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帝京大、8連覇なるか。東海大はスクラム&局地戦で勝負? 大学選手権決勝プレビュー【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
昨年度と同カード。東海大学が青で帝京大学が赤。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

日本ラグビー界にとって、8連覇という数字は間違いなく金字塔だ。

新日鉄釜石や神戸製鋼が全国社会人大会と日本選手権でマークしたのが7連覇。いずれも20世紀になされた偉業である。情報拡散力が高まり戦術略や肉体強化のプログラムがあちこちに流布される現代にあっては、半ば不可能に近い数字とされている。

2016年度。学生王者を決める大学選手権において、帝京大学がその8連覇に挑む。2017年1月9日、東京の秩父宮ラグビー場で東海大学と決勝戦をおこなう。

1月2日に秩父宮であった準決勝時の発言などから、帝京大学の脅威、対抗馬となる東海大学勝利の鍵を探る。

特別な時間軸って、何?

帝京大学は連覇を始める以前から、ウェイトトレーニング器具、栄養指導、医療スタッフなど、選手の身体作りにまつわるパートを強化。まずは肉弾戦を制する力と技能を引き上げ、戦力にも恵まれる近年は多彩な仕掛けで主導権を握る。

某ライバルチームの監督は言った。

「帝京大学は特別な時間軸を持っている。相手が弱った時間帯に、突き放す」

言い得て妙である。

今度の準決勝でも後半7、13、18分とトライを重ね、しぶといタックルを繰り返す天理大学を35―5と突き放した。

試合終盤には相手のフルバックであるジョシュア・ケレヴィに防御網を破られるなどし、42―24とやや追い詰められはした。それでも要所での集中力、得点を促した激しい肉弾戦は見事である。

ロケットのタックルを重ねるロックの飯野晃司副キャプテンは、決勝に向けこう言い残した。

「1人ひとりがいかにタックルへ行くか。その部分は、チームとして上がっている」

局地戦とメンバーチェンジ

グラウンド中盤でパスを振りながら、防御が前がかりになるやキックで陣地を獲得。勘所を得たエリア獲得で、フォワード陣の力感を得点に直結させる。スタンドオフの松田力也副キャプテンが「4年間、積み上げてきたものを全部、発揮する」と語る…。そんな王者に対し、東海大学は局地戦に活路を見出すか。

帝京大学と同じくフィジカリティ強化に注力してきた東海大学は、2日の準決勝で同志社大学を74―12で圧倒した。

敵陣の深い位置に入れば、フォワード陣がゆっくり、ゆっくりとボールキープ。ランナーとサポート役が束になってラック(ランナーが寝た状態の密集)を作るだけでなく、ラック連取のさなかに複数でモール(ランナーが立った状態の密集)を形成する「リモール」も採用した。

フォワードが8対8で組み合う攻防の起点、スクラムでも全体のまとまりと圧力をアピールする。

また木村季由監督は今季終盤、レギュラー要員の再編成を断行した。

「自分たちの目指す形に対して、一番フィットしているメンバーを…」

司令塔のスタンドオフには、フランカーからコンバートして間もない眞野泰地が入った。眞野とともにゲームを動かすスクラムハーフの湯本睦副キャプテンは、「タックルなどで身体を張れる選手が10番(スタンドオフ)にいるのは心強い」。組織防御を貫くなか、突破役としても秀でるナンバーエイトのテビタ・タタフが剛腕を活かしてジャッカル(密集で相手の球を絡み、奪いにかかるプレー)を繰り出す。

かねて仕事量を課題視されていた身長190センチのテトゥヒ・ロバーツをロックに入れ、空中戦であるラインアウトに安定をもたらした。

スコアのイメージは同志社大学戦に

マイナーチェンジも交えた強みの明確化は、同志社大学戦での前半31分の得点をもたらす。

蹴り合いのさなかにラインアウトからの攻撃権を得ると、左右に展開するなか鹿尾貫太(躊躇なく頭から突っ込むタックルの鬼でもある)が一気にラインブレイク。敵陣22メートル線上へ進むと、フォワード陣が例のボールキープを重ねる。

リモールを繰り出し、同志社大学の反則を誘発。ここでペナルティーキックを得ると、選択できる複数のプレーからスクラムをチョイス。押し切った。ここでスコアは26―12。以後、同志社大学は無得点に終わった。

かたや帝京大学は、天理大学戦ではフェーズが重なった際の防御の連携やスクラムに課題を抱えていた。初優勝を目指す東海大学の強みが、盤石に映る王者の数少ない亀裂をこじ開けるかもしれない…。判官びいきにとっての見どころは、その一点になりそうだ。

スクラムの最前列に入る右プロップの渡邉隆之副キャプテンは、同志社大学戦後、チーム戦法や得意のスクラムをこう話していた。

「ポゼッション(ボール保持率)を上げることをテーマに、リモールも…。相手の嫌がることをやろう、と。前に出たら自分たちはリズムに乗れる。モール、スクラムは強みにしているところ。ここで引かずに行きたい」

「本物の努力」

もっとも帝京大学は、彼我の現状を十分に把握しているだろう。

まず天理大学戦でやや苦しんだスクラムについては、先頭中央のフッカーに入る堀越康介が「スクラムはフロントだけで組むのではないので、8人でコネクションを取っていきたい」と点検。決勝戦へはフランカーとして出場の飯野副キャプテンも、「押せていた部分もあった。最初(組み合う瞬間)が良かったら、上手くいく」と本番を見据える。

24失点した準決勝を終え、飯野副キャプテンは「決勝を控えた準決勝。1人ひとりは意識を持って戦えたと思っているんですが、チームになった時に緩さのようなものが出たのではないかと思います」とも話す。つまり、決勝戦は準決勝と違ったマインドで挑むという意味か。

「相手がいて始まるスポーツ。それ(相手のしぶとさ)で自分たちが成長できる。今回の試合では、それが一番大きかったと思います」

東海大学が強みを発揮するためには、陣地の取り合い、球の奪い合いといった局面も制したいところ。もっともそれらのせめぎ合いは、帝京大学にとっての十八番でもある。最注目ポイントのひとつであるタタフのジャッカルには、フランカーの亀井キャプテンが目を光らせる。

「絡んだら離さない、という感じですね。セカンドマンレース(どちらが先に接点への援護につくか)で、相手よりも速く…。絡ませない!」

8連覇という数字については、「それは結果がついた後の話。僕自身、今年のチームで結果を残したいので」。果実を得るための魔法は存在しない…。競技人生を通して、そう実感してきたのであろう。

黒子役のリーダーはこうも言う。

「1年間、どちらが本物の努力を積み重ねてきたかが、勝負を分けると思う」

何度でも強調する。

「積み重ねてきた努力が勝ちに繋がる努力だったかどうかは、結果が出ればわかる。春からずっと、本物の努力をしようと言ってきたので…」

局地戦の東海大学か。総合力の帝京大学か。高質なフィジカルバトルが期待されるファイナルマッチは、9日の14時、キックオフ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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