高齢世代は豊かになり若者世代は貧しくなっている-家計消費から見る世代別消費の実態-
消費支出全体に占める高齢世代(65歳以上)のウェイトは高まってきており、足元では全体の4割弱となっています。この増加トレンドは総人口に占める高齢世代人口割合の上昇を上回っていることから、高齢世代の一人当たり消費が年々増加していることを物語っています。
(データ)総務省統計局『家計調査年報』
一方、世代別の消費支出が過去四半世紀にわたってどのように推移してきたかを下表で確認してみます。
(データ)総務省統計局『全国消費実態調査』(上表)『家計調査年報』(下表)
全世代の消費支出額の1年当たり平均伸び率は1984年から2009年までは0.52%であるのに対して、65から69歳は0.97%、70から74歳は0.79%、75歳以上では0.88%となっていて、全体を上回って消費支出額が増えてきたことがわかります。
一方、2000年を基準にそれ以降の動きを見るとやや異なります。つまり、全世代の消費支出額の1年当たり平均伸び率は▲0.61%と、長引く景気低迷の影響からマイナスとなっていて、特に24歳以下の若年世代では▲1.96%と大きく落ち込んでいるのが分かります。それに対して、65から69歳、70歳以上はそれぞれ0.01%、0.04%増とほぼ横ばいで推移しています。
余談ですが、若者の○○離れという言説はそもそも消費支出に充てられる金額が減少する中で、若者の価値観に照らし合わせて不要不急の支出を抑えているだけだといえると思います。そもそも消費支出をどんどん増やせた時代に青年・壮年時代を生きてきた人々には理解できないことなのでしょうね。閑話休題。
上の表から考えると、
- 高齢世代は過去四半世紀の間トレンドを上回る勢いで豊かになる一方、若者世代は2000年以降貧しくなる一方であること、
- 高齢者は押し並べて貧しいというイメージは過去のものであり、これからは貧しい若者が増加する可能性が高いこと、
- 貧しい若者が今後も貧しいままであるとそもそも社会保障を維持するだけの体力は残らず、逆に生活保護需給予備軍となってしまうこと、
が言えると思います。
以上から、景気の先行きに関して高齢世代の消費が回復しない限り力強い景気回復軌道には乗らないというのは確かにその通りだと思います。ただし、高齢世代の収入のうち6割が年金で占められているため、高齢者の消費が活発化するということはとりもなおさず年金の安定が不可欠でありますが、場合によっては、ただでさえ消費機会を享受できてない若者世代の犠牲において高齢世代の消費が活発化することも考えられます(考えたくはありませんが、高齢者迎合のポピュリズムによる年金増額、高齢者手当ての創設etc)。
もう一つの高齢世代の消費支出を刺激するルートは株価等の資産価格上昇で、こちらの方は日経平均株価が27年ぶりに10連騰とか時価評価額バブル越えとか威勢のよいニュースが相次いでいることからも、今後高齢世代の消費を刺激していくことになるでしょう。そうした点では、今後の景気にとっては好材料といえます。
もっとも、本来は貯蓄を取り崩して老後の生活資金に当てるはずが、貯蓄残高の推移を見る限り、より若い世代で貯蓄残高の減少が見られます。つまり、若い世代は雇用の不安定化による低所得によって、高齢者は社会保障制度の不透明さによって、前者は貯蓄を積めず、後者は怖くて貯蓄を取り崩せないというジレンマに陥っているのだろうと思います。
アベノミクス(日銀)では2%程度のインフレを起こすことで先行きの期待を明るくし消費増・経済成長につなげるということでしたが、残念ながら現時点のところ、消費支出額から見る限りにおいては、そうした政策目標は達成されていないことになります。
過去を支えてくれた高齢者と未来を支える若者との間でどのような資源再分配を行うのが今後の日本の行く末を考える上で最適なのかを、不毛な世代間闘争を徒に煽るのではなく、冷静かつ真剣に考える時期に来ているといえるでしょう。