木を伐り木材を使えば脱炭素? 摩訶不思議な理屈を断ずる
林野庁が、脱炭素などカーボンニュートラルを推進するために、森林・林業や木材産業へ民間の投資を呼び込もうとしている。そして「カーボンニュートラルの実現等に資する森林等への投資に係るガイドライン」中間とりまとめを公表した。
そこでは伐採後の再造林と、伐った木の使い道によって評価するという。その内容に目を通してみたのだが、気分はヘナヘナと森下がって、いや盛り下がってしまった。本当にこれで脱炭素になると思っているのか。森林が吸収するCO2が増えると思っているのか。
まず再造林だが、木を伐るとCO2が排出されることは認めつつ、ガイドラインでは、再造林を行うなら排出量をゼロと算定する考え方を示している。
木を伐っても、伐採跡地に木の苗を植えたら、成長する過程でCO2を吸収し将来的に森林が元に戻るから……という考え方なのだが、これ、素人が考えてもわかる嘘っぱちである。
再造林したらCO2排出ゼロの嘘
ごく簡単に考えよう。仮に60年生の木を伐ったら、その木がこれまで吸収していたCO2は、今後吸収されなくなる。そして60年間の成長で蓄積してきた炭素(木材)も、燃やすか腐らせたら排出される。新たな苗を植えても、小さな苗が吸収するCO2が、60年間育った大きな木の分に追いつくわけがない。60年経って、ようやく以前と同じになるだけだ。
ちなみにカーボンニュートラルにする期限は、2050年。あと28年しかない。間に合わないどころか、今よりCO2の排出は増えてしまうのではないか。
いや、伐った木は木材として保存すれば、炭素を蓄えたことになるので排出されたことになりません、だから木の用途が重要なのです、というのだが……。
これも、メチャクチャ怪しい理屈だ。木材の利用法として思いつくのは,まず住宅などの建築物だが、日本の住宅の平均寿命は30年しかない。これを60年以上、いや炭素の蓄積増を期待するなら100年とか200年ぐらいに延ばさなくてはならないが、極めて難しいだろう。
森の木のうち建材になるのは1割?
しかも、森の木のうち建築材になるのは、実はわずかである。真っ直ぐな木は、全体の半分以下だからだ。3分の1とする林業家もある。また日本の木材消費量のうち、建築や家具、建具を合わせても5割弱にすぎない。あとは製紙用が4割ほどだ。ならば建築材になる木だけを伐れば、と思うのだが、現実には皆伐で全部伐ることが進んでいる。
さらに樹木のうち、切り株や根、枝葉、梢…と使わない部分も多く、丸太になるのは大雑把に5割といったところだ。そして運び出した丸太を角材や板に製材する場合の歩留りは、5割以下。つまり樹木全体の2~3割しか建築用途にならない。森林全体なら1~2割ということになる。
残りは、林地に残されて腐らせるか、持ち出しても製紙や燃料材とするのが関の山。大部分の紙は数年で廃棄されるだろうし、燃やせば一瞬でCO2を排出する。
だがガイドラインでは、燃料利用を化石燃料と比較したらCO2削減の効果があると認めているのである。なんで? 再造林した木が育つ60年後に期待しているのか。2070年代になってしまうが。
森林吸収分の理屈は京都議定書から
ガイドラインでは、環境配慮をうたい文句にしているのに実態は異なる場合を指す「グリーンウォッシュ」の防止につなげることも目的としているが、もはやガイドライン自体がグリーンウォッシュではないのか。
ほかにもツッコミどころ満載なのだが、あえて弁護するなら、森林吸収分とか木材はカーボンニュートラルという考え方を採用した国際会議の規定自体がおかしいのである。それを認めることにしたのは1997年に採択した地球温暖化防止会議の京都議定書だが……ああ、日本が主導したことになるか。
森林・林業界に投資を呼び込もうとするのは悪いことではないが、科学的とは言えない理屈を振りかざすのはいかがなものか。
おそらく地球全体による2050年のカーボンニュートラル達成は難しいだろうが、仮に達成しても、それは机上の計算だけである。実際の大気中CO2量はそんなに減っていないだろう。むしろ増えている可能性だってある。
それがどんな気候変動を招くか……とても予測できない。