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鳥型や昆虫型ドローンが実戦配備される映画「アイ・イン・ザ・スカイ」のリアル!!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
無人偵察機のドローン・パイロットが決断を迫られる!?

ドローンによる滑らかでダイナミックな空撮が一般に広まったのは、つい最近のこと。地上でコントロールされたカメラ搭載の"マルチコプター"が映し出す独特の浮遊感溢れる俯瞰映像が、アメリカのインディーズバンド、OK Goが千葉のロックウッドステーションで撮影したミュージックビデオ"I Won't Let You Down"(14)によって世界中に拡散したことは記憶に新しい。同時に、ドローンが最新空撮器機として猛スピードで認知度をアップして行く傍ら、開発途上分野の宿命で、制御不能に陥ったドローンの落下事故が相次いで報告される。

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しかし、空撮と言えば使用料が高額なヘリコプターに頼るしかなかった映画界では、コストパフォーマンスに優れたドローンに触手が動くのは必然で、近く公開されるPOV映画のパイオニア「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(99)の続編「ブレア・ウィッチ」(16)でも、舞台となる恐怖の森の上空へとドローンが舞い上がる。また、大根仁監督は「SCOOP!」(16)のオープニングシーンでドローンを夜の東京の空へと一気に上昇させ、地上で展開する人間の魑魅魍魎を俯瞰でとらえてみせた。

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一方、戦争では兵器としての無人飛行機が古くから開発、研究されて来た。今や、アメリカ軍の無人航空機がアフガン攻撃やイラク戦争で実戦投入されていることを知らない人はいない。そこで、ドローン戦争の最前線にフォーカスするのが「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(15)だ。アイ・イン・ザ・スカイ=空の目とはよく名付けたもので、物語は、ナイロビのアジトに潜んでいる凶悪なテロリストが自爆テロを計画していることを察知した米英両軍が、ナイロビ上空6000メートルに待機中の無人偵察機、MQ-9リーバーから、ピンポイントでアジトを爆撃するか、否かで決断を迫られる戦争映画にして心理サスペンスだ。

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この映画が凄いのは、上空からの偵察に止まらず、新型ドローンがさらに地上まで降下していく点。注目すべきは2つの新兵器だ。まず、ハチドリ型ドローンの"ハミングバード"が遠隔操作によって無人偵察機では偵察不能なアジトの窓際までアプローチし、室内の様子を撮影した後、次に"ハミングバード"でも不可能な至近距離映像を撮影するため、より小型の昆虫型ドローン、その名も"虫"が、テロリストたちの顔や動きを克明にとらえるのだ。遠目では鳥や虫にしか見えない極小ドローンが、羽をバタバタさせながら接近して行く場面がもたらす、バレそうでバレない半ば盗撮的なスリルは観る側を緊張させるし、すでにどちらも実用化されているというから、ドローンの進化速度は想像を超えていると言わざるを得ない。

しかし、操作する側は何らダメージを被らず、遠隔操作で大量殺戮が可能なドローン戦争は、倫理的な問題を孕んでいることも事実だ。「アイ・イン・ザ・スカイ」でも、小型ドローンによる映像を受けて上層部が下した爆撃指令を、無人偵察機を操縦するドローン・パイロットが実行するかどうかで精神的に追いつめられていく姿がリアルに描かれる。映像の世界では新たな世界を開拓しつつあるドローンだが、戦場では便利な殺戮手段として機能してしまうアイロニックな現実。まして、それを映画が描くという2重に皮肉で今日的なドローン事情。それが「アイ・イン・ザ・スカイ」のサブタイトル"世界一安全な戦場"に集約されている。

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」12月23日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

(C) eOne Films(EITS) Limited

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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