Yahoo!ニュース

満月の日に考える。『宇宙戦艦ヤマト』の攻撃をホントにやったら、月は「いつも満月」に!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

2月6日は満月。

2023年の満月のなかでは、地球からいちばん遠い満月で、いちばん小さく見える。

最大の満月(8月31日のスーパームーン)と比べると、見た目の直径は12%も小さい。

マイクロムーンともいうらしい。

そんなことを思いながら月を眺めていると、マンガやアニメで月がいろいろヒドイ目に遭っていたのを思い出した。

『暗殺教室』は、月の7割が蒸発するという事件から幕を開けたし、『戦姫絶唱シンフォギア』では月を壊して破片を地球に落とそうとしたヒトがいたし、『ドラゴンボール』に至っては、満月の影響で悟空や悟飯が暴れ始めたという理由で、月が消滅させられていた!

身近な天体だからこそ、月はいろいろと迷惑をこうむっているのだ。

なかでも筆者が忘れがたいのは、1970年代のアニメ『宇宙戦艦ヤマト2』である。

74年にテレビ放映され、77年の映画化(テレビ全26話の総集編)で大ヒットとなったシリーズの第2作。

新たな侵略者「彗星帝国」が、地球人に自分たちの力を見せつけるために月を砲撃し、ドロドロに溶かしてしまったのだ。

月にとっては大迷惑だが、空想科学的にはちょっと気になる。

月を溶かすとはどんな威力の攻撃だったのか?

◆月の温度はいったい何度?

このときの侵略者は、ズォーダー大帝率いるガトランティス帝国。

移動要塞「彗星帝国」で宇宙の星々を蹂躙し、ついに地球に迫った。

彼らは「無条件降伏せよ。さもなければ、われわれは直ちに汝らの母なる星・地球を抹殺する」と通告。

地球人たちが動揺していると、ズォーダー大帝は「われわれの力をいま少し見せつけてやろう」と言って、彗星帝国から月に向かって光線を連射した。

すると月の表面で次々に爆発が起こり、地割れが走って全域が火球に包まれ、やがてオレンジ色に……!

この驚くべき事態について、地球の大統領府係官は「敵の要塞の集中砲火を浴び、(月が)全域にわたって白熱化しております」と報告していた。

物体を熱すると、温度が上がるにつれて、暗い赤→明るい赤→オレンジ色→黄色→白→青白と色が変わる。

劇中ではオレンジに見えたが、「白熱化」と言っているところから、その後も熱せられたのかもしれない。

月を覆う玄武岩は1100度で溶け、1300度以上になると白熱するから、月はそこまでの温度になったのだろう。

これに必要なエネルギーは、溶けた深さによっても決まるが、『2』のこの場面を観察すると、彗星帝国は一方向からしか光線を浴びせていないのに、月は反対側まで溶けている。

これはすなわち、月を丸ごと溶かし切ったということではないか!

これはもう、大変なエネルギーが注ぎ込まれたことだろう。

月の表面は、昼の部分が110度、夜の部分が-170度だが、1m以上の深さになると-30度で昼も夜も変わらない。

ここから、月の温度を-30度としよう。

月の重量は7400京t(京は兆の1万倍)で、これだけの岩石の温度を、-30度から1300度へ、すなわち1330度も上昇させるエネルギーとは9穣J(穣は京の1兆倍)。数字で書けば90000000000000000000000000000Jである!

◆いつも満月になる!

これはいったいどれほどのエネルギーなのか?

たとえば、ビキニ環礁で行われた水爆実験と比較するなら、彗星帝国が放ったエネルギーは実験で使われた水爆の1兆4300億発分だ。

現在、地球上にある核兵器は、ビキニ水爆の200発分といわれ、それでも地球を滅ぼすのに充分とされている。

彗星帝国はその72億倍の威力の光線をぶっ放したのだ。

こんなものが地球に向けて放たれたりしたら、80億人の人類は、1人あたりビキニ水爆180発分の被害を受けてしまいます。めちゃくちゃオソロシイ!

だが、話はこれで終わらない。

1300度にも熱せられたりしたら、月は自ら光を放ち始める。

月が三日月→半月→満月と形を変えていくのは、太陽の光を反射しているからだ。自ら光を放ったら、いつも満月!

1300度の満月から地球に届く光の明るさは520ルクス。

読書や勉強にちょうどいい300~500ルクスより明るいが、「わ~い。電気代が節約できる」などと喜んでいる場合ではない。

これは「夜がない」ということだから、動物も植物も生活リズムを崩し、生態系はメチャクチャになってしまう。

ただし、もっとヒドイ目に遭う人たちがいる。

誰あろう彗星帝国の面々だ。

劇中の描写を見ると、彼らは月から1千kmほどしか離れていない。

この至近距離では、表面温度は980度に大上昇!

いくら宇宙人でも、これに耐えられるのか?

見せしめも、やりすぎると自分が痛い目を見るということで、ズォーダー大帝らにはよい戒めとなってほしい。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事