほとんどが感染するという実例が出てしまったわけです。このような事例を目の当たりにすると、少し不安になりますね。

なお、この論文で推定されるオミクロン株の潜伏期間の中央値は3.0日で、デルタ株4.3日、それ以前のウイルスの5.0日と比べると短くなっていることが分かります(3,4)(表3)。ここまで潜伏期間が短いと、3日前の抗原定性検査陰性を見る意義はさらに薄れるかもしれませんね。

表3. オミクロン株の潜伏期間は短くなっている(参考資料3を元に筆者作成)
表3. オミクロン株の潜伏期間は短くなっている(参考資料3を元に筆者作成)

まとめ

感染拡大期にあっても、VTPを利用すれば行動制限の緩和が可能ということで始まった取り組みですが、オミクロン株の感染があまりにも急拡大したり医療が逼迫したりするような事態となれば、運用が再検討される可能性はあると思われます。

個人的には、オミクロン株がどのくらい市中にインパクトを与えるかを観察しつつ、VTP施策をうまくすすめて社会経済活動の停滞を最小限に食い止めることができればと思っています。

オミクロン株の新規感染を広めないためには、3回目の接種を迅速にすすめていくことが重要です。同時に、マスク着用、こまめな手洗い、3密を避ける、といった基本的な感染対策を続けていく必要があります。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症対策本部. ワクチン・検査パッケージ制度要綱(URL:https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_r_031119_1.pdf

(2) 第62回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議(URL:https://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/62kaigi.html

(3) Brandal LT, et al. Euro Surveill. 2021 Dec;26(50).

(4) Grant R, et al. Lancet Reg Health Eur. 2021 Nov 26;100278.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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