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新手カレーラーメン採用の藤井聡太王位(20)華麗な決め手で二十代初戦勝利 王位戦七番勝負第3局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月20日・21日。兵庫県神戸市・中の坊瑞苑において、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第3局▲豊島将之挑戦者(32歳)-△藤井聡太王位(20歳)戦がおこなわれます。棋譜は公式ページをご覧ください。

 20日9時に始まった対局は21日17時39分に終局。結果は84手で藤井王位の勝ちとなりました。七番勝負はこれで藤井2勝、豊島1勝となりました。

 第4局は8月15日・16日、佐賀県嬉野市・和多屋別荘でおこなわれます。

 7月19日に誕生日を迎えた藤井王位。十代最後の一局に続いて、二十代最初の一局も白星で飾りました。今年度成績は10勝3敗です。

一歩千金、華麗な収束

 豊島挑戦者先手で角換わり腰掛銀に。第1局、第2局と同じ戦型であり、この七番勝負は角換わりシリーズになった感があります。ただし本局は前2局と比較すると、互いに十分に組み合う進行となりました。

藤井「ただちょっと経験の少ない形になって。ちょっとそうですね、序盤から難しい展開になってしまったかなと思ってました」

豊島「まあ一局の将棋というか、互角に近い形かなと思いました」

 40手目、先に仕掛けたのは後手番の藤井王位でした。

藤井「△6五歩から仕掛けていったんですけど、ちょっとそうですね、▲6四歩から反撃されてしまうのを軽視していて」「△6五歩▲同歩△同桂に▲6四歩打たれてちょっと、苦しい展開にしてしまったと思うんで、その前後でもっといい指し方を探さなければいけなかったような気がします」

豊島「ちょっとなんかうまくいくかわからなかったんですけど。▲6八金型だと部分的にはある筋ですけど」

 藤井王位が先に銀桂交換の駒得をするものの、豊島挑戦者は反撃に桂を打ち返して難しい進行です。

藤井「▲6六桂まで進んでみると、ちょっとそうですね、自信がないのかなと思いました。▲6六桂の局面で(1時間21分ほど)長考したんですけど、思わしい手がわからなかったので。ちょっと本譜では苦しいかなと思ってやっていました」

豊島「▲3七桂跳ねてるので、それを狙われる形があるので。まあちょっとどうなってるのかわからなかったですけど」

 50手目、藤井王位が豊島陣の桂を狙いながら銀を打ち込んだところで1日目指し掛け。豊島九段が51手目を封じました。

豊島「ちょっとわからなかったです」

 明けて2日目。51手目、豊島挑戦者の封じ手は、じっと桂取りを受ける飛車寄りでした。

豊島「△4八銀はでも打たれたら▲3八飛車ぐらいしかしょうがないかなと思って。そんなにはっきりまずいと思ってなかったので」

 藤井王位が7筋の歩を進めていく間、豊島挑戦者は藤井陣の金を取って、さらにはと金を作ります。

藤井「仕方がないかなと思ってやっていたんですけど、形勢としてはやっぱり苦しいのかなとは思っていました」

豊島「(56手目)△7六歩の局面でけっこう手が難しいような気がしたんですけど」「最初はいけるつもりでやってたんですけど、考えてるうちに自信がなくなったというか」「ちょっとどこでまずくなったか、はっきりわからないんですけど、そうですね。うーん。仕掛けの応対がまずかったか(57手目)▲6三歩成のところで別の手を選ぶ感じか」

 58手目、藤井王位が玉を早逃げしたところで2日目昼食休憩に入りました。そこで話題を呼んだのが、藤井王位が注文したカレーラーメンです。

 藤井王位はかつて対局時の食事について問われ、次のように答えています。

藤井「自分はけっこう力戦派なので、毎回変えてるんです。棋士の中にはけっこう定跡派で、定跡を確立されている方もいると思うんですけど、自分は力戦派なのでなんというか、あまりこだわりなく頼んでます。見ているとけっこう2タイプに分かれている印象があって。例えば永瀬王座、丸山九段がやっぱり定跡派。羽生九段とかわりと力戦派だという印象なんですけど」

 盤外の注文でも毎局のように話題を呼ぶのが藤井流です。対しておやつはフルーツの盛り合わせが定番の豊島挑戦者は、どちらかといえば定跡派にカテゴライズされそうです。

 豊島王位は昼食休憩の1時間をはさんで、なお大長考。そして59手目、3時間3分の消費時間で、角を成りました。

豊島「勝負できる順がわからなかったんで。角成らないとしょうがない気もしたんですけど。▲1五歩とかだとやっぱりなんかあまり効いてないんで」

 藤井王位リードで迎えた終盤。豊島挑戦者は相手玉の大手門、歩頭に桂を捨てる勝負手を放ちます。

藤井「▲2四桂と打たれるのはちょっと予想していない手だったので、わからないなと思ってやっていました」

豊島「負けかなと思ったんですけど。そうですね、でもなんか他に、あんまりかんばしい手はないかなと思いました」

 藤井玉もかなり危ない形になったかとも見えました。しかし例によってそこからの指し手は正確無比。わずかなリードを拡大し、勝勢を確立します。藤井王位は1時間少しを残して時間でも余裕がある一方で、豊島挑戦者は持ち時間8時間を使い切り、一手60秒未満で指す一分将棋に入ります。

 80手目。藤井王位は自陣の飛車を捨てて、相手のと金を取りました。解説の上村亘五段は驚きの声をあげます。

上村「おお、そんなぴったりの手が。ありましたね、歩が」

 ここで入手した1枚の歩がまさに「一歩千金」。豊島玉の詰みに役立ちます。

上村「これは華麗な手がありましたね」

 盤外ではカレーラーメン。盤上では華麗な決め手で締めた藤井王位。いつもながらに美しい勝ち方でした。

 84手目、藤井王位が王手で金を打った局面で豊島挑戦者が投了。熱戦の余韻を伝える、美しい投了図が残されました。

 20代も恐るべき勢いで勝ち続けるであろう藤井王位。通算成績はこれで275勝55敗(勝率0.833)です。

 8月15日、16日におこなわれる次戦に向けて、両対局者は次のようにコメントしています。

藤井「第4局、しばらく先になるので、しっかり準備して、コンディションを整えて臨めればと思います」

豊島「しっかり準備してがんばりたいと思います」

 これからも長く続くであろう両者の対局。通算対戦成績は現時点で藤井15勝、豊島11勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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