Yahoo!ニュース

Facebookのザッカーバーグがアメリカを旅して決意したこと トランプを倒して次の米大統領になる?

木村正人在英国際ジャーナリスト
Facebookの共同創業者ザッカーバーグ氏(写真:ロイター/アフロ)

Facebookの共同創業者兼会長兼CEO(最高経営責任者)マーク・ザッカーバーグ氏(33)の新年の誓いは「アメリカを旅してみること」でした。昨年のアメリカ大統領選で祖国が分断していることに驚き、自分の目で何が起きているのか確かめてみようと考えたからです。

ザッカーバーグ氏は、バラク・オバマ前大統領のアドバイザーであり、大統領選で民主党指名候補ヒラリー・クリントン元国務長官陣営のチーフ・ストラテジストだった人物ら選挙のプロを立て続けに雇ったことから、次期大統領選に出馬するのではという観測が強まっています。

アメリカの旅について語るザッカーバーグ氏(本人のFacebookより)
アメリカの旅について語るザッカーバーグ氏(本人のFacebookより)

本人は否定しているのですが、真意は分かりません。これまでアメリカ30州を回った感想をザッカーバーグ氏はカンザス大学で語り、その動画をFacebookに投稿しています。

「これまで世界中の国際都市を飛び回ってきましたが、アメリカ国内にはそれほど足を運びませんでした。グローバリゼーションとテクノロジーが格差を拡大していると言われていますが、アメリカの現状をこの目で見てみようと思ったのです」

こう語るザッカーバーグ氏が最も驚いたのは鎮痛剤に使われているオピオイド中毒の蔓延です。慢性的な痛みを解消するため、アメリカではオピオイドを常用する人が多く、摂取過剰で死亡する人が相次いで大きな社会問題になっています。下はアメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)データをもとに筆者が作成したグラフです。

画像

青色の棒グラフは過剰摂取による死者数、赤色の棒グラフはそのうちオピオイド関連の死者数です。物凄い勢いで過剰摂取死が増えていることが一目瞭然です。ザッカーバーグ氏はこう指摘します。

「昨年アメリカで薬物の過剰摂取で死亡した人は6万4000人にのぼる見通しです。銃で撃たれて死んだ人と交通事故による死者を合わせた数より多く、ピーク時の後天性免疫不全症候群(エイズ)による死者よりも多いのです。ベトナム戦争で戦死したすべてのアメリカ兵士の数を上回っています」

2012年にはオピオイドの処方箋が2億5900通も出されています。痛み止めのためオピオイドを1カ月も2カ月も使っていると止めることができなくなります。副作用で痛みに敏感になり、止めると痛みが増幅するためです。

医者の処方箋が出なくなっても闇市場で入手して使用を続けるケースが多いそうです。オピオイドは高額なため、闇市場で安く手に入るヘロインに移行する常習者も少なくありません。

「オピオイド・クライシス」の被害者はイスラム過激派テロのそれよりも比べものにならないほど多いのです。オバマ前大統領もドナルド・トランプ大統領もオピオイド中毒対策を掲げていますが、有効な手を打てていません。

ザッカーバーグ氏は続けます。「先の大統領選で民主党と共和党に投票した地域の差は薬物の摂取過剰による死亡率と最も相関関係があることが分かっています」。ペンシルバニア州立大学の社会学者・人口統計学者、シャノン・モナット氏はこんな散布図をツイートしています。

共和党大統領候補の指名争いでトランプ支持者が多い地域ほど、薬物やアルコール、自殺による死亡率が多くなる傾向がくっきり現れています。薬物過剰摂取死はコミュニティーが崩壊していることを示す一つの社会的な指標です。

昨年の大統領選ではフェイスブックなどSNSを通じてフェイク(偽)ニュースが氾濫し、選挙の公正さを害したと批判されました。ザッカーバーグ氏は「政府に協力して対策を講じています。セキュリティーの人員を1万人から2万人に倍増しました。もっと自動的に問題を発見できるようになると確信しています」と強調しました。

ザッカーバーグ氏はアメリカを巡る旅で薬物中毒者から非行少年、ごく普通の人まで実にたくさんの人々に出会いました。家族、友人、宗教、学校、ボランティア、政府というつながりの中で、ザッカーバーグ氏は地域のコミュニティーの大切さを痛感しました。「エンジニア出身なので問題を解決するマインドを持っていましたが、これからは価値観を共有するコミュニティー・ビルダーになろうと思います」との考えを示しました。

自動運転車が実用化されると仕事がなくなるのではないかと心配するトラック運転手の不安を解消するために何ができるのか。そう問い直した時、自分にできることはテクノロジーしかないとザッカーバーグ氏は思い至ります。

新しいテクノロジーを利用できるように訓練して地域の起業を促していく。フェイスブックはすでに30都市で6万件のスモールビジネスを支援しているそうです。

「さまざまなデータに基づく悲観主義は正しいのかもしれませんが、楽観主義は成功をもたらします。今の世界は問題を抱えており、私たちにはそれを解決していく責任があります。失敗したら次の道を探せば良いのです。僕は皆さんと次の世代のことを信じています」

人工知能(AI)やロボットが仕事を奪っていくことを心配する前に、私たちはチャレンジしなければなりません。ネオリベラリズムか、社会民主主義かという手垢の着いた政治的な対立軸よりも、未来を切り開いていく若者の楽観主義がアメリカにも私たちにも求められています。

3年後、私たちはフリースとジーンズを着た新世代のアメリカ大統領候補を見ることになるのかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事