「チャイナ・イニシアチブ」に巻き込まれている日本
昨年末、「中国共産党と世界政党ハイレベル対話会」が北京で開催された。各国政府のど真ん中の人物に焦点を当てて「中国礼賛」へと洗脳していく。日本は中国の戦略にまんまと嵌って日中関係改善と喜んでいるが…。
◆中国が仕掛ける心理戦
昨年11月30日から12月3日にかけて「中国共産党と世界政党ハイレベル対話会」(以下、対話会)が北京で開催され、120数ヵ国の300以上の政党から成る600人の幹部たちが一堂に集まった。これは世界史上初めてのことだと、中国は胸を張っている。主宰したのは中共中央対外聯絡部。
これまでは、それほど大きな活動をしてこなかったが、第19回党大会が終わり、習近平政権第二期に入ると、突然「対外聯絡部」の存在が大きく前面に打ち出されるようになった。それは「中国共産党」そのものが、世界最大の政党(党員数、約9000万人)として世界各国の政党に影響を与えようという戦略を実行するためである。中国が国家として他国に介入するのは「越権だ」という誹謗を受け得るだろうが、一つの政党として他国の政党に声をかけて連携していくのは非難される筋合いのものではないという論理で動いている。
世界各国の政権与党幹部に焦点を絞って熱烈歓迎し、相手国を親中に持っていくべく洗脳し、「中国礼賛」という心情を植え付けていこうという大戦略である。心理戦とも言える。
◆チャイナ・イニシアチブとは何か
対話会開会の辞は習近平国家主席自身が行い、3日に会議は閉幕したが、それらを総括する形で、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は「北京倡儀」に関する全文を掲載した。
それを読むと、中国が世界制覇を成し遂げるための巨大戦略が見えてくる。したがって、この「北京倡儀」を「チャイナ・イニシアチブ」と名付けることとしよう。
一見、参加者の心を納得させ感動させるスピーチの中に、きちんと中国を礼賛せずにはいられないような心理を醸成する「核」を隠し込んでいる。全文を翻訳するのは避けるが、日本が中国のこの戦略にまんまと嵌っていく様子が手に取るように分かるので、肝心の部分だけを抽出してご紹介したい。
1. 人類の運命共同体を構築するために、「習近平による中国の特色ある社会主義思想」を実現し、ともに一帯一路の建設に携わるために、中国の貢献と各国政党間の連携を強化していきたい。
2. テロやネットの安全あるいは気候変動など、これまでとは異なる脅威が世界に蔓延している。しかし平和と安定は依然として私たちの最大の課題だ。深刻で複雑な国際情勢の中で、いかなる国家も自国単独で人類が直面しているさまざまな挑戦に対応することは出来ないし、どの国も閉鎖的な孤島の中に閉じこもって問題解決に当たることは出来ない。したがって我々は「人類の運命共同体」を形成していかねばならないのである。
3. 異なる社会制度や意識形態(思想)あるいは伝統文化を乗り越え、開放と包容的な態度で各国間の交流協力を推進し、自国の利益を追求すると同時に、他国の利益に配慮してウィン-ウィンを目指す。
4. 新型国際関係の基礎の下「小異を残して大同に付く」関係を樹立し、相互尊重と相互を鑑とする「新型政党関係」を築く。全ての国の政党が人類の未来を創っていく。われわれは習近平総書記を中心とする中国共産党と中国政府が人類運命共同体を構築し、一帯一路建設が実現していることを喜ばしく思う。習近平総書記が一帯一路建設において提唱してきた精神である「共商共建共享(Jointly sharing)」が地球ガバナンスの方向性として国連決議に盛り込まれ、人々の心の中に深くしみわたっている。一帯一路の精神は、まさに人類の運命共同体という時代の潮流にふさわしいものである。
5. このように「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」は人類運命共同体の構築を強調している。これは、中国共産党が中国人民の幸福をもたらすだけでなく、人類の進歩のために奮闘する政党であることを証明している。
概ね以上のような内容だが、参加者は身を乗り出して聞き入っていた。
「閉鎖的な孤島」という言葉を用いて「人類運命共同体」を新型国際関係と位置付けるあたり、明らかにアメリカを意識してのことだと分かる。それでも参加者たちは「わが党もまた人類運命共同体を担う一員だ」と自尊心をくすぐられてか、中国に協力していく。その心理を利用した中国の戦略に、まんまと嵌り込んでいくのだ。
「チャイナ・イニシアチブ」は、「西側の価値観」に代わって、中国がグローバル経済をテコに「北京発の世界の価値観」を創りあげ、一気に中国に傾かせていこうという戦略であるということもできる。
◆日本の特定人物にターゲットを絞れ!
中国の中央テレビ局CCTVは、日本の公明党の山口代表や社民党代表などの紅潮した顔と弾んだ声を報道した。山口氏は「新時代の第一歩を記せた」と訪中成果を誇っていた。日本が自公連立政権であることを知った上での中国の戦略だ。
中国が日本を懐柔するためにターゲットを絞っている人物が二人いる。
一人は自民党の二階俊博幹事長で、二人目は公明党の山口那津男代表である。
以前は小沢一郎氏だったが、今はターゲットのリストから外している。
二階氏は習近平が唱える「一帯一路」構想に参加すべきという意見を持ち、山口氏は改憲に慎重だ。この二人を中国にとって都合のいい方向に導けば、中国の夢の実現がその分だけ近づく。だから中国は、この二人を抱き込むことに余念がない。
二階氏は昨年5月、「一帯一路国際協力サミットフォーラム」に日本の代表団団長として、安倍総理の親書を携えて出席した。そして「日本は一帯一路に協力すべきだ」と述べている。
昨年8月には自民、公明両党と中国共産党との間で第6回「日中与党交流協議会」が仙台市で開催され、「一帯一路への協力を具体的かつ積極的に検討する」という共同提言までまとめあげた。会合には、日本側からは自民党の二階氏、公明党の井上義久氏(幹事長)が、中国側からは中共中央対外連絡部の宋濤部長らが出席している。
二階氏は、昨年12月末、第7回日中与党交流協議会に参加するために訪中し、中共中央党校で講演した。その際、戦略的互恵関係を基に未来を創り上げる「共創」に格上げすることを提唱した。また、「大国である中国と、それを追う日本が協力し、時に競争することも必要」としながら、「いかなる時でも日中の交流を途絶えさせてはいけない」と述べている。
その後、習近平国家主席とも会い、代表団とともに記念撮影に臨んだ後、習近平の母校である清華大学から名誉教授の称号を与えられて、完全に中国の術中に収まった。
尖閣諸島に関しては棚上げ論者である二階氏は、中共中央にとって、これほどターゲットにするのに価値のある存在はない。
◆中国の戦略的狙いを見逃すな
このように二階氏にターゲットを絞るのは、二階氏が自民党内で力を持っていることを中国が知っているからであり、案の定、安倍首相も、一帯一路に協力する方向に日本を導き始めている。中国は日米を落して、一帯一路を通してグローバル経済の覇者になり、アメリカを追い抜こうとしている。トランプ政権の誕生は、中国にとっては千載一遇の、又とないチャンスでもある。
日本の経済界が一帯一路のバスに乗り遅れまいと焦っていることも中国は見逃していない。
しかし、1月14日付のコラム「尖閣に中国潜水艦――習近平の狙いと日本の姿勢」にも書いたように、中国は領土や安全保障問題に関しては、日本に一歩たりとも譲る気はない。尖閣に対する挑発的行為は、「当然のことのように」今後も続くだろう。日本はそのことを肝に銘じるべきだ。
日本が中国をコントロールしているのでなく、日本が中国にコントロールされている図が描かれつつある。
(なお、海警は武警の中央軍事委員会直属という改変に伴い、同じく中央軍事委員会の管轄下に編有され「軍隊」となる。海警は国務院系列の組織であることから、正式には3月5日から開催される国務院側の立法機関である全国人民代表大会で決議される。日本はそのことも認識すべきだろう。)