銀座の路地裏に「焼鳥×日本酒」の穴場! 懐石料理出身の職人による巧みなコースは驚きが満載【傳鳥】
今回、冒険するのは東京都中央区銀座の焼鳥屋「傅鳥」。一口に銀座の焼鳥といっても昔ながらの大衆店から洗練された高級店まで様々で、それこそシーンによって選ぶ店はガラリと変わってくる。数あるなかでも焼鳥と日本酒にこだわり、つまみを織り交ぜたコースで楽しませてくれるのが、ここ「傅鳥」。懐石料理と焼鳥の腕を磨いた大将のセンスを存分に感じられる穴場だ。
銀座コリドー街近くのビルにひっそり
有楽町駅と新橋駅の間。銀座コリドー街から裏路地に入ると雑居ビルが連なっていた。テナントも飲食店にバー、スナックと、いかにも繁華街らしい。「傅鳥」があるのはビルの6階。ただ街をぶらぶらと歩いているだけなら、ここに焼鳥屋があることに気づかないかもしれないな。
カウンターは10席ほど。すぐ目の前には焼き場。その近さからか、まるでバーにでも来たかのような錯覚に陥る。「傳鳥」のコンセプトは「燗酒と焼鳥」。そう、日本酒のなかでも温かい燗酒だ。最近は焼鳥とワインをうたう店が増えているけれど、それよりも前の時代から燗酒は焼鳥に寄り添ってきたんだ。そう。とくに、こんな寒い夜には。
身体を癒すように、おこわから
頼んだのは焼鳥に肴、それに〆まで付いた多彩な傅々コースと、燗酒ペアリング(実質飲み放題)。いい焼鳥、いい肴はどうしたって酒を呼ぶものだから、ここは店にゆだねて燗酒ペアリングを楽しむ方が、むしろお得感満載。
「蟹といくらのおこわです」と店主の瀧澤さん。そう、蟹といくらだ。焼鳥屋だといのにのっけから魚介とは面食らうものの、不思議と「傅鳥」では馴染むんだ。それはきっと、日本酒を真ん中に据えているからなんだろうなぁ。外気に当たって冷えた身体を癒すように、ほっこり。
ささみはあえて串から外して?
「傅鳥」の1本目はささみから。とは言ってもよくあるさび焼きじゃなく、なんと土佐酢浸しに仕立てて。趣きのあるうつわも相まって、ぐっと和の世界に引き込まれる。
「串から外して土佐酢につけてお召し上がりください」と店主の瀧澤さん。
大の焼鳥好きとしては串から肉を外すのはためらわれるものだけど、ここは言うとおりに。外したささみを土佐酢にくぐらせ、口に運べば肉のうまみと爽やかな酸味が溶け合うように。そして、追いかけるようにゆずの香り……。んん。これがまた、燗酒に合うんだ。
シンプルながら緩急をつけた串の数々
続いては、抱き身(むね肉)にねぎを巻いた一品。ささみと同様、これもスタンダードなねぎまじゃない。あえて肉でねぎを巻くことで1貫ごとの一体感を際立たせている。
むね肉はしっとり、ふっくらと。ねぎの香味がふわり、鼻をくすぐっていく。あまり淡泊なささみと抱き身(むね肉)が立て続けに出されることはないのだけど、土佐酢浸しに、ねぎ巻きときた。酸や香味の使い方からするに、なんとなく鮨に似た流れに似ている?
さらにプリップリのせせりが続いて、ここでぼんじり。ぼんじり自体はよくあるネタだけど、パリッとなるまでしっかり焼ききって、余分な脂を落としたぼんじりがうまいんだよ。中途半端な火入れだと脂がぶよっと仕上がって、口の残ってしまう。
その点、このぼんじりは噛めばカリッ、ジュワッ、もちっと理想的。これにもやっぱり、キリッとした純米燗酒がよく合う。口の中の脂も洗い流してくれるよう。
ザクッとした砂肝が続き、ここでレバー。一見、表面がかたそうに見えたものの、食べてみればパリッと砕けて、中はとろりと脂がのったコントラスト!
これは濃いなぁ。運よく白レバーだ。燗酒で追いかけると、ふくふくとうまみが広がっていく……。いやいや、白レバーと燗酒、完璧じゃないか。
焼鳥コースでまさかのたまごサンド!?
コースも折り返そうというところで、まさかのたまごサンド! 変化球まではいかない絶妙なライン。「傳鳥」はこういう飽きさせないギミックも秀逸だ。焼鳥の流れにありながら、すっと馴染むのだからおもしろい。
ふわりとしたパンに出汁のきいた玉子を挟み、これでもかと「ふわふわ」を重ねてきた。いやいや、これがまずいわけがないよなぁ……。もう、土産として持ち帰りたいくらいだ。
「傳鳥」名物、手羽先の包み焼き
「手羽先の包み焼きです。本日は、ほたての貝柱とほうれん草、れんこんを包みました」と瀧澤さん。
手羽先の骨を外して串打ちする焼鳥屋はちらほら見かけるものの、さらに、こんな風に複雑な詰め物をする店は見たことがない! しかも魚介のほたてときた。ひと口でいけば、手羽先の肉のうまみを包むように、複雑なうまみや甘み香りが絡み合っていく……。
いやぁ、これはうまい。手羽先とほたてのうまみが調和して、野菜もペーストになっているのでより一体感が出ている。こういうセンスは、懐石料理出身の瀧澤さんならではだ。
しかも、詰め物は毎月のように変わっていくようだから、訪れるたびに宝箱を開けるような楽しみもあるわけだ。これは、たまらないね。
もも肉と椎茸の一皿に続き、最後のネタを飾るのは、定番のつくね。噛めばやわらかく、ふっくらとして、肉汁を閉じ込めるような焼き。思い返せば、唯一たれをまとわせているのが、このつくねだ。
しかし、途中でたれネタを挟まないのは瀧澤さんのこだわりだろうか? そうだとすれば、鮨でいう穴子の位置づけなのかもしれないな。
究極のたまごかけごはんがここに!
つくねも食べ終えて、さぁ、あとは〆を待つだけ。すると、瀧澤さんが卵液を温め始めた……。もちろんカルボナーラを作るわけでもなく、〆は八ヶ岳卵を〝温めた〟たまごかけごはんだという。
「卵液を45度近くまで温めることでたまごの甘味や香りが引き出されるんです」
差し出されたのは、黄金色に輝く一杯。ごはんの熱に寄り添うように、とろ~りと絡むように。もう、口に入れたときの一体感といったら!
今まで食べていたのはなんだったのだろう、と思うくらいだ。どれほど高級な卵と米、醤油を使ったものよりも、瀧澤さんの「燗酒をつける視点」で作ったたまごかけごはんに惚れ惚れ。シンプルにして究極の一杯。それはきっと、言いすぎじゃない。
コースを締めくくる甘味はおなじみの?
たまごかけごはんの余韻にひたっていると、コースの最後を飾る甘味が差し出された。おっと、この見た目はあずきバーじゃないか。ただ、フォルムがまったく違う。……これは手作りのあずきバーだ。
早速食べてみれば、あずきバーとは思えないくらいにサクサクッと小気味よく砕けて、あんの控え目な甘みが広がっていく……。あぁ、なんて上品な味わい。聞けば「口溶けの秘密は豆乳を使っていることにあります」と瀧澤さん。きっと、この味を作るために何度も試作を重ねたんだろうなぁ。
手羽先の包み焼きといい、温めるたまごかけごはんといい、終始、瀧澤さんの職人技が存分に感じられるコース。いやもう、口福。銀座の路地裏に、穴場ありだ。
▼冒険のおさらい
①焼鳥はもちろん一品もセンス◎
②純米燗酒のラインナップも強烈
③手羽先の包み焼きとTKGに感動!
店舗情報
【店名】傳鳥
【最寄り駅】銀座駅
【住所】東京都中央区銀座6-2-6
【予約】03-3575-0526
【定休日】日曜、祝日
【串のアラカルト】なし
【コース(セット)】6,600円~
【鶏メモ】八ヶ岳名水赤鶏など