米中貿易戦争でトランプ大統領が軟化?「ファーウェイへの米製品販売だけは再開」5G全面排除は変わらず
米中貿易協議を再開
[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領は29日、20カ国・地域(G20)大阪サミット後の記者会見で3250億ドル(約35兆659億円)分の中国製品への追加関税を先送りして米中貿易協議を再開する考えを示し、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)についてこう語りました。
――中国はファーウェイについての禁輸措置の解除を求めている。ブラックリストから外すよう求めている
トランプ大統領「たくさんの人を驚かすことになるが、一つだけ解除する。ファーウェイの製品に使われている米国製のプロダクトを売ることだ。ファーウェイに米国製品を売ることを認める」
「私はシリコンバレーに対して彼らのプロダクトをファーウェイに売ることを許可した。これまでと同じように販売できなければシリコンバレーのテクノロジー企業は不満だからだ」
――ファーウェイが米国企業に製品を販売することはできるのか
「米国企業がプロダクトをファーウェイに販売できる。国家の緊急問題にかかわらないプロダクトについてだ。シリコンバレーに彼らのプロダクトをファーウェイに販売するのを認める」
「ファーウェイは複雑な問題だ。ファーウェイ問題は最後まで残る」
――大統領、あなたはファーウェイを商務省の「エンティティー・リスト」から外すと言っているのか
「そうじゃない。我々はこれからファーウェイについて話し合うが、米国企業のプロダクトを供給するということだ。米国企業は何百億ドル相当のプロダクトを作り出している」
「しかし我々は中国の習近平国家主席とはまだ協議していない。国家安全保障上の問題がある。それは私にとっては最優先だ。とても重要だ」
――ファーウェイをエンティティー・リストから外すのか
「それについて話し合っている」
――ファーウェイがリストから外される可能性があると言っているのか
「それについては今、話したくない。ファーウェイには米国や情報機関などいろんな問題が絡んでいる。我々はファーウェイについて多くの情報を持っている。今は適切ではないので、話したくない」
ファーウェイのビジネスは11兆円
ファーウェイと関連企業68社は5月15日、米国製の部品や材料を25%以上含むプロダクトを輸出する際には許可が必要とするエンティティー・リストに掲載されました。しかし実際には輸出申請は却下されるのが普通です。
米グーグルはファーウェイにオープンソース以外のハードウェアやソフトウェア、技術的なサービスの提供を停止すると報じられました。アップデートされたスマホ用OS(オペレーティングシステム)アンドロイドや最新アプリが使えなくなると、スマホ販売は致命的な打撃を受けます。
ファーウェイのスマホや通信会社向け通信機器には京セラ、村田製作所、住友電気工業など日本企業100社以上の部品が使われており、昨年の購入額は66億ドル(約7121億円)で、今年は80億ドル(約8632億円)に達する見込みだそうです。
ロイター通信によると、ファーウェイは昨年、海外企業から700億ドル(約7兆5527億円)の部品を調達しており、クアルコムやインテル、マイクロン・テクノロジーなど米国からは110億ドル(約1兆1868億円)のプロダクトを輸入しています。
1050億ドル(約11兆3290億円)にのぼるファーウェイのビジネスがトランプ大統領の禁輸措置によって揺らいでいるそうです。
米紙ニューヨーク・タイムズはしかし、トランプ政権の禁輸措置にかかわらず、インテルやマイクロンを含む米国の半導体メーカーが生産地を米国から海外に変更して数百万ドルの製品をファーウェイに輸出していると報じたばかりです。
トランプ大統領の今回の決定は現状追認に過ぎないのかもしれません。
5G参入からの全面排除は変わらず
米中貿易協議の行方もさることながら、問題の核心はファーウェイを次世代通信規格5Gネットワークから全面排除するか否かです。
アングロサクソン系電子スパイ同盟「ファイブアイズ」の米国、オーストラリア、ニュージーランドに加えて日本が全面排除の方針を打ち出す中、英国や欧州連合(EU)加盟国は柔軟な態度を示しています。
保守系の英紙デーリー・テレグラフは4月下旬、英国家安全保障会議(NSC)で議長のテリーザ・メイ首相が「ファーウェイが英国での5Gネットワーク構築に関し、アンテナや他の『重要ではない(ノンコア)』インフラストラクチャーのような一部を支援することを限定的に認める」方針を伝えたとスクープしました。
「コア」な部分とは、センシティブなデータを扱ったり、データ通信を管理したりするコントロールパネルを指します。メイ首相は、機密扱いになっているNSCの内容を記者に漏らしたのはギャビン・ウィリアムソン国防相と断定して更迭する騒ぎになりました。
5Gに詳しい日系企業のエンジニアによると、5Gネットワークはシステムごと納入するようになっており、分け売りはできないそうです。アンテナといえども制御装置と一体で、ノンコアとコアに分けることはできないと指摘しています。
その一方で「トランプ大統領のファーウェイ外しは嫌がらせとしか思えない」との見方を示しました。
進む中国と英国の大学協力
ファーウェイはノーベル賞受賞者を輩出している英名門ケンブリッジ大学から車で20分の村に最先端研究・開発センターと半導体製造センターをつくることを計画。事務用品の卸売業者の跡地2.2平方キロメートルを3750万ポンド(約51億3580万円)で購入しました。
この建設予定地の近くにはソフトバンクグループの孫正義社長が2016年7月に約3.3兆円で買収した英半導体設計大手ARMがあります。中国と英国は大学の研究・開発を通じた協力を強化しており、英国で5Gを研究している多くの学者がファーウェイの支援を受けています。
女子サッカーのワールドカップ(W杯)で準決勝に進出したイングランド代表の主将ステフ・ホートン選手がボーダフォンのマンチェスター支店からホログラムになって約300キロメートル離れたニューベリーに現れ、サッカーを11歳の女の子に教えたことがあります。
昨年9月のことです。5Gは4Gの100倍以上のスピードで動くため、テレビ電話どころか、ホログラム通話が可能になります。5Gの実用化はもう目の前まで近づいてきています。
しかしファーウェイの5G参入を認めるとスパイやインフラ攻撃を目的としたマルウェアを埋め込まれた場合、防ぎようがないのはトランプ大統領が指摘する通りです。
それとも5Gも米中貿易協議の取引材料に過ぎないのでしょうか。
安倍晋三首相は日米同盟とサイバーセキュリティー、そして日本経済を天秤にかけながら慎重な状況判断が求められているのは言うまでもありません。
(おわり)