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「SHOGUN 将軍」話題のアンナ・サワイって誰? ワイスピ、ゴジラ登場シリーズ…とハリウッド快進撃

斉藤博昭映画ジャーナリスト
「SHOGUN 将軍」より

2/27からディズニープラスで配信が始まったシリーズ「SHOGUN 将軍」が全世界で大きな反響を呼んでいる。日本のメディアが「よいしょ」で大袈裟に騒いでいるわけではなく、実際に視聴数、作品評価の記録的な高さが数字で示されていることが、さまざまなニュースで報じられている。

これまでハリウッドで製作された、日本が題材の映画やドラマは、われわれ日本人には明らかに、多かれ少なかれ違和感があり、むしろそこを楽しむ人もいたくらいだが、この「SHOGUN 将軍」は真田広之がプロデューサーの一人を務めたこともあって、日本人が観てもすんなり、そして深く没入できる壮大な戦国絵巻として完成。日本人が観れば納得、海外の人には、かつて黒澤明が与えたインパクトを彷彿とさせる仕上がりになっている。

イギリスの小説家ジェームズ・クラベルの原作を基に、1980年に一度ハリウッドでドラマ化され、「寿司ブーム」などの一因にもなった「将軍」。今回、真田広之は1980年版で三船敏郎が演じた主人公の吉井虎永(徳川家康にインスパイアされたキャラクター)も担うが、「SHOGUN 将軍」で、その虎永と同じくらいの出番があり、準主役と言ってもいいのが、戸田鞠子という役。1980年版では島田陽子が演じ、ゴールデングローブ賞(ドラマ部門の主演女優賞)を受賞した役どころで、モデルとなっているのは細川ガラシャである。

その鞠子を託されたのが、日本人俳優のアンナ・サワイ。真田広之のほか、浅野忠信、二階堂ふみ、平岳大、西岡徳馬ら、日本でもおなじみのキャストが名を連ね、海外を拠点にする日本人俳優も数多く出演している「SHOGUN 将軍」。カナダのバンクーバーを中心に撮影が行われた「ハリウッド作品」なので、こうしたキャスティングは必然だが、その中でもアンナ・サワイは出番の多さから、存在感がひときわ際立っている。

「SHOGUN 将軍」LAプレミアより
「SHOGUN 将軍」LAプレミアより写真:REX/アフロ

鞠子は虎永の家臣の妻で、英語を話せることから、日本に漂着した英国人ジョン・ブラックソーンの通詞(通訳)を務める。日本語と英語、両方のセリフを完璧にこなす必要があるが、ニュージーランド生まれのサワイには最適な役。しかし、これほどの大規模シリーズでメインの役を任せられたのは、彼女の近年の信じがたい躍進があったからだろう。

1992年生まれで、日本でも芸能活動に携わっていたアンナ・サワイは2009年、ハリウッドのアクション大作『ニンジャ・アサシン』に大抜擢される。韓国のスター、Rain(ピ)やショー・コスギらとの共演で、女忍者の霧子を演じたが、KGBなども絡む暗殺劇に忍者を入れ込んだ設定は、ハリウッドでありがちな「なんちゃって日本」の世界だった。

そこからしばらく時間を置き、アンナ・サワイの本格的な俳優業が海外を拠点にスタートする。アメリカの大手タレント・エージェント、ウィリアム・モリス・エンデヴァーと契約。2019年の英国BBCのドラマシリーズ「Giri/Haji」に、本木雅弘の娘で窪塚洋介の妻というメインキャストで参加。平岳大とも共演した。その「Giri/Haji」が話題になった頃、「ワイルド・スピード」への出演も決まる。2021年のシリーズ9作目『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(本来は2020年公開予定だった)では、ドミニクやハンと一緒にミッションに挑むエル役。マシンガンを豪快にぶっ放すなど、ワイスピファミリーの一員として活躍した。大ヒットシリーズということで、ここでアンナ・サワイを認識した人も多い。

『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のプレミアで、シャーリーズ・セロン、ヴィン・ディーゼルらと
『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のプレミアで、シャーリーズ・セロン、ヴィン・ディーゼルらと写真:REX/アフロ

さらに2022年にはApple TV+配信のシリーズ「Pachinko パチンコ」に出演。日本統治下の韓国に始まる、激動の人生を生きた女性の物語で、サワイは主人公の孫の同僚、直美という重要なキャラクターを務めた。ベストセラーを原作に、多くの場面が日本で展開され、日本語のセリフも多いこのドラマは、高い評価を受けながら、日本のメディアであまり取り上げられないことが逆に話題にもなった。

そして2023年、アンナ・サワイはApple TV+の「モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」に、またもメインキャストで出演する。ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』にも登場した、怪獣を追う秘密組織「モナーク」や、ゴジラ襲撃に影響を受けた人々を描くシリーズ。サワイは、2014年にサンフランシスコでのゴジラ出現をトラウマに抱える教師ケイトを演じている。半世紀前に遡って、ゴジラの起源にも迫る壮大なストーリーで、サワイは重要なパートを任されたわけだ。

こうして振り返ると、

2019年「Giri/Haji」

2021年「ワイルド・スピード」

2022年「パチンコ」

2023年「モナーク」

2024年「SHOGUN 将軍」

と、アンナ・サワイのキャリアは「快進撃」と呼ぶべき勢いであることが、よくわかる。

現在、サワイはアメリカのエージェントと契約しながらも、生活の拠点は日本であるという。今後、日本の映画やドラマに出演する可能性もあるかもしれない。

「SHOGUN 将軍」では自身の意思を貫きつつ、忠義も尽くす鞠子で、凛とした佇まいを崩さず、ポイントとなる場面では感情を露わにし、壮絶な決断に身を委ねる覚悟も示す。さらに美しい着物さばき、薙刀を使った豪快なアクションまで披露し、日本の時代劇の本質を世界に示すことに尽くしたアンナ・サワイ。インタビューした際の柔らかな対応、どこか謙虚さを崩さない雰囲気は、ハリウッドの一線で活躍していることを感じさせない素顔だった。役とのギャップが大きいことも、俳優として大成する条件なのだと、アンナ・サワイは証明する。「SHOGUN 将軍」の後半にかけて、鞠子の運命は劇的を極めるので、ぜひ楽しみにしてほしい。

ジャパン・ソサエティでのスクリーニングでのアンナ・サワイ
ジャパン・ソサエティでのスクリーニングでのアンナ・サワイ写真:REX/アフロ

「SHOGUN 将軍」ディズニープラスにて配信中

Photo: (c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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