孔子学院が遂にFBI捜査の対象に
米連邦捜査局FBIが孔子学院をスパイ活動容疑で捜査する。ワシントンから来たメールは同時に、孔子学院の化けの皮をはがす「孔子の名において」というドキュメンタリー映画にも触れている。日本はまだ無頓着だ。
◆FBIが孔子学院をスパイ容疑で捜査
2月14日、ワシントンの華人華僑による民主化運動団体からメールが届いた。メールの頭には“FBI investigating Confucius Institutes”(FBIが孔子学院を捜査している)という情報のURLが示されていた。FBI(米連邦捜査局)が孔子学院をスパイ活動やプロパガンダ活動などの容疑で捜査するとのことだ。
メールの説明によれば、2月13日、米連邦議会上院の情報委員会の公聴会で、クリストファー・ライ(Christopher A. Wray)FBI長官が証言したという。アメリカの大学を中心として中国共産党の思想を宣伝し、スパイ活動まで働いていると主張した。
もっとも、このことは早くから指摘されていて、たとえば2014年6月にアメリカ合衆国大学教授協会は「孔子学院は中華人民共和国の国家の手足として機能しており、『学問の自由』が無視されている」と批判し、関係を絶つよう各大学に勧告した。
現在では北米を中心に孔子学院の閉鎖が相次いでいる。アメリカではシカゴ大学、ペンシルベニア州立大学、カナダのマクマスター大学などが同院を閉鎖した。またカナダ大学教員委員会は「独裁政権の中国が監督し、助成金を出す機関」と指摘し、関係を断つと表明している。カナダの最大学区トロント地区教育委員会は「学問の自由を規制し、学生を監視している」とし同院の受け入れを拒否する意向を示した。
孔子学院は電子機器に情報漏洩の穴を開ける「トロイの木馬」と喩え、機密情報の安全性を脅かすものと、前カナダ政府安全情報局アジア太平洋地区チーフのミシェル・ジュノ―カツヤ氏は指摘している。
◆映画「孔子の名において」
今般、ワシントンから送られてきたメールの主なテーマは、ドキュメンタリー映画“In the name of Confucius”に関する内容だった。中国語では「偽の儒教」など色々な訳が試みられているが、筆者としては日本語で「孔子の名において」と、そのままストレートに翻訳した方が分かりやすいと思うので、以下「孔子の名において」としてご説明する。
「孔子の名において」は、まさに上記のカナダの孔子学院で教員だった華人女性の視点を中心に、大学側と中国共産党政府、言論の自由の抑圧に焦点をあてたドキュメンタリー映画である。
日本では、昨年12月21日のコラム「バノン氏との出会い――中国民主化運動の流れで」に書いたシンポジウムで上映された。監督はドリス・リュウ氏。
映画「孔子の名において」の中でインタビューに答えた政治学者で中国問題専門家のクレイブ・アンスレイ氏は、「孔子学院で、孔子哲学や儒教を学ぶことはできない。そもそも(孔子哲学は)中国共産党が文化大革命により破壊した価値観なのだ。孔子学院は、共産党イデオロギーを広める政治機関だ」と問題性を指摘している。
さらに同氏は、「文化大革命時、極左思想の横行で寺社や孔子廟の破壊、歴史的遺産が壊され、既存の伝統的価値が中国から取り除かれていった。今日、中国共産党はその野蛮さの手法をソフトに変容させ『教育』と偽って党の宣伝を広めている。孔子の名のもとに…」と分析した。
◆孔子批判から孔子学院推進への方針転換に関する中国の思惑
まさに、その通りだ。あれだけ激しい批判の対象としていた孔子を、今度は180度方針転換して肯定しただけでなく、孔子学院を設立して全世界を洗脳しようというのは何ごとか。
毛沢東が中国を建国して以来の「孔子」に対する意識の変遷に関して少しだけ考察してみよう。
1949年に新中国(中華人民共和国)が建国されたが、50年代の時には、毛沢東は決して孔子を否定していなかった。それどころか、毛沢東は50年代初期に山東省の曲阜に赴き、孔子廟を礼拝したほどである。ところが文化大革命(1966~76年)期間の1972年に林彪がクーデターを起こそうとしたことから林彪批判とともに孔子批判が始まり「批林批孔」として激しい闘争が繰り広げられた(なぜ林彪と孔子が組み合わされた形で批判の対象となったかに関しては諸説あるので、ここでは省略する)。
1978年12月から改革開放が始まったが、その時はまだ孔子批判が覆ることはなかった。
ところが1989年6月4日に天安門事件が起き、中共中央総書記に急遽抜擢された江沢民は、1994年から愛国主義教育を始めた。天安門事件は改革開放された窓から吹き込んでくる欧米の民主主義的価値観に基づく新鮮な息吹に憧れを持った若者たちが民主化を叫んだのだとして、愛国主義教育では「中国にも伝統的な文化や思想がある」と主張している。
この時点から「欧米に憧れるな!中国にも良いものがある!」という洗脳が始まった。
こうして孔子否定から孔子肯定へと方針が転換されたのである。いずれにしても、一党支配体制の維持を強化していく統治の道具であることに変わりはない。
90年代後半から2000年代初期にかけて、中国の国家教育部が管轄する「国家漢語国際推広領導小組弁公室(略称:漢弁)」が中心となって孔子学院創設の方針が研究され始めた。
そのころ筆者は筑波大学の留学生センターで100ヶ国以上の国から来ている外国人留学生の指導教育に従事していたが、そのときにパリのINALCO(イナルコ。フランス国立東洋言語文化研究所)から来ていたフランス人留学生の世話をしてあげたことがある。彼はINALCOの初期の目的は、東洋の植民地支配にあり、イギリスなどと競って、どの国がより多くの植民地を獲得できるかを目指して、先ずはその国の「言語」を学んで植民地支配を完遂するという戦略で動いていたと教えてくれた。
これは非常に重要なファクターで、中国はアメリカを凌駕するには、世界共通語として使われている英語の代わりに中国語が使われるようにならなければならないと考えていたのである。つまり、世界制覇のための長期的な道具として漢語(中国語)を広めるのを初期の目標としていた。だからINALCOに関しても深く研究しており、筆者も多少なりとも質問されたりしているので、リアルタイムで孔子学院創設過程を経験していることになろうか。
表面上は友好を軸とした文化交流を推し出すが、実態は思想文化的に親中派を増やし、世界を「中国化」させて世界制覇を達成するのが目的であることは明白だ。そのためにはかつてのコミンテルンのように赤裸々に共産主義であってはならず、「孔子」という多くの国の人が知っている「文化の衣」を羽織ることにしたのである。
◆日本は無防備
2016年までに139の国・地域に505の孔子学院、1008の孔子課堂(孔子学級)が設けられており、中国は2020年までには全世界に孔子学院を普及させるとしている。
毛沢東は中国共産党による革命を輸出し、世界革命へと発展させていこうとしたが、文化大革命発動により失敗に終わった。
習近平(国家主席)は、毛沢東の失敗を取り戻し、友好や語学の普及あるいは文化交流などをちりばめて、中国共産党思想を全世界に浸透させようとしている。
今年1月17日のコラム<「チャイナ・イニシアチブ」に巻き込まれている日本>で紹介した「チャイナ・イニシアチブ」こそは、「習近平新時代」における「毛沢東による世界革命」の現代版なのである。それを補強しているのが孔子学院だ。
孔子学院は2004年にソウルに第一号が創設されたのを皮切りに、現在日本には、立命館大学(2005年)、桜美林大学(2006年)、北陸大学(2006年)、愛知大学(2006年)、札幌大学(2007年)、大阪産業大学(2007年)、岡山商科大学(2007年)、神戸東洋医療学院(2007年)、早稲田大学(2007年)、工学院大学(2008年)、福山大学(2008年)、関西外国語大学(2009年)、兵庫医科大学(2012年)、武蔵野大学(2016年)……などがある。
一説には日本には中国人スパイが5万人いるというデータも出ているようだが、いずれにしても、日本ほど諜報活動を行ないやすい国はないだろう。日本は無防備だ。
アメリカのFBIが動き始めたのだから、アメリカと「足並みを揃えている」日本も、正しい認識を以て警戒を強めた方がいいだろう。