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新戦力が躍動するWEリーグカップが熱い。3強に食い込む今季のダークホースは?

松原渓スポーツジャーナリスト
WEリーグカップが開幕した(写真:松尾/アフロスポーツ)

 3年目のWEリーグが11月11日に開幕する。それに先立ち、8月26日からカップ戦が開幕。今季は新規参入のセレッソ大阪ヤンマーレディースを含めた12チームになり、各地で熱戦が繰り広げられている。

 女子ワールドカップで盛り上がっていたシーズンオフには移籍関連の様々な動きがあり、12チーム中8チームが新監督を迎えている。カップ戦では各チームの新戦力の活躍も光り、勢力図も変化しそうだ。

 国内リーグを長く牽引してきた浦和、INAC神戸、東京NBの3チームの中で、昨年から体制が大きく変わっていないのは、昨年女王の浦和だけだ。主軸の顔ぶれに変化はなく、神戸からMF伊藤美紀という強力なピースが加入したことで2チーム作れそうなほど選手層は厚くなった。カップ戦は初戦で千葉と2-2で引き分けたが、ワールドカップに出場した代表組が復帰した第2戦はN相模原に4-0で快勝。4年連続二桁ゴールのFW菅澤優衣香が2ゴールと、好スタートを切っている。

浦和レッズレディース(写真提供:WEリーグ)
浦和レッズレディース(写真提供:WEリーグ)

 INAC神戸は今季、スペインからジョルディ・フェロン新監督を招聘。同氏がチームに合流してまだ2カ月経っておらず、代表組(山下杏也加、田中美南、三宅史織、守屋都弥)抜きで戦ったカップ戦は、大宮(1-4)と長野(1-3)に連敗。新チームの輪郭はまだ見えておらず、厳しい船出を強いられた。だが、バルセロナのカンテラ育ちというフェロン監督のサッカー哲学は、着実に浸透しつつあるようだ。経験値の高い2人の言葉がそのことを裏付ける。

「(ジョルディ・フェロン監督は)提示がすごく明確で、細かいですし、セットプレーやリスタートやポジションだったり、こういう時はこうということを細かくやっている。練習のシビアも含めて、個人的にはすごく充実しています」(FW高瀬愛実)

「個人的に、今年のサッカーはすごく楽しいです。戦術もあって、規律の中に自由もある。チームワークをすごく大事にしている監督で、今までのINACに足りなかった部分も意識しています」(MF成宮唯)

ジョルディ・フェロン監督(写真提供:WEリーグ)
ジョルディ・フェロン監督(写真提供:WEリーグ)

 ジョルディ・フェロン監督は新体制発表会で、「チームは“家族”にも言い換えられる」と強調。システムは昨年まで3バックだったが、今季は女子チャンピオンズリーグ女王のバルセロナやW杯優勝のスペイン女子代表と同じ、4-3-3へと形を変えている。カップ戦はチーム作りの過程と割り切り、DF松原優菜(←広島)やDF北川ひかる(←新潟)ら、即戦力がフィットすれば、11月のリーグ開幕は良いスタートを切れるかもしれない。

 昨年3位の東京NBは今季、松田岳夫監督が14年ぶりにクラブに復帰。ボールを保持して圧倒する伝統のスタイルは継承しつつも、「今シーズンは全試合勝ちに行く」(松田監督)と、結果にこだわることを公言している。攻撃の中心だったFW小林里歌子(海外挑戦)が抜けた穴は大きいが、カップ戦では生え抜きのFW土方麻椰、MF山本柚月ら若い選手たちが貪欲にアピール。ワールドカップから帰国後、わずかなオフを経て合流したFW植木理子、MF藤野あおば、GK田中桃子らも好パフォーマンスを見せており、カップ戦は2連勝と滑り出しは好調だ。

2連勝と好スタートを切ったベレーザ
2連勝と好スタートを切ったベレーザ写真:松尾/アフロスポーツ

【今季のダークホースは?】

 今季、その上位3強に番狂わせを起こしそうなチームはどこだろうか? カップ戦の2試合でその期待を漂わせているのが、広島と新潟だ。

 広島はチーム発足3年目と歴史は浅いが、戦術面では着実に積み上げている。昨季はサイドアタックとハイプレスの質の向上が見られ、チャンスの数を増やした。一方、得点力はMF中嶋淑乃頼みになりがちだったが、今季はピンポイントで的確な補強に成功している。シュートレンジが広いFW高橋美夕紀(←大宮)、スピードのあるMF松本茉奈加(←N相模原)に加え、最終ラインにはフィード力のあるDF市瀬千里(←千葉)を即戦力で獲得。カップ戦初戦は新戦力3人のゴールで仙台に勝利(4-1)した。2試合目のC大阪戦では“WEリーグの三笘薫”の愛称を持つ中嶋が持ち前のドリブルで違いを見せ、中村伸監督(3年目)の積極的な交代策も功を奏して2連勝スタート。高橋、MF瀧澤千聖、MF上野真実らアタッカー陣の活躍次第では上位も狙えそうだ。

積み上げを感じさせる広島(写真提供:WEリーグ)
積み上げを感じさせる広島(写真提供:WEリーグ)

 新潟は、今季のダークホースになるかもしれない。WEリーグでは過去2シーズン、下位に低迷してきたが、今季はMF川澄奈穂美(←ゴッサム・FC/アメリカ)、MF杉田亜未、MF石田千尋(←ともにN相模原)という強力な戦力が加入。得点力不足解消のピースが揃った。カップ戦は2試合で6ゴール。MF道上彩花とFW石淵萌実がそれぞれ3ゴールずつを決めて得点ランクトップに並んでいる。

 J3の今治などで指揮を執ってきた橋川和晃新監督は、「プレーモデルを持って、主体的に判断していく選手を育てたい」と話し、これまでの堅守速攻から“堅守柔攻”へと変化させていくことを明かしている。

 カップ戦では、中盤で新加入の川澄、石田、杉田が存在感を発揮。中盤やサイドのスピードや強度が増し、攻撃のバリエーションも増えている。3日の東京NB戦(2-3)は強豪相手に最後まで食らいついてシーソーゲームを演じた。

 アメリカ帰りの川澄は、2試合ほぼフル出場。東京NB戦では勝負どころを見逃さないプレーや、終盤まで落ちないハードワークが光った。「アメリカの速いプレースピードに慣れていたので、足が自然と動く感じがあります。海外で経験を積んで戻ってきて、日本を盛り上げたいという気持ちでプレーしている選手がいることを知っていただいて、ぜひ会場に足を運んでいただきたいです」と、試合後も表情は生き生きとしていた。アウェーに駆けつけた新潟サポーターの数を見ても、今季のチームへの期待感が感じられた。

海外挑戦を経てWEリーグに参戦した川澄奈穂美
海外挑戦を経てWEリーグに参戦した川澄奈穂美写真:松尾/アフロスポーツ

 代表帰りのGK平尾知佳も、「尊敬する選手が入ってきてくれて、ついていこうと思える。誰が点を決めてもおかしくない攻撃ができているのは、(今季の)チームの武器です」と自信を見せた。

 また、新たに今季から参戦するC大阪もリーグに“旋風”を起こす可能性がある。ほとんどが生え抜きという選手で構成されるチームの平均年齢は21歳。若さゆえのスタミナや連携を生かしたハイプレス、失点しても落ちないメンタリティは、なでしこリーグで長い時間をかけて醸成されてきた強みでもある。

「世界基準の個を育てたい」という鳥居塚伸人新監督。初戦でN相模原に2-0で初勝利を飾り、広島戦(1-2)では終了間際にMF小山史乃観がクロスバー直撃のシュートを放つなど、プロに遜色ない個のクオリティを持つ選手も多く、伸びしろは大きい。

C大阪の脇阪麗奈(ピンク)と広島の柳瀬楓菜(写真提供:WEリーグ)
C大阪の脇阪麗奈(ピンク)と広島の柳瀬楓菜(写真提供:WEリーグ)

 ヘッドコーチにスペイン人のイスマエル・オルトゥーニョ・カスティージョ氏を迎えた千葉や、柳井里奈新監督が指揮を執る大宮も、昨季からは明確に試合内容が変化している。チームカラーの変化も含めて、目が離せない試合が続く。

【全41ゴール中15ゴールがエリア外から】

 全体的な傾向として目を引いたのは、カップ戦12試合で生まれた41ゴール中15ゴールがペナルティエリア外からのシュートだったこと。ロングキックやサイドチェンジなどを戦略的に使うチームも増えており、フィジカルやスキルも含めた個のレベルアップを感じる。

柳井里奈監督(写真提供:WEリーグ)
柳井里奈監督(写真提供:WEリーグ)

「打てるところは打とうと話しています。DFの選手には申し訳ないけど、(スコアが)4対3になってもいいから撃ち合っていこうと送り出しています」と明かしたのは大宮の柳井監督。WEリーグが“世界基準”を目指すためにも、シュートの精度やゴール期待値をさらに高めていくことは重要なファクターになる。

 2試合の観客数は、1試合平均1,215人。最多は、C大阪がホームのヨドコウ桜スタジアムに広島を迎えた試合で、2,989人だった。女子ワールドカップでのなでしこジャパンの躍進(ベスト8)を考えれば、寂しい数字である。集客については海外や他競技の事例も参考にしつつ、11月のリーグ開幕に向けて引き続き注視していきたい。

WEリーグカップ 次節のスケジュール

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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