チャペック『ロボット(R.U.R.)』が発表されてから100年:キラーロボットも予言していた?
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チェコの作家カレル・チャペックが戯曲『ロボット(R.U.R.)』を1920年に発表してから、今年で100年になる。「ロボット」という言葉を作り出したと言われる作品で、機械文明が人類に与える影響などを描いた予言的作品としていまだに読み継がれている。そしてチャペックが『ロボット(R.U.R.)』を発表してから100年が経った2020年の現在では、日常生活や工場などにおいてもロボットが普及してきている。特にAIが発展してからはAIを搭載したロボットがあらゆるシーンで使用されようとしている。
また軍事分野でもロボットは活用されており、特に3D業務(Dirty:汚い、Dull:退屈な、Dangerous:危険な)は人間の軍人よりもロボットの方が適している。また「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(自律化されたロボット兵器)が人間の判断を介さないで標的を判定して、攻撃を行い人間を殺傷するかもしれない。人間の判断を介さずにロボットが判断して人間を殺傷することが非倫理的だと国際NGOやいくつかの国がキラーロボットの開発と使用には禁止を訴えている。だが軍事分野でのAIとロボット活用は避けられないだろう。
チャペックの『ロボット(R.U.R.)』が発表された100年前の1920年にはテレビやスマホ、インターネットもない時代で、その時代にロボットを構想して、未来を予言するような内容を描いている。まずロボットを作るのは「仕事をさせるため」「楽で、速い」と言っている。
ブスマン:これは傑作だ!なぜロボットを作るかですって!
ファブリ:お嬢さん、仕事をさせるためです。一体のロボットは2人半分の仕事をします。グローリー様、人間という機械はとっても不完全だったのです。いつかは最終的に除去されねばならなかったのです。
ブスマン:あまりにも高すぎましたね。
ファブリ:労働量が少なすぎましたし。近代の技術にはもうついていけなくなりました。そして、第二に、それはとても大きな進歩です。失礼。
ヘレナ:何がですの?
ファブリ:どうぞ失礼のほどをお許しください。機械で生み出せるというのは大進歩です。楽ですし、速いですの。お嬢様、速度を速めるというのはいつも進歩なのです。自然は労働を近代的なテンポで行うという概念を持ち合わせていませんでした。
出典:カレル・チャペック著・千野栄一訳『ロボット(R.U.R)』岩波文庫、1989年 PP43-44(太字は筆者)
そして現在の「キラーロボット」の開発と使用を予言するような箇所もある。著作の中ではロボットに武器を与えて蜂起する人たちを圧制しようとするシーンを描いている。政府がロボットを兵隊にして戦争で戦わせたり、反抗する人民を抑圧したりして、戦争が起こり、それによって「おしまいになる」と表現している。そしてチャペックはそのような時期は過渡的現象であり、その後に新しい世界秩序が構築されると表現している。現在、軍事でロボットは使用されているが、それらのロボットは人間が判断し人間が制御している。だがロボットが人間の判断を介さないで自律的に標的を判定して人間を攻撃するようになったら、多くの人間の軍人も不要になり戦争の形態も変わるだろう。
ヘレナ:例えば労働者がロボットに対して暴動をおこして、ロボットを壊し、そして人間がロボットたちに武器を与えて蜂起した人たちに向かわせ、ロボットがたくさんの人を殺したら、そしてそのあと、いくつもの政府がロボットを兵隊にして、とってもたくさん戦争があって、これでおしまいよ、おわかりになる?
ドミン:それは予想したことだよ、ヘレナ。それは過渡的現象だよ、新しい世界秩序への。
出典:カレル・チャペック著・千野栄一訳『ロボット(R.U.R)』岩波文庫、1989年 PP73-74(太字は筆者)
また著作の中ではロボットもユニバーサルではなくて、国家ごとのロボットになってくると表現している。ロボットが戦場での主体になったとしても基底にあるのは従来の国家の安全保障のようだ。現在の「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器も開発を行っているのは基本的には国家の軍である。現時点ではまだ実戦では使われたことはないが、キラーロボットが登場すると戦場の在り方も変わってくるかもしれない。ロボットが標的にした人間を殺傷しに来ることもあるが、それぞれの国のロボット同士で壊し合いをするかもしれない。
ドミン:これからはもう単一の工場ではなくなる。もうロボットもユニバーサル・ロボットではなくなるんだ。一つ一つの国、一つ一つの国家に工場を作り、その新工場が作りだすのは、もう何だか分ったろう?
ヘレナ:いいえ。
ドミン:民族固有のロボットさ。
ヘレナ:それはどういうことなの?
ドミン:それはね、それぞれの工場から生産されるロボットは皮膚の色が違い、違った毛を持つ、違った言葉を話すのさ。お互いに見知らぬ、まるで石のように無関係になり、もう永遠に理解し合えないようになる。そして、それに加えて、我々人間がやつらにほんのちょっとだけ教育を施すというわけ、分かるかい?ロボットが死んで墓に入るまで永遠に他の工場のマークのついたロボットを憎むようにさ。
レマイエル:いやはや、黒人ロボット、スウェーデン人ロボット、イタリア人ロボット、中国人ロボットを作るとは、そしてそのあと、どこかのどなたさんかが椰子の実のような空っぽなおつむに、組織だの同胞愛とかを吹き込めばいいのさ。
出典:カレル・チャペック著・千野栄一訳『ロボット(R.U.R)』岩波文庫、1989年 P108(太字は筆者)
『ロボット(R.U.R.)』は第一次世界大戦が終了した直後1920年の欧州のチェコで発表された。100年後の現在にはロボットを知らない人はほとんどいないが、当時はロボットと言われても何のことかも理解できない人の方が多かっただろう。ロボットが人間の代わりに働くことなど想像もできなかったし、ロボットが戦争に使われることも予想できなかった時代かもしれない。現在でも人間の判断を介さずロボットが判断して人間を殺傷しに来るようなキラーロボットはSFの世界の話だと思う人も多いかもしれないが、AI技術の発展によって現実味を帯びてきており、従来の戦争の形態や安全保障体制を変えるかもしれない。
ガル博士:諸君、ロボットに戦うことを教えたのは旧大陸ヨーロッパの犯罪だった。ちくしょう、連中の製作とやらを止めることはできなかったのかね?働いているものから兵隊を作ったのは犯罪だった。
アクルビスト:犯罪だったのはロボットを作り出したことさ!
出典:カレル・チャペック著・千野栄一訳『ロボット(R.U.R)』岩波文庫、1989年 P124(太字は筆者)