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遅咲きのオールドルーキー今泉健司新五段(46)デビュー以来6年目で通算100勝を達成し昇段を決める

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月18日。大阪・関西将棋会館においてC級2組順位戦1回戦▲今泉健司四段(46歳)-△田中悠一五段(35歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時29分に終了。結果は121手で今泉四段の勝ちとなりました。

 今泉さんは2014年、プロ編入試験に合格。2015年4月に四段としてデビューし、以来通算成績は100勝77敗(0.565)。四段昇段後100勝という昇段規定を満たして、このたび五段昇段を達成しました。

今泉四段、山あり谷ありの将棋人生

 今泉さんは奨励会で26歳の年齢制限を迎え、夢やぶれて退会。その後、アマ棋界で好成績をあげ再起。奨励会編入試験に合格して、4期限定で三段リーグに再チャレンジします。

 今泉四段と田中五段は両者三段時、2007年度後期三段リーグ8回戦(全18回戦)で対戦しています。

 その時、今泉三段は34歳。一方の田中三段は22歳で、6勝1敗の星をあげ、昇級レースを快走していました。

 今泉さんは当時の模様を著書につづっています。

7回戦を落として3勝4敗と黒星が先行したぼくは、次の8回戦で思い出すのもいやになるような醜態をさらした。

相手は田中悠一君(現五段)。

(中略)ぼくはジリジリと差を詰められ、ついに投了に追い込まれた。大逆転負けだと思ったぼくは、頭に血が上ってしまった。

「ひどすぎるわ。この将棋を負けるか」

捨て台詞とともに、ぼくは盤面をグシャッと崩して対局室を出た。

この瞬間、すべてが壊れてしまった。

(中略、自暴自棄になってパチスロにはまり)三段リーグの成績は当然ボロボロになった。2期目は6勝12敗。

この期は田中悠一君が四段に昇段した。ぼくは彼に無礼を詫びた。

出典:今泉健司『介護士からプロ棋士へ』

 今泉さんは再チャレンジの三段リーグも挫折。再び社会人となり、そしてまた再起。再々チャレンジのプロ編入試験で合格し、41歳で棋士となり、四段昇段を果たしました。

 今泉四段と田中五段は2017年度C級2組順位戦2回戦で対戦しています。両者はともに振り飛車党。そこで先手の今泉四段は3手目に飛車先の歩を突いて居飛車で臨むことを宣言しています。

 田中五段は角道を止めずに三間飛車に。以下は序盤早々から乱戦となって、83手で今泉四段が快勝しています。

 今泉四段はこの期、途中まで7連勝で藤井聡太四段(当時)と並んでトップを並走していました。しかし8回戦の牧野光則五段戦、最終盤で勝ちを逃して逆転負け。最終的には8勝2敗と好成績ながら、順位の差で惜しくも昇級を逃しています。

 もし2018年時点で今泉四段がC級2組からC級1組に昇級していれば、同時に五段にも昇段していました。

 藤井四段は1期でC級1組昇級を果たし、15歳6か月で五段昇段を成し遂げています。

 今泉四段と藤井現七段の将棋人生は、どこまでも対照的です。

ついに五段昇段

 今泉四段は2020年6月1日、ヒューリック杯棋聖戦一次予選で星野良生四段に勝利。通算99勝目をあげました。五段昇段まではあと1勝。そして同日おこなわれた出口若武四段戦が最初の昇段チャレンジとなりました。しかし。

 今泉四段は中盤で「二手指し」の反則負け。痛恨の敗戦となりました。

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 そして本局、田中悠一五段戦は、2度目の五段昇段チャレンジとなりました。

 3年前の順位戦と同様に、先手は今泉四段。そして初手に飛車先の歩を突いています。振り飛車党の今泉四段が、前回と同様に、居飛車で臨むことを宣言しました。

 対して田中五段の作戦は四間飛車。角交換から両者ともに突っ張った指し回しで、二十数手目にして緊迫した戦いに突入しました。

 見応え十分の攻防の中、形勢は揺れ動き、二転三転、四転五転します。

 両者ともに6時間の持ち時間がほとんどなくなった深夜の最終盤。勝敗の行方もまた、きわどいところで揺れ動きました。

 最後は今泉四段がピンチを乗り切り、田中玉を詰まして、大熱戦にピリオドが打たれました。

 今泉さんは現代将棋史上最年長の41歳で四段に昇段し、キャリア6年目、46歳で五段昇段を果たしました。

 かつては昇段規定が今より厳しかったため、戦後でも今泉五段より年長で五段昇段を果たした棋士はいます。そうであっても、46歳での五段昇段は近年ではもちろん異例のことで、偉業と言うべきでしょう。

 加藤一二三九段や藤井聡太七段のように、14歳で四段、15歳で五段に昇段する早熟の天才もいます。一方で今泉新五段のように、紆余曲折を経て41歳で四段、46歳で五段に昇段する遅咲きのオールドルーキーもいます。

 今泉五段は最近のインタビュー記事で、次のように語っていました。

「自分の人生は、つまらない人生だとずっと思っていました。そしたらね、つまらないことばっかり起きた。30代後半になって、介護現場でいろいろな人の思いに触れたり、周りの人に助けてもらって感謝したり。一生懸命やっているうちに、けっこう人生って面白いじゃんと思った。そうしたら、面白いことばっかり巡ってきたんです」

出典:『週刊女性』2020年6月23日号

 今泉五段は7月3日に誕生日を迎え、47歳になります。

 もし今期C級2組順位戦で昇級を果たせば、1958年度に藤川義夫六段(没後追贈八段)が達成した50歳での昇級に次いで、史上2位の年長記録となります。今泉五段の今後のさらなる活躍に期待しましょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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