Yahoo!ニュース

料理の鉄人・神田川俊郎さんの預金口座はなぜ下ろせなくなったのか~相続で「口座凍結」が起きる理由

竹内豊行政書士
預金者が死亡すると口座から引き落としができなくなるのはなぜでしょうか。(写真:イメージマート)

“関西料理界のドン”といわれ「料理の鉄人」(フジテレビ系)などに出演し、人気を博した料理人の神田川俊郎さん(享年81)が、‘21年4月25日に新型コロナで逝去してから2年の月日が過ぎました。

神田川さんのお店を継いでいるご長男が神田川さんの相続が一定期間されていないことについてのインタビューの中で次のようなコメントをされています。

この時、店を経営する神田川さんの長男は、相続しない理由を、神田川さんが個人事業主として店を経営していたため、急逝した際に銀行口座が凍結され『とにかくまずは店を立て直すことが先決だということで、相続の話し合いが後回しになっていた部分はありました』と同誌で明かしていた。

引用:神田川俊郎さん 三回忌でも4億円不動産相続されず 長男語った真相

このインタビューで「銀行口座が凍結されてしまったため、店の立て直しを先決にすることを余儀なくされてしまったために、相続の話し合い(遺産分割協議)が後回しにならざるを得なかった」という内容が語られています。

そこで本日は、相続でよく起きる「預金凍結」についてお話ししたいと思います。

「預金の凍結」とは

預金者が死亡すると預金が下ろせなくなったり入金ができなくなったりする場合があります。これを一般に「預金の凍結」といいます。

預金が凍結されてしまうと被相続人(死亡者)の預金から葬祭費用や入院費用等の工面ができなくなります。

また、凍結された口座から公共料金等の自動引き落としもできなくなります。

銀行が口座の凍結をするケース

銀行は預金者の死亡の情報をキャッチすると預金口座を凍結します。では、銀行は預金者の死亡をどのようにして知るのでしょうか。

相続人からの連絡により知るケース

・相続人が相続手続のために来店した

・相続人からの電話

業務で知るケース

・斎場の看板で預金者の氏名を見かけた

・得意先回りで預金者死亡の情報を得た

マスコミの情報で知るケース

預金者が著名人であるなどの理由により、その死亡が新聞やテレビの報道等で公知の事実となっている場合には、一般に相続人等からの死亡の連絡がなくても、銀行が預金者死亡の事実を知った時点で直ちに預金を凍結します。

神田川さんの預金口座が凍結してしまったのはこのケースかもしれません。

その他

・所轄の税務署から預金者の照会を受けた

・他の金融機関から預金者死亡の連絡が入った

銀行が預金を凍結する理由

では、なぜ銀行は預金者の死亡を知ると預金を凍結するのでしょうか。

遺産である預貯金債権は遺産分割の対象になります。したがって、遺産分割までの間は、相続人単独での払戻しは原則としてできません。

そのため、銀行が、何らかの方法により預金者の死亡を知った場合には、相続人以外の者への払戻しを防止する必要があります。

万一、銀行が預金者の死亡の事実を知ったにもかかわらず、預金の入出金停止措置をとらなかったために、不正な払戻しがなされた場合には、銀行は責任を免れず、不正な払戻しと相続財産の払戻しの両方の払戻しをしなければならない場合が発生するおそれがあります(いわゆる「二重払いのリスク」)。

このようなリスクを回避するために、預金者の死亡を知った場合は、銀行は直ちに全店での入出金停止措置を行うというわけです。

口座の凍結を解除するには

いったん口座が凍結されてしまうと、一定の手続を経ないと払戻しはできません。

払戻しをするには、まず相続人全員の合意のもとで遺産分割協議を成立させます。その上で、銀行所定の手続きを行います。

遺産分割協議がすんなりと成立すればよいのですが、相続人の内の一人でも遺産分けの内容に反対するといつまで経っても凍結されたままという状態が続いてしまいます。

通常、遺産分割協議を開始してから払戻しが完了するまで、スムーズにいっても2か月程度はかかります。

なお、遺言がある場合は、相続人全員による遺産分割協議を成立させる必要がありません。そのため、払戻しが比較的速やかに行われます。

もし、自分の死後に預金口座が凍結されると困る人がいる方は、遺言書を残して口座を引き継ぐ人を指名しておいた方がよいかもしれませんね。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事